管理職任用における人材要件策定の考え方

2023.06.01(更新日:2024.04.01)

管理職任用における人材要件策定の考え方

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私たちが提供しているアセスメントサービスの特性上、管理職層の昇進昇格時の判定基準についての相談を受けます。

自社内で作成したものもあれば、コンサルティング会社のサポートを受けて作成したものもありますが、現在運用している人材要件に対する問題意識をお持ちの人事担当者が増えています。

重要なポジションを誰に任せるかという経営の意思が的確に表現されているか、人選の際の運用に効果的に連携できているかなど、人材要件をメンテナンスすることが、リーダー人材を育むための起点であると考えます。

人材要件策定の2つのアプローチ

経営にとって重要な人選を行うために、多くの企業が人材要件を設定しています。人材要件の策定方法に唯一絶対の正解はありませんが、多くの場合、2つのアプローチから検討を進めていきます。一つ目は、理想の人材像を表現し、そこから要素分解していくという方法です。もう一方は、各ポジションにおいて実際に活躍しているハイパフォーマーの要素を抽出し、そこから統合化していくという方法です。どちらが正しいというものではないため、それぞれの違いと、共通する重要な要素を理解しておくことが重要です。

前者の「理想の人材像」から要素分解するパターンの良さは、人材像という抽象度の高いものを包括的に表現できるという点です。どのような人物なのかという、総体としての状態や成果がイメージしやすいという利点があります。一方で、しっかりと要素分解ができていないと、なんとなくわかったが、実際に何をどうすればよいのかが社員もイメージできず、結果として能力開発や評価に活用できないなど、具体的なアクションに繋がらないということが起こり得ます。

後者の「実在のハイパフォーマー」から要素を抽出するパターンの良さは、より具体的かつ自社の実態にあった項目が設定できるという点です。具体的に為すべきことがイメージしやすいという利点があります。一方で、要素の総体が全体にならないように、部分にフォーカスしすぎてしまうと、リーダーにとって重要な観点が抜け落ち、意図する人材が育たないという問題が起こり得ます。

両方に共通して大切なことは、活用目的に応じた人材像の構造化の粒度です。役割と成果、必須項目と期待事項、行動と能力、知識と経験、マネジメント力とスペシャリティなど、人材定義に盛り込むべき観点を整理することが重要です。そのうえで、全社に一貫して盛り込むべき要素と、職種や職位によって変化する要素の概観を描いたうえで、それぞれのポジションにおける最も重要なメッセージを言語化しなければなりません。少なくとも、いきなり「●●力」「●●の経験」というような、部分に入り込まないことが肝要です。

管理職任用における要件設定の考え方

管理職任用の判定については、「新たな役割を遂行できるか」が最も重要なことであり、過去の実績や現職での経験は必ずしも重要な指標ではありません。特定資格での最低在籍年数や年齢という要件が暗黙のルールとして運用されているケースもまだまだ多いのが実態ですが、あくまで新たな役割に対する適性や能力にフォーカスしていくことが肝要です。

日本人にとっては、幼少期からの教育にはじまり、同学年の人間を同一のルールで運用することに慣れ切ってしまっています。経験年数がビジネスにおける重要指標であった時代では、年功序列を前提にした階層や年次による昇進昇格判定は最良の選択ではあったことは否定しませんが、本格的にヒエラルキーの発想から脱することが重要です。特に、管理職層にどのような人材を任用するかという意思決定は、組織の発展において多大なる影響を与えうるということを強く自覚しなければなりません。

大切なことは、プレイヤーから管理職へと役割が変わることで、新たに求められることは何かを明確にすることです。チームの方針を立てたり、メンバーを支援・指導したりという具体的な行動をイメージすることも重要ですが、任せる組織そのものが、どのような状態になっていくことを期待成果とするのかを規定することが起点になります。そのうえで、定めた期待成果を創出するために必要な観点について、必要条件と十分条件に分けて落とし込んでいくことが肝要です。

繰り返しになりますが、人材要件を策定する際に最初に押さえるべきは、管理者の具体的なタスクではなく、管理者が担うべき組織成果の規定です。その成果を創出するために年齢などの要素が必要不可欠ならば、任用の条件に盛り込む必要がありますが、大切なことは至極当然のことではりますが、「管理職はどのような役割とミッションを担うか」であり、要件(要素)はその後に導き出されるものだという点を再確認する必要があります。

要件ごとの判定方法および責任主体の明確化

管理職任用における評価の要件が決定した後は、誰が、いつ、どのように判定するかを決めておかなければなりません。「メンバーからの日々の信頼」や「専門スキルの習熟意欲」などを、私たちのような外部機関やツールで評価してほしいという相談を受けて困惑することもありますが、適正な評価者を定めることが重要です。

判定方法については、様々な手法から選択する必要があります。現職におけるパフォーマンスを判定するには、人事考課を軸とした所属長の判断が最良かもしれません。経営に関わる知識面であれば、該当する研修の受講履歴や知識テストなどの結果が妥当性の高いものになるでしょうし、組織へのコミットメントのような要素であれば、役員との面談が適切かもしれません。いずれにせよ、見極めたい要素に応じて、どのような方法論が適切かを明確にすることが重要です。


次は、責任主体の観点です。まず第一は候補者の所属長です。候補者の日常を最もよく知る存在であるため、膨大なデータを保有していると言えます。一方で、所属長の人を見極める力や候補者との関係性に大きく影響を受けるため、公平性の観点への配慮は必須になると考えます。何かしらの客観的な判断を組み合わせて運用することが、管理職任用における総体としての適正さに繋がるものと考えます。

私たちのような外部機関が介在することの価値は、まさに上述の公平性の観点であり、直接的な利害関係のない第三者による客観的な判定です。管理職候補者が置かれている環境はさまざまであり、業務内容や組織体制、マーケット動向などによりどうしてもバラツキが生じてしまうため、複数の候補者を、一定のモノさしで横並びに適性を評価することは現実的に困難です。評価の環境を揃えることで差異が明確になる要件については、特定のツールや手法を利活用することが効果的であると考えます。

リーダー適性を判定するための具体的指標

管理職任用においては、部門を問わず一定のマネジメントやリーダーシップに関わる適性や能力を見極めるべきだと考えます。ひと昔前に比べると、管理職という役割の権限は相対的に小さくなっているものの、逆説的に言えば、「肩書」で部下を動かすというスタイルは通用しなくなっているため、個としてのリーダーの素養はより強く求められています。

一方で、マネジメントというワードを狭義の意味合いで捉えているケースもあり、成果や部下を「管理・監督すること」への比重が大きいままになっていることがあります。当然、組織成果の創出は管理者が果たすべき責任ではありますが、そのためのスタイルはメンバーの主体性に軸を置くべきです。さらに言えば、預かる組織の状況や多様な価値観を持つメンバーに合わせて、自身の関わり方を変えられるかという柔軟さも重要であるため、その基盤となる能力(コンピテンシー)を見極めることが、管理職という役割を担えるかどうかの肝になると言えます。

創業来、多くの企業・組織における管理職層のリーダー適性を判定してきた実績から言えることは、優秀なリーダーには共通して持っている重要な能力が存在するということです。当然、性格などの個性は百人百様ですが、リーダーとして中長期に渡って成果を生み出せるかどうかを判定するためには、これらの能力の保有度合いを見極めることが重要です。未来の活躍や成果を100%保証するものとまでは言い切れませんが、外してはならない論点であると我々は考えます。

管理職任用時に見極めるべきリーダー適性の観点で、私たちが推奨しているコンピテンシーモデルを紹介します。「メンバーと共に新たな価値を創造し、組織を継続的に発展させる人」がリーダーであるという大前提のもとに体系的に整理したものです。

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うまく機能していなかった各社の事例(ケーススタディ)

事例1|人材像が旧態依然

一つ目のケースは、とにかく人材像が古く、掲げている管理職像が昭和の頃のままになっているというものです。具体的には、部下を管理統制することを是とする要素が多分に含まれるなど、硬直的な組織体の管理者を結果として求めてしまっています。人間の本質は変わらないものではありますが、今の社会で求められるマネジメントのスタイルは、一昔前の管理職の指示命令というものから、メンバー個々の主体的な動きの誘発へと変化しているはずです。人材要件から想起される管理職が活躍した先に、どのような組織の状態になるかを類推してみることが重要です。

事例2|多義・重複による運用破綻

二つ目のケースは、要件の中に多くの要素が盛り込まれすぎていて、期待メッセージがぼやけてしまっているというものです。あれもこれもが混在していることで、最も重視すべき要素が不明瞭になり、結果として浮かび上がってくる理想の管理職像は、「あらゆることがすべてできる人」になってしまっています。一方で、明文化された指標とは別で、運用上は重視したい要素をピンポイントで評価している場合もあり、管理職任用そのものが破綻してしまっていることがあります。様々な要件を設定する中において、最も重視すべきことは何かという優先順位づけを行うことが重要です。

事例3|曖昧な指標のため評価が困難

三つ目のケースは、設定した要件の粒が大きすぎて、判定が困難になっているというものです。リーダーシップや人間力など、人によって解釈が異なる大きなワードのままで運用した結果、評価そのものが難しくなることは当然として、任用された(されなかった)社員の納得感が得られず、結果としてその後の意図するアクションに繋がっていきません。曖昧さは関係者の不信感に直結します。人事サイドがわかったつもりで運用していても、言葉の定義を含めた丁寧な説明は必須です。できる限り、誰が見ても同様の人物なのかを想起できるレベルまで、解像度を高めることが重要です。

事例4|誰にも認知されていない

最後のケースは、そもそも経営・人事が期待している管理職像そのものが、関係者に認知されていないというものです。経験的に、このケースは非常に多いという実感です。かなりの時間や労力、コストを費やして作成した人材要件が、意外に知られていないことが多く、任用直前になって初めて知ったという声をよく聴きます。ここから言える問題は、管理職になるための意識的な準備ができていなかったということであり、評価の観点で言えば、後出しじゃんけんとなるため、管理職を目指す貴重な人材の意欲を無用に削ぐ結果となってしまっています。再度、社員の立場で、いつ、何を伝える必要があるかを押さえておくことが重要です。

 

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まとめ

  • いきなり細部に入らず、管理職が担うべき責任や期待から考える
  • 要件を洗い出した後は軽重を付けて優先順位を明確にする
  • 各要件を見極める方法と責任主体を明確にする
  • 年次や肩書ではなく、個人が持つリーダーとしての適性を見極めることが重要

この記事の著者

株式会社リードクリエイト 常務取締役 菅 桂次郎

2003年7月よりリードクリエイトに参画。人材マネジメント全般に関わるコンサルティング営業を経て、2014年よりアセスメントサービス全般の開発から品質マネジメントを中心に、リーダー適性を見極めるアセスメントプログラムの進化を目指して活動を展開中。

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