200社の傾向から見える昇進昇格の実態と課題

2022.10.31

求めている人材像の実情

各社が掲げる社員への期待は、経営トップからの発信を軸に、各種人事制度や現場でのマネジメントを媒介して浸透していきます。理想は、経営トップの期待メッセージが日々の社員の行動に直結し、一貫した人材像として社員の成長へのモチベーションが高まる状態を創り出すことですが、「求める理想の人材」と「現実的に求められている人物」とのギャップに悩まされる企業が多いのが実態です。

社員の行動に影響を与えうる各社の人材像について考察してみたいと思います。

 

<経営者が求めている人材像>

ニュアンスやワーディングは各社各様ですが、多くの企業のトップが求めている人材を一言で表現すれば、「新たな価値創造を推進できる人」です。変革、イノベーション、価値創造、リーダーシップなどの言葉とともに、既存の枠組みを超えることへの期待メッセージが発信されています。背景には、これまでの事業の延長線上には、同様の成長軌道は描けないという問題意識が存在し、強烈な危機感の現れであると受け止めることができます。

<資格等級要件に明記されている人材像>

多くの企業では人事制度の根幹に等級資格制度を導入しており、各等級に応じた期待要件として、役割・コンピテンシー・能力指標などによって人材像が表現されています。前述の経営者が求めている人材との対比で考察すると、変革や価値創造という要素が実際的に期待要件として求められるのは事業責任を負う部長層前後からの企業が多く、若手や初級管理職層には「変革人材」というスローガンは提示されているものの、上位方針を確実に実行する、安定的な成果を出す、周囲とうまくやるといった、「安定・確実人材」として設定されていることが多いのが実態です。

<管理職登用時に評価する人材像>

管理職である課長相当に登用する際、いわゆる昇進昇格の判定時に重視する指標の観点でも、ビジョンや戦略思考、革新や価値創造という要素は期待事項として盛り込まれるものの、その比重から受け止められるメッセージは強くありません。職場の実態も安定・確実に仕事を回すことに手一杯であることも含め、企業によっては、課長の一番の役割は「上位方針を確実に遂行すること」であり、「変革は優先度が低い」「戦略は考える立場ではないから不要」と明言される企業もあります。その結果、外部のアセスメントを導入したとしても、会社が提示する指標が「安定・確実人材」の要素が全体の大部分を占める構造であるため、「変革人材」の素養があったとしても必然的に下位にランクされてしまいます。
上記のような実態を含め、課長相当から変革が起こりづらい結果へと繋がっています。

多くの企業で見られる管理職登用時の評価指標は以下の通りです。文言は様々ですが、求めている要素について自社との相違点を考察してみてください。

200社の傾向から見える昇進昇格の実態と課題

各社で起こっている人材要件ギャップの問題

前掲のように、多くの企業の経営トップは「変革人材」を求めているにも関わらず、実際の各種制度や仕組みから浮き彫りになる人物像は、課長層までは「安定・確実人材」になっているケースが多いようです。その一方で、事業責任や部門責任を担う部長層になってはじめて、戦略や変革というメッセージが付与されるものの、アセスメントなどの結果では、これまでの物事の捉え方、仕事の進め方、意思決定の傾向が強固に定着しているため、変革人材に必要な要件を満たしている人材は圧倒的に不足し、「我が社には変革人材が足りない」「次の経営を担えるリーダー人材が育っていない」という人事や経営陣の切実な声に繋がっています。

これは決して大袈裟な話や作り話ではなく、多くの企業で実際に見られるリアルな光景です。そもそも能力とは何かという知識にも関連してくる話ですが、能力は使わなければ退化していくものであり、大切なことは日常的に活用することで伸ばしていくことです(これを能力開発や人材育成と呼びます)。入院した際、数週間で足の筋肉が衰えるのと同様に、ビジネスで必要な能力も使わなければ衰えていくものです。どのような視点で自社のビジネスを観ているのか、何を自分の問題として担当領域の仕事に取り組むのか、どこを目指して自身のスキルを磨いていくのか。こういった日々のちょっとした姿勢の積み重ねが成長には重要な要素であり、この観点は、資格等級や職種などに関係なく、新入社員を含めたビジネスパーソンの誰もが持つべきものであると考えます。

このような実態の結果、多くの企業では早い組織で3~5年目には「方針に従順な人材」となり、30歳前後には「期待通りの安定・確実人材」という綺麗な球体へと成長(退化)してしまうのです。長い年月とコスト、膨大なエネルギーをかけて、本来求める人材とは真逆の方向に向かっているという深刻な問題に向き合うことが大切です。

リーダー人材が育っていない問題の本質

端的に言えば、「なぜ企業は、新人の段階からビジョン構想や戦略思考を求めないのか」という問いに帰結します。従来の組織は、安定的な環境の中での事業展開が前提であり、「同水準の業務品質を、多くの人が再現性を持って実行すること」が成功の要諦でした。これは製造業やサービス業、インフラ系のビジネスでは特に重要視され、ジャパンクオリティの名のもとに、日本的経営の強みの源泉であったのは事実です。一方で、時代は大きく変化し、その前提が変わった中においては、そこで求める組織のあり方も、一人ひとりの社員が持つべき視点やスタンスも変化しているはずです。

人事制度における階層という考え方は、業務経験の優劣がビジネス成果に最も高い相関があるという前提で設計されたものであるため、経験が通用しない、もっと言えば過去の経験が足枷になる時代においては、まったく別の視点で人事諸制度を設計する必要があるはずです。

リーダー人材が育っていないという問題の根本的な原因は、旧来のビジネスにおける組織管理者が成果を出すために必要であった要件を人事制度の根幹に置いてそのまま運用し続けていることであり、リーダーの定義や本当に必要な要素の議論が為されないまま、昇進昇格という重要な意思決定を「従来通りの指標と手続きで行っていること」であると考えます。

管理職登用において見直すべき人材要件

ではどのような観点で人材要件を見直していくかですが、前提にある囚われに気づくことが起点となります。そもそも、リーダー育成の文脈で、新人と社長を分けて論じる必要があるのでしょうか。世の中には、20代で起業する人もたくさん存在します。これは、年齢(≒経験)は経営者の資質に必ずしも関係ないという証左でもあり、大企業におけるリーダー育成においても同様です。もっと言えば、新人より課長の方が偉い、課長より部長の方が偉い、部長より社長の方が偉いという、無意識的な上下意識があることも影響しています。組織における役職は、「偉いから」ではなく「役割の違い」であるはずで、基本的にはそれ以上でもそれ以下でもありません。むしろ大切なことは、企業が掲げる理念や目的へのコミットメントであり、リーダーに必要な能力であり、リーダーとしての実績です。その結果が、尊敬や信頼という「偉い」という要素へと繋がってくるはずです。

  • 高い志を持ち、将来を見据えて新たなことに挑戦していく
  • 日々発生する様々な問題に向き合い、周囲を巻き込んで解決へと導いていく
  • メンバーとビジョンを共有し、個の力を結集する
  • メンバー同士が助け合い、協力し合える関係性を築く
  • 誰よりも物事にコミットメントする信頼に足る人物である

これらの要素は、社長であっても新人一年目であっても、リーダーの文脈で言えば同じように必要なことです。そして何より、こういう新人や若手を多くの企業が求めているはずであり、言われたことを忠実に実行する人物を期待している訳ではないはずです。

課長や部長の昇進昇格においては、まずは「昇進昇格基準そのもの」が、実際にどのような人物像のメッセージとして表現されているかの考察とともに、経営トップの期待、現状の人材育成ポリシーと内容から発信される実際的な人物像、現場で運用されている人事評価上の指標など、評価に関連する様々な指標を洗い出してみてください。大切なことは、指標そのものではなく、運用までを含めた実際的に発せられている人物像の考察であり、それが、自組織の中で無自覚・無意識で重要視されている「優秀な人物像(≒現制度で評価される人の条件)」であるはずです。その暗黙知化された人物像を言語化し、本来期待する人材像とのギャップを特定したうえで、昇進昇格時の基準だけではない仕組み全体の見直しへと繋げることが肝要です。

また、見直す際の大切な観点は、それぞれの施策における評価指標との切り分けです。管理職登用の昇進昇格において特に整理すべきは、「これまでの役割や役職における現在のパフォーマンス」と「これから新たに期待されている役割や役職におけるパフォーマンス」の切り分けです。言い換えれば、現場で運用されている人事考課の評価項目と昇進昇格における評価項目であり、これらは似て非なるものです。この切り分けが曖昧なまま運用してしまうと、現場と経営の双方からの不満へと繋がってしまうため、「誰が、いつの、何を評価しているのか」という視点で整理しておくことが重要です。

人事考課

直接の上司が、現在担当している仕事・職場において、半年または一年程度の間に発揮された行動や成果を評価している
→現在の役割である主任・係長としての実績

昇進昇格

経営や人事が、今後期待される管理職という役割・役職において、期待通りのパフォーマンスが発揮できるかどうかの可能性を評価している
→将来の役割である管理職としての活躍の可能性

その他、見直すべき人材要件の領域は以下の通りです。100%の正解が存在しないものであるからこそ、自社が持っている人材への考え方を軸に、一貫性のあるメッセージであるか、評価する領域が切り分けられているか、社員の成長に繋がっているかといった観点で、改めて整理してみることをお勧めします。

  • 見直すべき人材要件
     ・TOPメッセージ
     ・人事制度上で明文化された資格等級要件
     ・育成ポリシー
     ・人事評価上の評価項目
     ・上司の育成スタンス
     ・採用・入社時の期待事項

この記事の著者

株式会社リードクリエイト 取締役
菅 桂次郎

2003年7月よりリードクリエイトに参画。人材マネジメント全般に関わるコンサルティング営業を経て、2014年よりアセスメントサービス全般の開発から品質マネジメントを中心に、リーダー適性を見極めるアセスメントプログラムの進化を目指して活動を展開中。