360度評価(フィードバック診断)とは -目的に合った選び方-

2022.10.17

360度評価とは何か

360度評価とは、フィールドアセスメント(職場行動評価)の一手法で、上司、同僚、部下、他部署の関係者など、周囲から対象者の日常行動に対する評価を得るものです。

アンケート形式で実施することが一般的ですが、経営層などを対象者とする場合には、関係者へのインタビューによって評価を集めることもあります。

360度評価は、1990年代半ばに欧米から日本に伝わりました。欧米では360度フィードバックと呼ばれ、対象者へのコーチングやフィードバックを行う際のエビデンス収集手段として、つまり「人材育成」のために活用されていました。日本では、「評価」の側面がクローズアップされ、対象者の能力やコンピテンシーを人事考課のように測り、査定や処遇に活かせるツールとして広まりました。背景には、年功序列制度や職能資格制度における情意評価に対する不満を解消することへの期待があったと思われます。

しかし、「評価」を前面に出して当時導入に踏み切った企業の多くが、「うちの会社には合わない」という反発の声とともに数年で廃止することになりました。現在のようにネットでの回答環境も十分に整備されていなかったため、匿名性を担保することも難しかったことは容易に想像でき、上意下達が染みついた組織において、部下が上司を評価することへのアレルギー反応は人事部門が想像していた以上に大きかったことが原因として考えられます。

そんな360度評価が再び脚光を浴びるようになったのは、タレントマネジメントという考え方に始まる、「人材の見える化」の一大トレンドです。近年では株式市場における人的資本経営の導入や、コロナ禍が生み出した急激なリモートワーク環境による社員の活動が見えにくくなったことも、背中を押す要因になっています。

360度評価が評価するもの

冒頭で、360度評価は「対象者の日常行動に対する評価」と記述しました。つまり、対象者は普段こんな行動をしている(あるいはしていない)、対象者の普段の行動にはこんな特徴があるという情報を収集するものです。

ここで間違ってはいけないのは、360度評価は、あくまで表面に見える行動を評価する手法であり、対象者が保有する価値観や適性、知識や能力といった行動の前提部分を測定する手段ではないということです。ある特定領域の適性や能力などを評価したい場合は、それに適した評価手法を選ぶ必要があります。

また、360度評価は、評価をする関係者たちの主観を集積するものだということも忘れてはいけません。「関係者たちは対象者の行動をこう見ている、こう感じている」という情報であり、統一の物差しで測定された客観的なデータを提供してくれる手法ではありません。

このことは、評価結果を他者や他社と比べることに適していないということにも繋がります。対象者の結果一覧で順位や優劣をつけたり、他社平均と比較して自社の強みや改善点を探したりすることが、得意な手法ではないということを知っておくことが重要です。

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360度評価を人材育成に活用する

前述の通り、その特徴から360度評価は人材育成のツールとして活用するのが王道です。健康診断や人間ドッグのように、自身の職場におけるパフォーマンスを周囲に評価してもらい、強みとなる行動や改善すべき行動について自己理解するために使います。周囲から見える自身の実態を把握することが行動改善やその先にある自己成長に向けた第一歩となるのです。

このように、360度評価のメインとなる対象は、課長や部長といった部下を持つ管理職であり、彼らのマネジメントやリーダーシップ行動です。

【私たちが支援しているクライアントの360度評価の導入背景】

「ミドルマネジメントの強化をしたいが、課題は人それぞれ。一律教育は効果・効率が悪そうなので、まずは自己理解をしてもらい、自分で成長してほしい」

「一般社員のときは上司から業務指導を日々受けることができたが、管理職になってからはマネジメントについて指導やフィードバックをしてくれる上司がおらず課題が見えない」

このように、360度評価を育成に使用する場合、最も重要なことは自己理解を促し、行動改善に繋げるサポートです。残念なことに、360度評価を実施し、その結果をレポートとして受け取るだけでは効果は限定的です。

レポートを受け取っても、ただ結果を見るだけで終わってしまったり、犯人捜しをしてしまったりと、期待していた自己理解や行動改善の意識に繋がらないことがほとんどです。そうならないために次のようなサポートが必要になるのです。

1.レポートの読み解き方や受け止め方、その活用方法を知る機会を提供する
2.レポートから自己理解を進め、自身の課題や今後のアクションを考える機会を提供する

1つ目は、座学によるインプットです。研修形式でも構いませんが、動画教材でも十分だと考えます。2つ目は、ワークショップや上司との1on1、プロによるコーチングなどです。当然個別対応の方が効果は高いことは理解しつつも、社内のリソースが限られる場合や上司による1on1ではスキルやノウハウ面で不安があるという問題意識を持つクライアントも多く、プロによるコーチングまでをセットで導入されるケースが増えています。

360度評価_2

 

360度評価を選ぶ観点

現在、非常に多くの360度評価ツールが提供されています。その中から自社にあったツールを選ぶ観点を紹介します(価格を除く)。

  • 提供会社
  • 評価項目や設問
  • レポート
  • UI(ユーザーインターフェース)
  • サポート体制
  • フォローアップ施策

● 提供会社

360度評価を提供する会社は多岐に渡ります。人事コンサルティング会社、研修会社、アンケート調査会社やシステム会社などです。自社が360度評価を導入する目的に合わせて、提供会社の区分けを検討する必要があります。

● 評価項目や設問

評価項目や設問は、大半がパッケージですが、オーダーメイドで作成することもあります。

育成目的で導入する場合はパッケージのもので十分です。検討のポイントは設定された項目が、自社で育てたいリーダー、マネジャーの姿に適するかどうかです。設問が対象者や回答者にとって違和感なく回答できるものかどうかも重要です。オーダーメイドはパッケージよりも高コストになることが一般的です。自社のwayやvalue、評価項目の浸透活動の一環として行う場合など、自社ナイズすることが必須の場合はオーダーメイドするメリットがあると言えます。

情報把握目的で導入する場合は、把握したい項目をなるべく満たすパッケージか、オーダーメイドを選ぶことになります。評価項目や設問の量については、網羅性と回答者の負担のバランスをとることが重要です。量が多いと網羅性が高まり、対象者の特徴や課題、および行動を把握しやすくなります。一方で回答者の負担が大きくなるため、「とりあえず」で中心点を付けたり、不適当な点数になったりする可能性が高まります。量が少ないと網羅性や具体性が下がりますが、適当な結果が得やすくなると言えます。

● レポート

レポートは、対象者向けと人事・会社向けなどがあります。対象者向けレポートで重要なのは、自己理解のしやすさです。自分の特徴が分かりやすく、かつその理由(なぜそう評価されたのか)となる自身の日常行動まで把握できることが求められます。人事・会社向けレポートでは当然、把握したい情報が適切に得られることが重要です。

●UI(ユーザーインターフェース)

UIについては、回答者と事務局の両面で確認する必要があります。回答者側ではログインから回答までの導線、および回答画面での回答のしやすさ。複数名分回答する場合の切り替えのしやすさなどです。事務局側では360度評価ツールへの回答者情報のインポート(回答者情報の納品)のしやすさ、管理画面の見やすさ、管理画面で把握できる内容などがあります。

●サポート体制

サポート体制は、回答案内や未回答者への督促、レポートの配布などのサポートについてです。いずれも事務局が行うには手間が大きいため、どこまでサポートされるのかは、導入にあたって意外と重要なポイントと言えます。

フォローアップ施策

フォローアップ施策については、前述の通り育成目的で360度評価を導入する場合に最も重要なポイントです。対象者の状況を鑑み、適切なフォローアップが提供可能なツールを選びましょう。

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リッカート法とプロブスト法

最後に、最近よく相談をいただく「リッカート法が良いのか、プルブスト法が良いのか」についての考察です。

リッカート法とは、「非常に良い、良い、普通、悪い、非常に悪い」のように、評価を行う尺度を設定し、設問毎に評価を行い集計する手法です。360度評価においてはメジャーと言えます。

プロブスト法は、多くの選択肢の中から該当するものを選択する手法です。例えば「対象者の強み(改善点)と思う項目を3つ選んでください。」というようなものです。この形式の360度評価が登場したのはここ5~10年ほどで、パルスサーベイの普及に伴って増えてきました。(パルスサーベイとは、脈拍-Pulseのように、簡易的な調査を短期間に繰り返すことで、社員や現場の状況をタイムリーに確認したり、その定期的な変化を把握したりする手法)

リッカート法のメリットは、網羅的な評価ができることと強度(あるいは頻度)の把握ができることであり、それによって自己理解が進めやすいことです。デメリットは回答者の負担(例えば設問が50個あると、その回答時間は10分程度)があるということと回答者による評価の甘辛が発生しやすい(主観の評価)ことです。甘辛については、発生することを前提に、結果の読み解き方や受け止め方を理解していただくことで解消が可能です。

プロブスト法のメリットは、回答の簡易性と特徴の掴みやすさです。回答の簡易性で言えば選択肢さえ大体知っていれば、1名分の回答について3分程度で済みます。特徴の掴みやすさという点では、リッカート法が点数を集計するのに対し、プルブスト法は票数を集計します。結果特徴的なものは分かりやすく表出します。一方のデメリットは、網羅性が低いことと選択の理由(理由となる具体的な行動)が見えにくいことです。これは自己理解や行動改善へのつなぎを阻害します。これはフリーコメントで補完したり、パルスサーベイとして実施したりすることで軽減することができます。

このように、リッカート法にもプロブスト法にも、それぞれメリットデメリットがあるとともに、デメリットについては、それを解消したり軽減したりするための方法があります。したがって、導入目的に合わせて、主にメリットを捉えて検討するのが良いと言えます。

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この記事の著者

株式会社リードクリエイト
ソリューション事業部 マネジャー 並川 喜則

2008年8月よりリードクリエイトに参画。人事評価や360度、アセスメントプログラムの導入や運用支援を中心に、各社の人事課題解決に取り組む。近年は企画や設計だけでなく、社内での説明会や勉強会を行うなど、より人事の現場に踏み込んだ活動をしている。