エンゲージメントサーベイをミドルマネジメントの成長機会として活用する方法

2024.11.05

エンゲージメントサーベイをミドルマネジメントの成長機会として活用する方法

エンゲージメントサーベイは、従業員のエンゲージメントを測るツールに留まらず、管理職層の成長を促す学習ツールとしても有効です。経験学習を通じて失敗から学ぶ機会が不足している中間管理職にとって、エンゲージメントサーベイは、組織全体の健全性を把握でき、自身のマネジメントスタイルを振り返る貴重な機会となります。

本コラムでは、従来の360度診断に代わり、エンゲージメントサーベイを活用することで、組織と個人の成長を両立させる方法を人事コンサルタントの立場から考察します。

経験学習の重要性とマネジメント層の課題

ビジネスパーソンの成長において、最も重要な要素は何でしょうか?

それは「経験学習」です。経験学習とは、経験学習サイクルとも呼ばれ、組織行動学者デイビット・コルブが提唱した、個人が実際に体験した出来事から学び、その学びを次の行動に活かすプロセスのことを言います。

たとえば、ある業務で成功した際、その成功要因を分析し、それを次回の業務に反映させる。また、失敗した場合には、その失敗の原因を振り返り、同じ過ちを繰り返さないようにする。こうしたプロセスを通じて、人は徐々に成長していきます。

この経験学習の重要性は、米国の人事コンサル会社であるロミンガー社の「ビジネスパーソンの成長に何が寄与するか」という調査において、業務経験からの学びが70%を占めるとされていることから、日常業務において成功や失敗から学ぶことが、ビジネスパーソンにとっていかに重要であるかがわかります。

経験学習は、特にマネジメント層、すなわち中間管理職にとって不可欠です(以降マネジメント層=中間管理職とする)。

マネジメント層は、経営と従業員を「つなぐ」役割を担い、多くの交渉や調整、意思決定が求められています。それらを迅速に対応し、適切な判断を下すためには、日々の経験から学ぶことが必要不可欠です。しかし、マネジメント層に経験学習を実践する環境が用意されているかといえば十分ではないのが実態です。

昇進昇格という階段を上るために、マネジメント層は失敗をしてはいけない、成功し続けなければならない、という暗黙のルールはありませんか?マネジメント層で失敗をすると昇進という芽が摘まれる可能性は高まります。そんな中で、人は成長できるでしょうか?失敗しないために、前例踏襲・保守的となりマネジメント層=組織のリーダーからは程遠くなっていくことにならないでしょうか?

特に、昨今の職場環境では、各種ハラスメントが厳しく取り締まられ、マネジメント層は委縮し、できるだけ部下との関わりを持たないといった失敗を恐れる風潮が強まっています。

このような環境下では経験学習の機会が減少し、成長の機会を逃してしまうことにつながります。それだけに留まらず、そういった風潮は部下への育成にも影響を及ぼします。部下の行動変容に向けたフィードバックなどもリスク回避の観点からなされません。結果、組織は停滞していきます。

私が講師として登壇した、管理職層を対象とした研修時にも「ハラスメント研修でプライベートなことは聞かないように言われているんですが、そんな中でどうやって信頼関係を構築したらいいでしょうか?」と、思いつめた様子で質問してくる受講者がいるくらいです。部下とのこういった関係性が続くと関りは希薄となり、組織でいろいろな問題が噴出するようになります。

つまりマネジメント層は失敗を恐れるあまり、「何もしない」という選択をするようになるということです。成功や失敗を経験し、振り返り、教訓化し、実践するという経験学習が人を成長させると理解しているにもかかわらず・・。

仕事柄、「我が社はマネジメント層が弱い」というお悩みを経営層の方々からお聞きすることがよくありますが、人としての成長プロセス(経験学習)を与えない限り、マネジメント層が強くなることはありません。

マネジメント層への意図的な学習機会の創出

では、どのようにしてマネジメント層に学習の機会を与えればよいのでしょうか?

昨今、人的資本開示の義務化の流れを受け、さまざまなベンダーが「エンゲージメントサーベイ」を提供しています。これは、従業員の会社への共感やコミットメントを測る指標として、多くの企業で導入されつつあります。

エンゲージメントサーベイは、組織全体の現状を可視化するものであり、個々のマネジメント層がその結果をもとに学習するためのツールとして活用できます。

従来、360度診断がマネジメント層の学習機会として利用されてきましたが、評価を行う側も受ける側も、評価に不慣れであるため、評価の公正さや客観性に欠けることが多く、内省の支援ツールとしての効果が十分に発揮されない場合がありました。

また、評価が悪かったことに腹を立て、部下に責任を押しつけようとする上司が出てくることもあります。こうしたリスクを避けるためには、360度診断に対する深い理解と適切な運用が必要ですが、それが十分に行われない企業も少なくありません。

一方で、エンゲージメントサーベイは個人を評価するものではなく、組織の現状を表すものであるため、マネジメント層はその結果を受け止めやすいといえます。

いわば「組織運営の通信簿」のようなものであり、組織全体の健康状態を示す指標です。エンゲージメントサーベイは、「理念や経営方針の浸透」「人間関係」「組織風土」「やりがい」といった項目で点数が表示され、その結果からマネジメント層が何をすべきか、どのような行動が求められるかを明確にします。

これは、マネジメント層が大きな失敗をする前にシグナルをキャッチし、小さな失敗(例えば点数が悪い結果)を通じて学ぶことができる、貴重な経験学習の機会となります。

エンゲージメントサーベイをマネジメント層の成長につなげる

しかし、多くの企業では、エンゲージメントサーベイの結果をマネジメント層に開示するだけで、(開示しない企業もあると聞きます)、その後の具体的な学習プロセスが放置されていることが少なくありません。

エンゲージメントサーベイの結果を学習機会につなげないことは、企業としてマネジメント層の成長の機会を逃すことに他ならないのです。では、具体的にどのようにエンゲージメントサーベイを学習に活用するべきでしょうか。

①現状把握

まず、サーベイ結果に示される各項目の定義を理解することから始めます。単にスコアの高低を見るだけでは、問題の本質を理解することはできません。

例えば、「理念・ミッション」のように曖昧な表現であっても、その項目に含まれる質問を詳細に読み込み、何が評価されているのかを明確に把握します。

サーベイ結果をマネジメント層の学習につなげるために、現状を理解するというところから始めます。

②組織の日常を振り返り、仮説を立てる

次に、サーベイ結果を踏まえて組織内の日常的なやり取りを振り返り、スコアの高低に対する仮説を立てます。この際、マネジメント層と部下のやり取り、部下間のコミュニケーションなど、具体的な場面を思い出すことが重要です。

例えば、「組織の理念や目的へのコミットメント」が低い場合、自身が目標達成のみに注力し、結果にしか言及しておらず、理念や目的について十分にコミュニケーションが取れていない可能性がある等が見えてくるかもしれません。このようにして、スコアが低い原因に対して仮説を立てていきます。

③原因探索と自己理解

仮説を立てた後は、その原因を深く探り、自己理解を深めます。

例えば、先ほどの例でいうと目標達成に注力しすぎた結果、部下が理念や目的に共感できていないという状況があるとすれば、それは自身のマネジメントスタイルに起因している可能性があります(目標達成することが部下を成長させる唯一の方法であるという思い込みなど)。

この段階で、自身の行動や思考のパターンを振り返り、改善すべき点を明確にすることが重要です。こうした自己理解の深化が、マネジメント層の成長に繋がります。

④あるべき・ありたい組織像の理解と対策の立案

自己理解を深めた後は、目指すべき組織像を軸に、その実現に向けた対策を立案します。

ここで重要なのは、エンゲージメントサーベイのスコアを上げること自体が目的化しないようにすることです。スコアの改善は手段に過ぎず、最終的には組織全体の成長と発展を目指すべきです。企業としてのあるべき組織像と自身のありたい組織像を統合し、具体的な行動計画を策定します。

この①から④のプロセスは、経験学習サイクルの一環です。エンゲージメントサーベイの結果を基に、自身のマネジメントスタイルを振り返り、理想と現実のギャップを埋めるための試行錯誤を行います。そして、サーベイの再実施の結果を通じて、自身の行動や対策の効果を評価します。もしスコアが上がっていれば、改善が成功した証拠です。一方で、スコアが変わらない、または下がった場合は、改善策が効果を発揮していないか、あるいは逆効果を招いている可能性があります。

エンゲージメントサーベイを活用する際、一つひとつの項目に固執するのではなく、組織全体の相互関係を理解することが重要です。各項目は相互に関連しており、そのすべてがつながっています。組織運営上の問題の本質を掴むことを心掛けてください。

まとめ

ここまで、マネジメント層にとっての学習機会が不足している現状と、その解決策としてエンゲージメントサーベイの活用について述べてきました。

エンゲージメントサーベイを効果的に活用することで、マネジメント層は自らのマネジメントスタイルを見直し、部下との信頼関係を築き、失敗を恐れない文化を醸成することが可能となります。

最終的には、エンゲージメントサーベイを基にした具体的な学習プロセスを実践し、定期的な振り返りとフィードバックを通じて、マネジメント層が成長し続けられるよう支援することが求められます。これにより、マネジメント層は自信を持ってリーダーシップを発揮できるようになり、結果として組織全体の持続的な発展を導くことにつながるでしょう。

エンゲージメントサーベイは、単なる評価ツールではなく、マネジメント層の成長を促進するための強力な学習ツールとして位置づけられるべきなのです。

 

この記事の著者

株式会社リードクリエイト
ソリューション事業本部 西日本支社長
三原 淳

大手通信会社、教育会社を経て2019年よりリードクリエイトに参画。2021年に西日本支社長に就任。西日本支社のマネジメントに従事する傍ら、講師として日々のマネジメントを通じて得た生きた学びを企業の管理職層を中心に提供する。

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