ジョブ型人事制度導入による人事機能の考え方の変化【考察】

2022.10.13

既に多くの企業が導入もしくは導入を検討しているジョブ型人事制度。従来の「人ありき」の思想から、「ジョブ(職務)ありき」の仕組みへの大転換と言えますが、経営的な観点では、「長期雇用を前提にした連続的な組織発展を志向する経営思想」から、「高い雇用の流動性を前提にした破壊的イノベーションが起こりやすい組織づくり」への大変革を意味しています。そのため、この根底にある思想が人事の機能や組織風土にどのような影響をもたらすのかを理解しておくことが重要です。人事の機能である採用・育成・配置・評価・処遇という人材マネジメントの5要素から、それぞれの影響を考察したいと思います。



ジョブ型人事制度を導入することによる「採用」への影響

ジョブ型人事制度の導入によって、日本企業にとって最も大きな影響がでるのは採用です。特に、新卒一括採用を前提に人員計画を組んでいる大企業にとっては、根底から思想を見直す必要があります。そもそも、新卒採用を行う企業側のメリットは、「年配の社員よりも安い賃金で労働力を一気に確保できる」というものであり、その前提には年功や経験という考え方があります。ジョブ型になるということは、人ではなく職務に報酬がセットされるため、年齢という要素に影響を受けることがなくなり、新卒であっても職務に規定された業務成果や役割に応じた賃金で雇用契約を結ぶ必要があるということです。言い換えれば、一括の処遇ではなく、一人ひとりの職務に対する適性に応じた対応をしなければならないため、その適性の見極める力が会社側に問われることになるということです。

特に最新の知識や技術が必要となる職務においては、既存社員の数倍の報酬が必要となる面もあり、優秀人材を確保できるチャンスが広がる反面、失うリスクが拡大するとも言え、人材獲得の競争環境が圧倒的に激しくなるということを意味します。そして同時に、社内での報酬格差の拡大や年次の逆転現象も発生するため、既存社員の心理的な影響への配慮は、避けては通れない懸案事項となります。

 

ジョブ型人事制度を導入することによる「育成」への影響

端的に言えば、育成責任が会社から個人へとシフトするということです。キャリア自立という言葉で表現されることもありますが、「就社」した組織の中でキャリアを重ねていく従来の思想から、本来的な「就職」という考えのもと、自身の専門性や各種能力については、一人ひとりの責任に委ねられることになります。その根底は、人材の流動化が激しくなるということであり、働く個人にとっては自身の市場価値を高めることへの責任と覚悟が問われることになります。

ここで人事が押さえるべきは、「組織の持続的発展のためにはどのような人材が必要か」というものであり、職務における専門性だけではない、マネジメントやリーダーシップなどの経営を担う人材に対する育成責任です。管理職以上の組織運営におけるコア人材を、どのように調達するか、どのように育成するかが人事の責任としてより強く問われることになります。欧米企業のように外部からの調達を行うことも視野にいれつつも、所謂生え抜き、たたき上げという若手の段階から自社の事業にコミットしてきた人材の中から、将来のリーダー候補を如何にして育成するかを含めた人材育成の軸を明確にしておかなければなりません。以前に比べ、高いポジションへのモチベーションは低下傾向にあるとは言え、管理職や経営陣へと昇進していくことをモチベーションとして活動している既存社員も多く存在するため、次世代リーダーをどのような思想のもとで、どのような条件やプロセスで育成していくのかを整理しておく必要があります。



ジョブ型人事制度を導入することによる「配置」への影響

ジョブ型人事制度の根底は職務である以上、そこで最も重視されることは職務に関わる専門性です。これまでのような経営・人事主導の様々な領域を経験させるための全社員対象のジョブローテーションは適切ではありません。あくまで事業に必要な組織体から規定された職務を前提に、そこで必要とされるスキルや要素に応じて人をアサインすることになるため、事業を推進するための組織機能が先にあり、それらを踏まえての人員計画に基づいた配置へと変化します。これが意味するところは、事業撤退や縮小など、不要となった組織機能が発生した際には、そこで働く社員も不要になるため、別の部門での増員計画や適性が低い場合は、解雇という決断を行うことになります。長期雇用が前提であった従来の組織からの雇用に関する変化は、そこで働く社員にとっては心理的な影響が最も大きくなる領域かもしれません。ジョブ型人事制度を導入することによる最も大きな影響は、雇用システムの大変革にあると言えます。



ジョブ型人事制度を導入することによる「評価」への影響

予め定められた職務における成果と役割に報酬がセットされているため、結果への評価比重が重視されることになります。多くの企業で導入している目標管理制度を踏襲しつつも、これまでの人事考課で評価していた活動プロセス上の行動、本人の成長度などの評価は基本的には対象外となります。成果が数値化される職種においては、そもそも上司が部下を評価するという行為そのものが不要になるとも言えます。簡単に言えば、「頑張ったから」という行為は全く意味を為さなくなるということです。また、一定の経験を積めば昇格するという年功的な運用もなくなるため、人事が一律的に運用する現制度から、評価は全面的に現場に移管するという方向にシフトさせる必要があります。

昇進という評価イベントも、あくまで必要な職務によってポストが限定されるため、「名ばかり管理職」という存在は組織からいなくなることになります。

 

ジョブ型人事制度を導入することによる「処遇」への影響

報酬については、よりクリアになる形で運用されることになります。ジョブ型人事制度を新たに導入する企業にとっては、従来の報酬等との差分をどのような考えるかです。現在の職務と報酬がマッチしていれば問題ないですが、多くの場合、「職務<報酬」という社員が年配者ほど多く存在しているのが実情だと推察します。これは、不利益変更などの法的な手続きや移管措置を行う必要があるという手続き的な話ではなく、社員にとっては「自身のライフプランが描きづらくなる」ということへの対応を如何に講じるかであると考えます。要は、子育てや介護など、出費が多くなる40~50代の時期に、これまでのようなある程度は保証されるという考え方が通用しなくなるということです。「頑張っていれば報われる」という前提が崩れ、より自己責任でキャリアプランやライフプランを描くことの必然性が高まるため、社員の報酬への意識は格段に高まるはずで、これまでは皆無に近かったであろう報酬を含めた雇用条件の交渉や協議が増えるはずです。



ジョブ型人事制度導入後の人事部門の役割

ここまで人材マネジメントの5要素の観点から、ジョブ型人事制度を導入することによる本質的な意味の変化と影響について考察しました。もっと多方面に影響があること、やや偏った解釈での考察が含まれていることを自覚しつつも、今回の意図としては、「安易にジョブ型人事制度を導入すると失敗する可能性が高い」ということへの問題提起と、「誰の、何のため」にこの制度を導入しようとしているのかという根本的な問いに向き合っていただくことが重要であると考えたからです。
人事の役割は、組織の継続的な成長を見据えた長期視点で意思決定することであり、そこで働く社員にとっての意味や価値を考えることです。

ジョブ型人事制度導入の是非が社会の問題として挙がっている背景は、このままでは日本企業の多くがグローバル競争の中で衰退する可能性が高いという危機意識です。「高いレベルの同質化」がこれまでのビジネスにおける日本企業、日本人の強みであったのは事実ですが、グローバルの視野で客観的に日本の実情を見た時、既に私たちの人材価値は低くなっていることを自覚する必要があります。

だからと言って、安易に欧米企業に右に倣えという発想は最も危険です。ジョブ型人事制度に限らず、新たな仕組みを導入する際に押さえるべきポイントは、変化によって不利益となる既存社員の存在を含めた総体としての影響です。大切にしてきた組織風土や社員と会社の信頼関係など、中長期で築きあげてきた有形・無形の財産への影響です。

少なくとも、ジョブ型人事制度の根底にある思想は、実力主義や成果主義であり、一部の優秀な社員にとってはチャンスが広がる制度である一方で、大多数の普通の社員にとっては長期雇用が約束されない安心して働けない組織になる可能性もあります。まさに雇用システムの大変革なのです。この事実に如何に向き合うかが重要であり、導入是非を決断するためにも、どのような組織を目指すのか、社員にどうあって欲しいのかという揺らぐことのない思想が必要不可欠です。

人事はこの問いに対する議論を経営陣と本気で行い、その結論を踏まえ、強い意思をもって進めていく必要があることを忘れないでいただきたいと思います。いずれにせよ、従来のままという発想は捨てるべきであり、進化させていくことが大前提ですが、だからこそ、「何のために」という根本的な部分を人事として明確にしておくことが肝要です。

まとめ

ジョブ型人事制度導入による人事機能への影響
大前提は、雇用システムの大変革  

  採用: 一括採用の崩壊。問われるのは会社側の目利き力

  育成: 専門性の獲得は個人責任。リーダー人材育成を人事が牽引

  配置: 組織内の流動化は激減。解雇も容易になる

  評価: 成果・結果の比重が増加。中長期の取り組みが減少

  処遇: 条件交渉が増加。報酬格差の拡大

この記事の著者

株式会社リードクリエイト 取締役
菅 桂次郎

2003年7月よりリードクリエイトに参画。人材マネジメント全般に関わるコンサルティング営業を経て、2014年よりアセスメントサービス全般の開発から品質マネジメントを中心に、リーダー適性を見極めるアセスメントプログラムの進化を目指して活動を展開中。