「自ら主体的に動き自律的に成長していく人材」は、どんな組織においても期待される人材であり、求められる人材と言えます。このような人材へと意図をもって育てていくには、何を押さえる必要があるのでしょうか。私たちはそのために最も重要な要件として「適切な自己認識」があると考えます。
本コラムでは、そもそも自己認識とは何か、それを促していくために押さえるべきことは何かについて探求していきます。
この記事の著者

株式会社リードクリエイト
ソリューション事業本部 ソリューションパートナー室 兼 マーケティング推進室
辛 鐘世
2005年よりリードクリエイトに参画。アセスメントプログラムや階層別教育施策の導入運用を中心に、各社の組織課題や人事課題の解決の支援に携わる。近年はこれまでの経験や支援で培った知見をマーケティング施策にも展開し、多くの企業の課題解決に寄与する情報を設計・発信中。
自己認識とは何か
自己認識とは、自身が体験したことから感じる受け止め方など内面の考察を通じて状態を知る行為を指します。ポイントは、「内面で起きていることに意識を向ける」ことです。
自己認識は成長に向けた一丁目一番地となる要素です。健康診断で体の状況を把握し必要に応じて治療を受けるのと同じように、ビジネスパーソンとしての自身の状況をしっかり認識することで成長に向けた次の一手が明確になります。また、自己認識がなされることで、自分が求めているものや成し遂げたいことも明確になり、行動への意欲を喚起する効果も見込めます。
リードクリエイトでは、自己認識の意義を「自分にとって不都合な真実を受け入れることへの葛藤であり成長への源泉」としています。受け入れがたいことや納得したくない自身の真実を受け入れることによって初めて成長へのスタートラインに立つことができる、逆にそれができないようにであれば、スタートラインに立つことすらできない。よって、まずは適切な自己認識こそが成長への入り口と考えます。
では、自己認識の実態はどのようなものでしょうか。私たちが多くの支援を通じて見えてきた傾向は、以下のとおりです。
傾向1
自己認識が適切な人ほどパフォーマンスも高い
いわゆるハイパフォーマーほど他者評価と自己評価がマッチしており、逆に、他者評価と自己評価が大きくズレる人はパフォーマンスが停滞気味です。
傾向2
経験や権限、権力を持つと自己認識力は下降する
一般的に、職位が上がれば上がるほど「自尊感情」(自負心や自己信頼)が高まり、等身大の自分自身を認識できなくなりがちです。また、率直な意見をくれる上位者や下位者が周りにいなくなることも自己認識が不足する理由の一つと言えます。
傾向3
ハイパフォーマーほど自己認識を更新させるためにフィードバックを求める
成長し続ける人は他者を「成長の鏡」にしながら、フィードバックを受け入れる素直さ、謙虚さ、真摯さが備わっています。自ら積極的にフィードバックを求めていく傾向が高いと言えます。
傾向4
適切な自己認識なくして、適切な能力開発なし
上述したように、成長に向けては適切な自己認識がスタートラインになります。自己認識がズレることによって能力開発プランも大きくズレることになり、成長軌道をミスリードすることになります。
自己認識における難所
自己認識に向けた最大の難所は、結果を「受け入れる」ことです。特にネガティブなフィードバックや分析結果は、老若男女問わず誰であれ、素直に受け入れるにはハードルが出てきます。自分はこんな姿ではない、このフィードバックには納得がいかない、そもそもの評価が間違っているなどの反応を見ることが多くあります。しかし、まさしくこの「受け入れる力」の差が成長の差として表れると言っても過言ではありません。そのために、私たちは以下の3点を押さえることが重要と考えます。
1.自己認識の必要性と重要性を腹落ちしてもらう
前提となる部分ですが、ここが担保されないままにさまざまな施策を実行しても、その効果性は高まってきません。仮に、自己認識を促すことをねらいとした施策を実施するとなった場合、なぜその施策を実施するのか、その施策の特性や特徴はどこにあるのか、フィードバックや結果をどう活かしてほしいのか、といったメッセージを対象者へ確実に落していくためのデザインが必須の条件となります。
2.フィードバックをオープンに話し合える環境整備
フィードバック自体は各対象者へ個別に伝えることが原則です。しかし、そのフィードバック内容の見方や解釈の幅を拡げていくことは、自己認識を深めていくために有効です。理想としては、日々の職場の中で社員同士がオープンにフィードバック内容を話し合い、相互に意見を交換し合うことですが、いきなりそんな状況には辿り着けません。まずは、そのような場(フィードバック会や結果共有会など)を意図的につくっていくことから始めていく必要があります。
3.長期的・全社的な取り組み
上述した1,2にも関連しますが、今日実行して明日実現するものではないため、単発的・局所的ではなく、長期的・全社的な取り組みとして進めることも重要です。適切な自己認識は成長への源泉であるため、新入社員から経営層に至るまで全員にそのような機会を提供していくことは、全社員の成長を促しつつ自己認識の重要性を理解することにもつながり、相互にフィードバックし合える環境づくりも大きな影響を与えることになります。
なお、自己認識を深めるためのツールや手段としては、さまざまなアプローチが考えられます。例えば、診断ツールによる自己分析、360度など職場メンバーからの声の収集、自己認識をテーマにした研修やワークショップへの参加、アセスメントなどを通じた専門家によるフィードバック、上司との定期的な振り返りと内省、などが考えられますが、それぞれに特徴や留意点があります。その目的や目標に応じて最も効果が高まる手段を選定するとともに、一つの手段だけで進めようとせず、複数の手段を組み合わせることで、適切かつ深い自己認識が実現できます。
このように「適切な自己認識」に向けては、意図的にそのような機会をつくっていくことによって、その効果を高めていくことができます。現状自組織では、自己認識を促すための場を提供できているのか、自らを客観的に棚卸しする機会はあるのか、を点検してみてはいかがでしょうか。
【参考】各人の動機や価値観
成長意欲の喚起には「動機や価値観」という観点もあります。自分は何を大切にしているのか、どのようなことを成し遂げたいのか、これらは成長への強力なエンジンとなります。
ただし、「動機や価値観」は各人による違いが大きく、また同じ人であってもその時の状況に応じて変わることもあるため、組織としての統一的なアプローチは難しい部分があります。動機を刺激するための●●という施策を打っても、Aさんには効果的であるが、Bさんには効果がないという状況に陥りがちです。他方、組織としての理念や方針を踏まえた動機や価値観への刺激は必要です。
例えば、会社として「社会課題の解決」という方針があり、「方針実現に向けたアクションや自己成長につなげる取り組みを推奨する」ということを示した場合、これらに共感する社員にとっては自身の価値観に合った一つの動機となり行動を起こすきっかけになります。会社にとっても、自社方針に沿った社員を意図的に育成することができるというメリットも出てきます。
「動機や価値観」については、組織として対応すること/対応しないことを念頭に置きつつ、成長への意欲は大なり小なり全員が持っているということを前提に、その意欲を阻む組織的要因や仕組みがないかを確認していくことも重要と言えます。
【事例】成長意欲を高める組織づくり
最後に、自己理解の組織的浸透について、ある事例をご紹介したいと思います。
ここから言えるのは、定期的に自己認識を促し成長に向けた取り組みを、経営陣が率先的に実践し行動変容のプロセスを見せたことです。その姿は、社員が自己認識の必要性や重要性を理解することにつながりました。また、経営層や管理職層は360度フィードバックの結果をオープンにし、職場の日常場面で話し合う姿が見られました。そのため、一般社員層においても同様の取り組みが浸透し、フィードバックを自身の成長へ循環させることが習慣化されるようになりました。そのような社内環境であるため、最近よく耳にする管理職になりたくない若手は極めて少なく、次のリーダー候補として多くの若手が手を挙げる風土が醸成されています。
最後に
ここまで、成長に向けた源泉となる自己認識について述べてきましたが、言うは易く行うは難しであり、一朝一夕でなされるものではありません。他方、そのための仕組みや環境をどうのように整えていくのかによって、その実現の確度も変わってくるものと考えます。高い目標の達成に向けては地道な活動の積み重ねが不可欠であることを踏まえ、一つずつ何かを変えていくことから始めてはいかがでしょうか。
LEADCREATE NEWS LETTER
人事・人材開発部門の皆さまに、リーダー育成や組織開発に関するセミナー開催情報や事例など、実務のお役に立てるような情報を定期的にお届けします