昇進昇格の仕組み構築で押さえるべきポイント

2023.05.31

昇進昇格の仕組み構築で押さえるべきポイント

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大きなビジネス環境の変化の中で、ジョブ型への制度移行を検討されている企業も多いかと思われます。一方で、どのような制度・仕組みを導入するにせよ、組織の重要なポストを誰に任せるかという意思決定の重要性は変わりません。

昇進や昇格をどのように考え、自社の制度にどのような意味とストーリーを描いて組み込むか。管理職になりたくないという社員が増えてきているというデータもある中で、組織発展の鍵となるリーダーの選任に対する考えを整理することが重要であると考えます。

 

メンバーシップ型の職能資格制度における昇進と昇格

これまで多くの企業が導入していた職能資格制度の基本的な考え方は、経験(≒年数)によって能力が高まり、高い能力を保有しているということは、より難易度の高い仕事や役割を遂行できるだろうというものです。あくまで能力の量と質の保有度合いを重要視する考えであり、その結果として昇格という処遇に繋げるというものでした。

特定の業務を固定化させず、柔軟に役割や仕事を行う上では最適な制度であると言えます。また、定期的なジョブローテーションとセットで運用することで、より広い領域での業務経験を積ませやすく、ジェネラリストの育成には最良な制度であると考えられます。一方、職務上の成果や責任が曖昧なこともあり、急激な変化には弱く、かつ個人の観点でも長期視点で職種上の専門性は磨きづらいという側面を持っています。

また、上述の通り、昇格の判定は能力の大きさであり、課長や部長という役職者への昇進とは分離して運用することになります。課長相当の能力は保有しているので昇格はするが、組織運営上、課長の役職に空きがない場合は昇進はできないということが起き得るということです。これは、右肩上がりの成長で、ポストが潤沢に準備できた時代から、組織規模の停滞によって考えられた運用であり、昇格はするが昇進はしないという、所謂「部下なし管理職」を生み出すことに繋がりました。社員の視点で見れば、課長相当の能力があると認定されたことで、課長職と同等の一定の給与水準が補償されるという側面を持っており、決して悪いことばかりではないですが、その前提は、年功序列の考え方であるため、業態などによっては昨今の環境とのミスマッチが顕在化しているのが実態です。

職能資格制度においては、昇進と昇格は別々に運用されます。より中長期の雇用関係を想定した考えがベースにあり、社員の立場では、親の介護や子育てなど、最もお金を必要とする時期に賃金カーブがピークを迎えるため、ライフプランが描きやすいというメリットがある反面、いまの環境に合わなくなってきている組織が増えてきているという背景が、ジョブ型を含めた制度の改定を加速させているということです。

ジョブ型の職務等級制度における昇進と昇格

いま多くの企業が導入もしくは導入を検討しているジョブ型人事制度の根底は、職務等級制度です。これは、職務の内容や責任、役割の大きさが規定され、そこに適した人材をアサインメントするという考えです。あくまで組織や事業上の機能や役割を前提に設計していくものであり、適性のある人材を必要なポストに就けるという行為が、結果として従来の昇進・昇格に該当すると言えるでしょう。

職能資格のように、どの職域でも通用する汎用性の高い能力というよりも、特定のポジションに期待される役割や職務上の成果が明示されているため、個人のキャリア形成の観点では、スペシャリティを高めるという点において、シンプルな制度であると言えます。いまの事業計画上において、必要な機能を遂行できるかどうかが直接的に問われる仕組みであり、より上位の職務ポジションにおいては、職務遂行上の専門性を大前提に、組織マネジメントの力が求められるということです。

一方で、事業戦略に伴う組織の機能や構造が前提にあるため、職能資格制度下で運用しているような、社員一人ひとりの昇格判断を、人事主導の年間の定時イベントとして実施されることは基本的にはありません。あくまでポストありきであり、所謂昇進と昇格、配置の3つの要素がセットで運用されることになります。

「人の能力ありき」ではなく、「組織に必要な機能ありき」で設計される考え方であるため、環境変化の影響を受けやすいという側面があります。したがって、社員の雇用に対する考え方においても、就社ではなく就職という思想が強くなり、企業と従業員の関係性は、よりフラットなものになると言えるでしょう。これまで機能していなかった社内FA制度なども、ジョブ型の仕組みの中ではより機能する可能性が高いと思われます。

昇進判断で見極めるべきは「役職適性」ではなく「リーダー適性」

職能資格や職務等級など、制度の前提にある思想や昇進昇格に対する運用上の違いはあれど、より上位職のポジションに就く上では、マネジメントやリーダーシップの要素がより強く求められてくるという点は共通です。一方で、資格定義書の要件を確認する限りにおいては、記述内容が言葉遊びに陥ってしまっているという実感があります。枕詞と語尾で階層や役割の差をつけているものの、責任の範囲と個人に求める能力が混在しており、どのような人物が適性なのかが判断しづらいものとなっています。

そもそも同じ組織内においても、同じ課長という職位であったとしても役割や規模は様々です。人によっては部長職の方よりも大きな予算、大きな規模、大きな責任を担っていることもあるはずです。そうなると、「課長」という役職そのものの適性はそもそも存在するのかという疑問を持つべきでしょう。一方で、よく相談を受けるケースとして、「経理部門は定型業務なのでリーダーシップは不要」「営業部門は対人能力が高ければ大丈夫」「経営企画は実行力は不要」などなど、数十年前のステレオタイプな職種イメージを前提に、人材要件を設定してしまっていることが、結果として誤った人選メッセージを発信してしまっていることに繋がっています。

どの部門、どのような職種であっても、組織を預かる職位の人材には、事業を推進していく力と、組織を活性化する力が求められます。決まったことだけを黙々と、メンバーも淡々とこなしていくだけのチームでは、個人の成長も組織の発展もありません。基本的には、リーダーとして新たな価値を創造したり、組織に内在する問題を解決したり、ビジョンの達成に向けてメンバーのコミットを引き出したり、相互に協力し合い、学び合ったりするチームづくりを期待しているはずです。これは同時に、課長と部長に求められるリーダーとしての能力にも当てはめることができます。「課長は課の目標達成」「部長は部の目標達成」という成果責任の範囲に差異はあるものの、求められるリーダーとしての行動は同じはずです。規模や責任の大きさの違いによって、より高い水準が求められるだけであり、必要なリーダーとしての基本的な考え方や行動は同じです。

どのような制度や運用であれ、チームの成果やメンバーを預かる上位のポジションに就く人材には、リーダーとしての素養が求められるはずであり、その適性やポテンシャルを見極めることこそが経営と人事の重要なミッションであると言えます。

期待されるリーダーの適性とは何か

ここ数年、DXという言葉のもとに多くの企業が事業の変革に取り組んでいます。デジタルトランスフォーメーションという言葉の通り、デジタル技術を活用して組織に変革をもたらすことを企図していますが、テクノロジーによる事業環境の変化が顕著であるが故に、スペシャリティにフォーカスする社会的風潮が強く、前者のデジタル技術に偏りすぎている感は否めません。DXの本質は「変革」であり、技術と同等以上に重要なのはリーダーシップです。リーダー不足は以前から存在する未解決の問題であることに変化はなく、経営に近いポジションであればあるほど、リーダーとしての素養は必要不可欠です。

では、リーダーとはどのような人物でしょうか。リーダーの人物像を単純に表現すれば、「新たな価値を生み出す人。組織を発展に導く人」と言えます。その文脈から、挑戦(姿勢)、未来(時間軸)、主導(行動)、社会・組織(視点)などのキーワードが想起され、各社が掲げる人材育成方針は表現こそオリジナリティは含ませているものの、求めているリーダー人材は基本的には同じです。「高い専門性だけで、いま与えられた仕事を一人で黙々と遂行すること」をリーダーに求めてはいないはずです。

さらに言えば、いまはそこに加え、持続性というキーワードがより強く求められています。また、あらゆることが繋がっている世界の中においては、多様なステークホルダーとの共生という要素が必要不可欠でもあります。リーダーという一個人でできる範囲は相対的に狭くなっており、チームや組織の持続的な発展に向けた関わりこそが、強く求められていると言えるのではないでしょうか。そして何より、変化が常態化した環境下では、0から1を生み出し、組織変革のファーストアクションをもたらすのは、間違いなくリーダーの重要な役割であると考えます。

ここまでを整理すると、リーダーに求められることは、新たな価値の創出によって組織を持続的な発展に導くことであり、ステークホルダーとの協働によってコミュニティを活性化しながら、事業を推進していくことだと考えます。そのためのリーダーの実践的な成果行動として、新たな価値を創出すること、そこに向けた諸問題を解決に導くこと、メンバー個々の力を最大限引き出すこと、チームの力を結集することなどが上位の要件として考えられます。そして何より、リーダー自身がチームや成果にコミットし、信頼される行動規範を持っていることが重要であると考えます。

昇進昇格という人事イベントが持つ本質的なメッセージ

昇進が持つメッセージは、「組織の要所を誰に任せるか」であり、昇格が持つメッセージは、「誰の何に報いるか」です。昇進昇格がセットなら、その両方が含まれることになります。

「誰に任せるか」という指針が、人材育成上の重要な要素となります。特に、経営に近い成果責任の大きなポジションであればあるほど、組織マネジメントに必要なリーダーとしての姿勢がメッセージとして含まれ、前述のリーダー適性などが該当します。一見すると至極当然のこととして理解できると思いますが、各社の運用実態は、このメッセージが機能していないことが想像している以上に多いという実感です。現在の職位での活躍や、現在の仕事での成果を重視せざるを得ない面は受け止めつつ、特に役職者への選任という意味合いを考えると、その役職に対する適性を見極めることが非常に重要となります。プレイヤーとしての優秀さと、マネジメント層としての優秀さは似て非なるものです。理想は、優秀なプレイヤーであり、かつ優秀なリーダーであることですが、後者に対するメッセージと実際の運用に一貫性を持たせることが大切です。

「何に報いるか」という指針が、社員一人ひとりの行動規範に強い影響を与えます。そしてこの行動規範とは、組織が大切にしている価値観やDNAという言葉に置き換えられます。上位の職位であればあるほど、責任や成果に対する報酬というのが教科書的な考え方ですが、リーダーシップの領域については、報酬だけではない倫理的かつ情緒的なメッセージが多分に含まれてきます。個人的な経験から言える面ではありますが、損得勘定でリーダーという職位を全うすることはできません。短期的な損得だけで考えると、すべてが馬鹿らしくなる時もあります。ある意味ではボランティアに近い領域であり、社会や他者のため、将来のためという公的な視野、利他的な姿勢が強く求められるものであり、この点は、高い報酬だけでは動機づけできない、経営や人事が最も大切にすべきメッセージであると考えます。

いずれにせよ、「誰に任せるか」「何に報いるか」という経営・人事のメッセージが、そこで働く社員の行動に強い影響を与えます。大切なことは、人事規定上で明文化されている美辞麗句ではなく、その運用実態を前提にした「実際に社員に伝わっているメッセージ」を見極めることであり、組織変革の起点は、まさにこのメッセージに一貫性を持たせた制度運用に繋げるかという問題提起であると考えます。

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まとめ

  • 制度の違いはあれど、上位ポジションほどリーダーとしての素養の見極めの重要度が高まる
  • 言葉遊びに陥ることなく、期待するリーダー像を的確に言語化することが重要
  • 人選に対するメッセージとストーリーに落とし込めるかが成功の鍵

この記事の著者

株式会社リードクリエイト 取締役 菅 桂次郎

2003年7月よりリードクリエイトに参画。人材マネジメント全般に関わるコンサルティング営業を経て、2014年よりアセスメントサービス全般の開発から品質マネジメントを中心に、リーダー適性を見極めるアセスメントプログラムの進化を目指して活動を展開中。

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