企業の人事担当者の皆様にとって、社員の成長速度やその要因は極めて重要なテーマであると思われます。それでは、人が成長するためには一体どれほどの時間が必要なのでしょうか。また、成長を促進するためにはどのような要素が必要なのでしょうか。
私たちリードクリエイトは、創業以来リーダーの成長を支援する事業を展開してまいりました。その中で、特に注目すべき現象があります。例えば、前年の昇進昇格時のアセスメントプログラムにおいて評価が振るわず、昇進昇格が見送りとなった受講者が、1年後の再受講において飛躍的な成長を遂げるケースです。この背景には何があるのでしょうか。
クライアント企業のご協力をいただき実施した追跡調査の結果、私たちはいくつかの興味深い発見をしました。本コラムでは、その調査結果を基に、社員が成長するために必要な時間と要素について考察してみたいと思います。
能力が定着するために必要な時間とは
「1万時間の法則」をご存じでしょうか。この法則は、ある分野で卓越したスキルを身につけ、一流として成功するためには、1万時間に及ぶ練習や努力、学習が必要だとする主張です。この概念の背景や根拠にはさまざまな説(そもそも根拠はないなど)がありますが、私自身の経験から言えることは、それなりの納得感を持つことができます。人事のプロフェッショナルとしてクライアントに助言できるレベルに達するためには、日々の継続的な学習が欠かせません。仮に、1日3時間の学習を毎日続けたとすると、約10年の歳月が必要となります。この時間の積み重ねが、深い知識と洞察力を培い、クライアントに信頼される専門家となるための基盤を築くのです。
また、リードクリエイトが事業の根幹に据えているリーダーシップやマネジメントに関わるアセスメント(能力評価)の観点では、評価結果の有効期限は「8〜24か月」であるという研究結果があります。これは、人が成長するという前提に基づき、能力が時間とともに変化することを示しています。
能力開発の考え方に沿うと、人が能力を高めるためには、無意識下にある自身の行動パターンを自覚(意識化)したうえで、意識的かつ意図的に新たな行動習慣を身につけ、無意識で実践できるレベルに定着させることができなければなりません。これらの一連のサイクルを経て、新たに習得した行動がもたらす効果が高まってはじめて能力が高まったという判断ができ、能力領域や個人差があるとしても、8~24か月の期間は必要であるという解釈が成り立ちます。
このように、「人の成長」の一環である「能力の伸長」には一定の時間が必要であることは理解されやすいでしょう。実際、各社が導入している昇進昇格時のアセスメントプログラムにおいて、前年は評価結果が振るわず昇進昇格が見送られた人物が、翌年の同施策において飛躍的な成長を遂げている事例が見られます。その理由や背景を探るべく、対象者本人にインタビューを行った結果について、以下に考察を述べたいと思います。
インタビュー結果と考察①『1年で評価結果が飛躍的に伸びる3つの可能性』
まず、評価結果が1年で飛躍的に変動する背景には、主に3つの要因が考えられます。第一に、私たちリードクリエイトとして極力避けるべきですが、初回の評価が適切でなかった可能性です。第二に、対象者が何らかの理由でその時点で力を発揮できなかった状態にあったこと。そして第三に、対象者が何らかの成長を遂げた結果による変化です。
要因①|評価ミスの可能性
対象者が前年と同様のパフォーマンスを発揮しているにもかかわらず評価結果が異なる場合、「評価そのものに問題がある」という可能性を無視することはできません。評価結果の信頼性は、プログラムの構造的要素と評価者であるアセッサーの専門性および客観性によって一定の水準が担保されているはずです。しかし、重要な意思決定を担う評価者の立場としては、常に謙虚に検証すべき課題です。 今回のケースでは、実際の対象者のプログラム内での観察結果に基づき、「評価ミス」の可能性やその影響範囲が極めて小さいという前提のもとで、さらなる検証を進めていきます。
要因②|自身の能力発揮を阻む
あらゆるアセスメントツールに共通していることですが、対象者が何らかの理由で行動を控えたり、意図的に回答を歪曲したりする場合、評価結果の信頼性は低下します。極端な例を挙げれば、回答用紙を白紙で提出する、シミュレーションで一切発言しないなどが該当します。これらの極端な事例は稀ですが、当日の体調やプライベートな問題が原因で、対象者が自分の能力を最大限に発揮できない状況も考えられます。しかし、今回のインタビュー調査から得られた情報に基づき、この要素の影響も低いと見なして検証を進めていきます。
要因③|純粋な成長
最後に、今回の主題である「純粋な成長」について考察します。1年前、アセスメントプログラムに全力で取り組んだにもかかわらず、期待される水準のパフォーマンスが発揮できなかったが、何らかの取り組みにより成長し、1年後に高い評価結果を得た事例です。実際の対象者へのインタビューでは、前年度の結果をどのように受け止め、何を意識して過ごしてきたのかを尋ねたところ、明確に「意図的かつ計画的な取り組みを実行した」という事実が浮かび上がりました。対象者は何を思い、どのような行動を取ってきたのでしょうか。
インタビュー結果と考察②『成長する人が持つ5つの特徴』
特徴1|フィードバックの受け止め方
対象者全員が口を揃えて「まずはフィードバックを真摯に受け止めた」と述べたことは非常に印象的でした。2日間のプログラムの最後に必ず実施されるフィードバック面談において、評価の専門家からフィードバックされた内容を、まずは真摯に受け止めようと考えたという趣旨の発言が驚くほど共通していました。多少のリップサービスが含まれていた可能性は否めませんが、これは受け手側の姿勢を示すと同時に、「この人たちのフィードバックなら受けてみる価値があるかもしれない」という信頼と期待を持っていただけるかどうかが、極めて重要であることを改めて感じました。
特徴2|健全な成長意欲と野心
昇格や給与の向上、成長、より大きな裁量での仕事への関与など、動機には個人差がありましたが、「このままでは終わりたくない」「もっと成長できる」といった健全な成長意欲や野心を率直に表明していた点は共通していました。自身の将来やキャリアと真摯に向き合うことを求められるアセスメントの機会が、内発的な動機を呼び起こし、成長のきっかけ(転機)となったことは、大きな価値を持つと言えるでしょう。
特徴3|自己理解(持ち味を活かして啓発課題を克服する)
対象者全員が徹底的に自分と向き合い、見つめ直すというプロセスを経ていたことも共通していました。この際、表面的な能力やスキルの出来不出来に焦点を当てるのではなく、リーダーという期待や役割を担ったときに無自覚で取っている行動パターンやメカニズムを内省し、自分自身への理解を深めていました。そのうえで、自身の持ち味を活かしながら啓発点を克服するというスタンスが重要であり、このプロセスを通じて自己信頼を高めていった形跡が見受けられました。
特徴4|日常業務における自己再定義と愚直な取り組み
新たな挑戦や特別な機会を闇雲に求めるのではなく、これまでの日常業務や会議における自身の役割を再定義し、そこに愚直に取り組むという姿勢を貫いていたことも共通していました。特に、リーダーに求められる変革創造の領域では、企画系の仕事や新しい環境に身を置くことが効果的とされがちですが、必ずしもそうではありません。むしろ「現在」にコミットし、日々の小さな目標に全力で取り組むことで、これまでとは異なる視点や役割で関与することが、結果としてリーダーとしての素養や能力を向上させるのです。 これまでと同じ日常であっても、その見え方が全く異なるものになるという感覚は、外部環境の変化ではなく、内面の変化によるものであると考えられます。
特徴5|上司の関わり
最後に、上司の関わりについて考察します。状況や対象者との関係性により一概には言えない面もありますが、共通していたのは「適度な距離感で見守ってくれていた」という点です。上司が「成長させたい」という思いから過度に関与すると、過保護や過干渉になりがちで、結果として部下の主体性を阻害してしまうことがあります。 目的と期待値を伝えた後は、具体的な指示を与えるよりも、「やってはならないことをやっているときに全力で止める」程度の関わり方が、結果として部下の主体性や挑戦意欲を引き出すことに繋がるのです。このアプローチが、成長を促進する上で非常に効果的であることがわかりました。
リードクリエイトが提供するアセスメントプログラムの特徴と成果
私たちリードクリエイトが提供するアセスメントプログラムは、リーダーという立場をシミュレーション化し、全力で取り組むことで自分自身の現状と向き合わざるを得ないという特徴を持っています。このプロセスを通じて、受講者はリーダーシップの本質に迫ることができます。
リーダーとしての役割を考えると、対峙する状況において、最後の最後で踏ん張る力、あと半歩前進する力が求められます。圧倒的な一部の人を除き、人間の能力に大差はありません。しかし、日々の物事への取り組み姿勢のわずかな差の積み重ねが、リーダーの真価が問われる場面で大きな差として表れるのです。今回の再受講となった方々は、この事実を身をもって証明されました。
また、「アセスメントプログラムにおいて良かったこと、印象的だったことは?」という質問に対し、全員の意見が一致しました。それは、部下との面談を行うシミュレーション、その場面をVTR撮影した映像の振り返り、そしてそれらを踏まえた最後のフィードバック面談です。このプログラムの能力開発側面の最大の特徴は、「自分自身が教材になる」という点に尽きます。自分を知り、自分の可能性に向き合い、より良い自分になりたいという願望は、多くの人が普遍的に抱く欲求であることを再確認できたことは、今回の追跡調査の最大の成果でした。
まとめ
- 人の成長、能力の開発には一定の時間的な投資が必要である
- 人が成長する際にはいくつかの可能性を無視してはならない
- 成長した人たちには共通する要素がある
- 自分自身が教材になるアセスメントプログラムがリーダー育成に効果的に機能する
いかがだったでしょうか?今回は、1年間で能力が飛躍的に伸長した人の特徴に焦点を当てて解説しました。
リードクリエイトでは、企業や組織の人事部門の方に向けて、リーダーの選抜と育成に関わるソリューションを提供しています。自社の管理職候補者を強化したい、管理職登用が見送りになった社員をしっかりフォローしていきたい、社員を育てることができる管理職を増やしたい、といった問題意識やお悩みを抱えている方は、お気軽にお問い合わせください。
この記事の著者
株式会社リードクリエイト 常務取締役 菅 桂次郎
2003年7月よりリードクリエイトに参画。人材マネジメント全般に関わるコンサルティング営業を経て、2014年よりアセスメントサービス全般の開発から品質マネジメントを中心に、リーダー適性を見極めるアセスメントプログラムの進化を目指して活動を展開中。
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