VUCAの時代と言われる中、組織の成長を促進するためにリーダーの役割はますます重要になっています。クライアントからリーダー要件に関する相談が増えていることもあり、要件策定に頭を悩ませている方が多いのではないかと推察します。特に、「優れたリーダーとは何か?」という問いに対し、普遍性と独自性を掛け合わせた要件策定が急務となっているのではないでしょうか。
本コラムでは、リーダー要件を検討する際に押さえておきたいポイントについて紹介します。どのようなリーダーが自社に必要なのか、視点や考え方を整理するヒントを提供します。
この記事の著者

株式会社リードクリエイト
ソリューション事業本部 ソリューションパートナー室 兼 マーケティング推進室
辛 鐘世
2005年よりリードクリエイトに参画。アセスメントプログラムや階層別教育施策の導入運用を中心に、各社の組織課題や人事課題の解決の支援に携わる。近年はこれまでの経験や支援で培った知見をマーケティング施策にも展開し、多くの企業の課題解決に寄与する情報を設計・発信中。
リーダー要件策定に関する相談が増えている背景
近年、生成AIの急速な技術革新が進む中、企業は新たな競争環境に直面しています。このような状況下、リーダーの役割はこれまで以上に重要視されており、効果的なリーダーシップの発揮が企業の成長に直結することが明らかになっています。
リーダー要件が曖昧な場合、一番の懸念は、適切なリーダーが選ばれない可能性があることです。評価者の個人的なバイアスによって、特定の人材が高く評価されたり、逆に優れた能力を持つ人材が適切に評価されないなど、主観的なプロセスに沿った選定が行われるリスクがあります。
例えば、過去の実績や経験を基に評価される一方で、これから期待されるビジョンを構想したり、チームをまとめるといった能力が軽視されることが多く見られます。これでは、組織全体のパフォーマンスに悪影響を及ぼし、社員のモチベーション低下や組織の一体感の欠如にもつながることが危惧されます。
また、リーダーは組織の成長を促進する力を持っています。優秀なリーダーはチームを奮い立たせるだけでなく、ビジョンを示し、メンバーをその実現に向けて導く役割を担います。さらに、VUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)という言葉が示すように、ビジネス環境は日々変化しており、このような状況下においても継続的に成果を創出できるリーダーが求められます。このため、自社のリーダー要件が継続的な成果創出を実現するに値する内容になっているのかが重要です。組織が持続的に成長していくために、経営層や人事部門が協力してこの要件をしっかりと定める必要があります。
実際に、各社の人事担当者からは、「リーダー要件や求める姿が中計と照らし合わせると合っていない」「要件自体が古いため期待人材をリーダー的ポジションにすることができない」「若手社員からは自社のリーダー人材に共感が出来ない」などの声を聞くこともあります。このように、要件と実態の乖離はさまざまな形で組織上の問題を発生させるリスクがあるため、その解消に向けた動きが活発化されていると推察します。
リーダー要件の策定にあたっての難所
リーダー要件の策定において、クライアントからよく聞く難所を整理してみました。各社どこで悩んでいるのか、自社の状況と照らし合わせてください。
リーダー要件の内容
まず、リーダー要件にどのような内容を盛り込むのかが曖昧になっているケースが多く見られます。それは、役割やあり方なのか、スキルや知識なのか、資質や姿勢なのか、これらを混在した形で議論を進めてしまうと袋小路に入ってしまう可能性があります。
ここに正解はありませんが、大きくは2つの視点「①世の中のリーダーに求められる共通的なもの普遍的なもの」「②自社の文化や状況を踏まえ大事にしたいもの外せないもの」に切り分けて整理することから始めてみると整理がしやすくなるかもしれません。
リーダー要件の粒度
次に、どのくらいの粒度で要件を設定するべきかという悩みをよく伺います。あまり細かすぎると実用性を欠き、逆に大まかすぎると具体的な評価が難しくなります。このため、両者のバランスを取り、中程度の具体性(具体的すぎず抽象的すぎない)を追求することが必要です。
ここに正解はないため各社の状況に合わせた設定で良いかと思いますが、ある企業では、「チームをまとめる力」ではなく「チームメンバーとの定期的なコミュニケーションを通じて信頼関係を築く力」というように、一段ブレイクダウンしつつも細かいプロセスまで示さない形で設定をしています。
合意形成
また、リーダー要件を定める際には、組織内の多様な意見を集約する必要がありますが、この合意形成が課題となることも多いようです。特に、異なる部門や役職が関与する場合、期待されるリーダー像に対する視点に違いが出てきます。
例えば、営業部門は成果を重視する傾向がある一方で、人事部門は人材育成やチームワークを重視するため、両者の意見が対立しやすくなります。この視点の違いが合意形成を難しくし、結果的に一つの基準にまとめることができないケースが多いです。
また、合意形成のプロセスが不十分な場合、特定の意見が優先され、全体を代表する要件が欠如した状態になることもあります。このような状況では、リーダー要件が形式的になり、適切な資質を持ったリーダーを見誤ってしまうリスクが高まります。
現代のビジネスシーンでは、リーダーシップのスタイルが多様化しており、一つの決められた姿に基づいて議論するのが難しい状況です。企業はこの変化に対応し、自社に最適なリーダー像を明確に定義する必要がありますが、それをどのように自社の要件に落とし込むか、具体的な評価の指標をどう設けるかは、依然として課題が残っています。このような複雑性が、リーダー要件の策定を悩ませています。
難所を乗り越えるためのポイント
様々な難所はあるものの、リーダー要件を明確に定義することは、企業の成長において欠かせないステップです。そこに正解はありませんが、いくつかのポイントを整理してみました。
Point-1
上述のとおり、「①世の中のリーダーに求められる共通的なもの普遍的なもの」「②自社の文化や状況を踏まえ大事にしたいもの外せないもの」に切り分けて整理することから始めてみてはいかがでしょうか。
前者については「自社」ではなく「世の中」の枠組みに沿って、優れたリーダーはどんな思想に基づき、どんな行動を取り、どんな能力を保有しているのか、という観点で検討を進めていきます。
後者については、自社のビジョンやミッション、中期経営計画などと照らし合わせ、そのために必要になってくる要件をリストアップすることが重要です。
両社に共通的に必要な観点は、現在の不具合や問題点から積み上げ的に検討するのではなく、大局的な思考に基づき議論を進めることです。また、足し算ではなく引き算で考えることも必要です。何が必要か?ではなく何が不必要なのか?、という視点も取り入れてはいかがでしょう。このようなプロセスを行ったり来たりすることで、自社が求める理想的なリーダー像が浮かび上がってくると考えます。
Point-2
要件の策定にあたっては、各部門の意見を聞き入れることも忘れないでください。おそらく各部門からはさまざまな意見や声が出てくるでしょう。
結果、それらを取りまとめ落とし込んでいくプロセスに頭を悩ませ、難所を増やしてしまうことにはなりますが、このプロセスを経ないと、各部門は策定されたリーダー要件は人事部門が作ったものという意識が強くなり、実際の運用や浸透に大きな難所を作ってしまうことになります。
どの段階で各部門の意見や声を聞くのかは各社の事情に合わせての対応で良いかと思いますが、例えば、5割程度の策定段階で各部門の代表者やキーマンを集め、意見交換の場を作っていくことも有効です。そのプロセスが各部門の参画度を高め、実運用における難所を軽減することに繋がります。
Point-3
自社の成功体験や過去の実績を反映させることは、リーダー要件を再考する上で重要ですが、過去の成功事例を参考にすることにはいくつかのデメリットも存在します。
まず、成功の背景には常に特定の状況や環境が影響しており、これらが現在や未来に必ずしも適用できるわけではありません。したがって、過去の成功をそのまま再現しようとすることは、乖離を引き起こす可能性があります。
また、過去の成功事例に依存すると、新しい視点やアプローチが取り入れられず、イノベーションの機会を逃すリスクも伴います。過去の事例を活用する際には、その背景や文脈を慎重に考察し、自社の現状や目指すべき方向性を重視しながら要件を策定することが重要です。
Point-4
リーダー要件は一度策定したからといって、永続的に有効なものにならないこともあります。そこには普遍的なものもあれば、環境に応じて変わって来るものもあります。したがって、定期的にリーダー要件を検証するプロセスを導入することが重要です。
定期的にレビューの場を設定し、従業員からのフィードバックや市場動向も反映させていくことで、常に最適なリーダー要件を更新していくことが必要です。このプロセスを通じて、リーダー要件がより透明性のあるものになり、組織成果の向上にも寄与するでしょう。
最後に
ここ1年、リーダー要件に課題意識を持っているという相談がかなり多くなってきています。他方、各社各様の背景や状況があるため、画一的な解決策を示すことは出来ませんが、共通的に言えるのは、新しいことを作るには相応の難所があり、それを乗り越えてこそ新しいものを作れるということです。本コラムの内容も一つの参考例としつつ、各社の実態に合わせた最適なリーダー要件を策定してほしいと願います。その経験とプロセスが自己成長にも繋がっていくと確信します。
LEADCREATE NEWS LETTER
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