コロナを境に研修実施の選択肢に「オンライン」という大きな変化が起こりました。一方、研修の実施形態がその成果にどのように影響を与えるのか、実際に多くの企業で議論が交わされており、我々もご相談をいただくことが多いテーマの一つです。
一般的に、対面研修は受講者間の相互作用やライブ感を通じて深い理解を促し、オンライン研修は時間や場所の制約を軽減し多様な参加者が気軽に学ぶ機会を提供します。これらの選択肢の中で、受講者の「成長」を促すのはどちらなのか。
本コラムでは、対面研修とオンライン研修それぞれの特徴や効果を探っていきます。
学習効果とは何か
学習効果とは、特定の学習体験が受講者に与える影響や、知識・スキルの習得、さらには行動の変容に対する効果を指します。企業における研修は、単なる知識の伝達に留まらず、受講者の思考や行動に変化をもたらすことが重要です。そのためには、受講者がその研修をどのように受け止め、どれだけ内省できるかが鍵となります。
対面形式の研修は、講師と受講者、また受講者同士のリアルなコミュニケーションを通じて、情報の共有や意見交換が促進されます。この環境は、受講者が自ら考えるきっかけや適時のフィードバックも得やすく、知識を深める効果が期待されます。
一方オンライン研修は、場所や時間の制約が少ないため、より多くの人が参加しやすくリソースの効率的な活用が可能です。また、研修中の自由度も高いため、自分のペースや過ごしやすい環境で受講することができます。しかし、画面越しの学びは対面に比べて相互作用が薄れ、一部の受講者は集中力を欠くリスクもあります。
ある調査によれば、オンライン研修は対面研修に比して、研修後の知識保持率が低い傾向との結果が出ています。自由度が高いがゆえに、受講者の学びへの影響も大きくなるということを示しているといえます。
そのため、研修も目的や目標、対象者の属性に応じて、どのような学習効果を期待し、そのために最適な研修形態を選ぶべきか、考えてみる必要があります。
対面研修のメリットとデメリット
メリット
対面研修にはメリットとして第一に挙げられるのは、受講者同士の「対話」の質です。リアルな環境で参加者が実際に顔を見ながら意見を交わし、言葉だけに留まらない互いの反応を直に感じることができます。この相互作用は、学びの深さに寄与し、議論や対話を通じて知識を定着させやすくします。
また、講師からの即時のフィードバックを得やすい点も特徴といえます。その際に受講者は疑問があればその場で質問したり、内容を深堀りもしやすいため、理解度を高めるための絶好の機会にもなります。特に、研修内で多くのテーマを取り扱う場合などは、講師がその場で参加者の理解度を調整しながら進行できるのは大きな利点です。
加えて、休憩時間の受講者間のやり取りや雑談は、社内の人脈形成にも大きな影響を与えます。研修後のアンケートにおいても、普段関わることが少ない他部署の社員と知り合えたことが良かった等の声が多く上がるのも対面研修の特徴といえます。
デメリット
一方、対面研修にもデメリットがあります。
多くの声として耳にするのは、日程調整や場所の確保が必要になること、参加者のスケジュール調整に労力がかかることです。特に、後者については昨今のビジネス環境下において、受講者の声や要望として声が上がることも多く、企画サイドとしても頭を悩ませることが多いのではないでしょうか。
さらに、全員が集まっての実施が前提になるため、運営面や環境面における柔軟性が担保しにくく、きめ細かい対応に手が届きにくいこともしばしばあります。これにより、受講者が期待していた学びが得られない、それに相まって意欲向上にもつながらない可能性も考えられます。
オンライン研修のメリットとデメリット
メリット
オンライン研修は、コロナを機に急速に普及しました。その最大のメリットは、場所を選ばずに参加できることでしょう。受講者は自宅やオフィスから簡単にアクセスでき、必要な時間に合わせて学びを進めることができるため、多忙なビジネスパーソンにとっては非常に魅力的です。
また、オンラインプラットフォームには多くの技術的な機能が備わっているため、動画や資料を繰り返し閲覧したり、録画された講義を後から見直したりすることも容易です。これにより、受講者は自分のペースで学ぶことができ、理解を深めていけるチャンスを得ます。
デメリット
しかしながら、オンライン研修にもデメリットは存在します。一つは、対面に比べて受講者の参加意欲が低下しやすい点です。画面越しの参加では、他の参加者の反応が見えにくく、リアルタイムでの意見交換が不十分になることがあります。これが相互学習の効果を下げ、学習効果全体の低下につながる可能性があります。
さらに、研修では多くの情報が受講者へ共有されますが、それらの理解度などを表情や態度から読み取ることが対面に比べて難しいため、一部の受講者が重要なポイントを見逃してしまうこともあるでしょう。また、オンライン環境での技術的なトラブル(接続不良や音声トラブルなど)も、研修の進行を妨げる要因として無視できません。
ハイブリッド型研修の実態
ハイブリッド型研修は、対面研修とオンライン研修を組み合わせて、双方の良いところを活かそうとのアプローチとしてご相談をいただくことがあります。
たしかに、対面でのリアルタイムなコミュニケーションのメリットを活かしつつ、オンラインの柔軟性やアクセスのしやすさも担保でき、まさに良いとこ取りの手法になるのではないか?と理論上は考えられます。しかし、我々の経験上、うまく機能しない、もっというと効果性が下がる、というのが実態です。
その一番の要因は、参加者間の一体感を確保することが難しいという点です。例えばディスカッション場面では、オンラインの特性上どうしても間が生じるとともに、ノンバーバルな情報は伝わりにくいため、対面参加者とオンライン参加者ではスムーズなやり取りが阻害され、特にオンライン参加者が孤立感を覚える事態が散見されます。
また、対面研修では会場の雰囲気、休憩時間の雑談から受講者間の人間関係が形成され、その結果として議論が深まっていくことが見られますが、それらは対面参加者間のみで行われます。そのため、オンライン参加者はその関係性に入ることが難しくなるという点もあります。
今後、技術的な側面(適切な機材やソフトウェア等)における進化が実現すれば解決への道筋が見えてくるかも知れませんが、現状においては最適なアプローチは実現できておりません。
研修形態の最適化に向けた論点
では、研修の実施形態の選択にあたってはどのような観点で検討していくことが必要なのか、3つの観点で整理してみました。
①研修の目的や目標に応じた選択
第一に考えるべきことは、その研修の目的や目標に即した実施形態の選択です。何のために行うのか、研修後にどのような状態にしたいのか等から逆算的に検討をしていくことが重要です。
研修によっては目的や目標が複数ある場合もありますが、その中でも最も優先したいものは何かを明確にし、それに合わせた選択を行うことが重要です。研修形態はあくまでも手段です。目的を踏まえた最適な選択を意識する必要があります。
②研修テーマに応じた選択
階層別研修と公募型研修、対人系研修と思考系研修など、そのテーマによって選択することも必要です。例えば、一般的には階層別研修は参加必須型の研修、公募型研修は自主参加型の研修なので、必然的に前者に比して後者は参加意欲が高い受講者が多くなります。
また、対人系研修は実際のコミュニケーション場面を踏まえ対面が望ましいなどの意見もありましたが、近年はオンラインでの対話も増えており、組織の状況を踏まえた選択も必要です。
③企画側の意思に基づいた選択
受講者にはそれぞれの立場や役割に沿った各人に考えや要望があり、対面実施とオンライン実施、双方への声が上がってきます。もちろんそれらの意見を受け止めることは必要です。受講者はこれまでの自身の学びの体験を経て、どのような形態が自分にとって効果的であったか、不十分であったかを実感しています。
また、意にそぐわない実施形態は参加意欲の高低にも影響を与えるためです。他方、受講者の意見に流されすぎないことも重要です。
上記①にも関連することではありますが、企画側として何を実現したいのか、そのためにはどう選択すべきかを検討してください。時には、企画側の考えと受講者の声に乖離が出ることもあるかもしれませんが、こだわりや信念を軸に前進することも必要です。
まとめ
これまで、対面研修とオンライン研修の違いやその特徴について述べてきましたが、最も押さえるべき論点は「何のために実施するのか」に尽きます。これが抜け落ちてしまうと、まさに手段が目的化し、本来成し遂げたいことから遠い場所で議論が進んでしまいます。
他方、人事部を中心とした企画側の立場としては、社内の様々な声や制約がある中で検討を進めていかないといけない、できること、できないことがあることも重々承知しております。
そのような時は悶々と考えるのではなく、我々のような外部の視点も参考にしていただきたいと思います。最終的に本施策を通じて、受講者の方々にどのようになってほしいのか、そこを目指していくために何をすべきか等を、客観的かつ現実的な選択が行えるよう伴走していくことが我々の価値であると考えています。
この記事の著者
株式会社リードクリエイト
ソリューション事業本部 ソリューションパートナー室 兼 マーケティング推進室
辛 鐘世
2005年よりリードクリエイトに参画。アセスメントプログラムや階層別教育施策の導入運用を中心に、各社の組織課題や人事課題の解決の支援に携わる。近年はこれまでの経験や支援で培った知見をマーケティング施策にも展開し、多くの企業の課題解決に寄与する情報を設計・発信中。
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