ウェルビーイング経営-発展し続ける組織のつくり方

2023.05.31(更新日:2024.04.01)

ウェルビーイング経営-発展し続ける組織のつくり方

時代の変化とともにビジネスパーソンの価値観は多様化し、「カネ、モノ、地位などの外的価値を重視する傾向」から「幸せや健康などの内的価値を重視する傾向」へ、「モノの豊かさを追求する傾向」から「心の豊かさを追求する傾向」へと変わってきています。さらに、健康経営や働き方改革の推進、そして新型コロナウィルスにより自分自身の生き方や働き方を自然と見つめ直す機会と直面し、その傾向はより一層加速しています。

そのような背景が起因してか、今、「ウェルビーイング」という考え方が注目されています。幸せな人はそうでない人に比べて、創造性が3倍高いこと、生産性が1.3倍高いことなども明らかになってきており、ウェルビーイングが成果を出すための一要素としても重要視されるようになってきました。このような研究結果も注目される理由でしょう。

このコラムでは、日本の組織の実情を鑑みながら、ウェルビーイングの実現に向けた「組織の姿」を明らかにしていきたいと思います。

昨今、注目されているウェルビーイングとは何か

ウェルビーイングとは

昨今、いたるところでウェルビーイングをテーマにしたセミナーが開催されていたり、書籍が多数販売されていたりと、「ウェルビーイング」は、人事界隈におけるトレンドワードになってきています。また、ウェルビーイングを経営の最重要課題に置き、ウェルビーイング経営を推進する企業も増えてきています。

そもそも「ウェルビーイング」の言葉の意味あいとしては、単に、病気ではない・病弱ではないという狭義の健康状態、肉体的な健康状態を示すのではなく、「幸福であり、肉体的、精神的、社会的すべてにおいて満たされている状態」「心身ともに健康で社会的に良い状態」を指します。「肉体的な健康状態だけを指すのではない」ということがポイントでしょうか。

ウェルビーイングを測る切り口

ウェルビーイングを高めるための切り口として、ポジティブ心理学で有名なマーティン・セリグマン博士が提唱する「PERMA」という構成要素が有名です。

・Positive Emotion(ポジティブ感情)
・Engagement(エンゲージメント)
・Relationship(人との関係性)
・Meaning and Purpose(人生の意味や仕事の意義、および目的)
・Achievement/ Accomplish(何かを成し遂げること、達成すること)

セリグマン博士はウェルビーイングを実現するための重要要素として、それぞれの頭文字をとった「PERMA」という5つの切り口を提唱しており、研究の成果から、この5つの構成要素のレベルが高まれば、ウェルビーイングが高まり心理的な苦痛・ストレスも減少すると主張しています。

日本人の仕事に対する価値観

日本人は仕事にネガティブなイメージを持ちがち

2017年にギャラップ社が行った職場状況に関する国際比較調査において、日本人の仕事に対する価値観がわかります。日本人の中で「熱意あふれる社員」の割合はわずか6%であり、調査した139カ国中132位と最下位クラスでした。他にも、「熱意のない社員」の割合は70%、「全く熱意のない社員」の割合は23%と芳しくありません。同調査におけるアメリカの指数は「熱意あふれる社員」が33%、「熱意のない社員」が51%、「全く熱意のない社員」が16%という数字であり、仕事に対する熱意に大きな差があることがわかります。

「サザエさん症候群」という言葉をご存じの方も多いと思いますが、サザエさんが放送される日曜日の夕方ごろになると、翌日からの仕事のことを考え、憂鬱になる、あるいは心と体に不調が起こるという症状があります。これはずいぶんと昔から言われていることで、その傾向は今も変わっていません。日本人は昔から仕事をネガティブに捉えている人が多いということでしょう。

ウェルビーイングを妨げる理由

変わらない日本企業

既に「VUCAの時代」と呼ばれて久しいですが、昨今のテクノロジーの進化に代表される一層の社会構造の変化によって、先行きが不透明で未来を予測することが困難な状況に拍車がかかっています。

益々、会社・組織としての知恵がイノベーションや価値創造のカギを握り、競争上の優位性を大きく左右する時代になってきています。この時代を生き抜いていくためには、従業員一人ひとりが生き生きと働く、つまり、ウェルビーイングであることが重要なります。

しかし、前述した通り、日本人の仕事に対する価値観に変化は見られません。その集合体である組織においても同様で、大きな変化が感じられないのが現実です。

日本の組織に蔓延る学習性無力感

日本人の仕事に対する価値観が変わらない、ウェルビーイングが実現できない理由は何でしょうか。もちろん様々な要因が絡み合い今に至っているので一概には言えませんが、日本の組織に蔓延る「学習性無力感」という現象が、ウェルビーイングを妨げる大きな理由のひとつではないかと考えます。

学習性無力感とは、何度試みても失敗が続き、望む結果を得ることができないことによって、自己効力感が低下し、最終的には努力が無駄であると認識され、不快な状態やストレスを避けるために、努力すること自体をやめてしまう現象のことを指します。

例えば、「上司に提言したことが即否定される」「ミーティングのシーンで発言したことが受け入れられない」「上司の考えに異を呈したら怒られる」など、これが続くと、人は状況に対して何もできないと感じる状態になります。そしてこの状態になると、個人は自己効力感を失い、将来の成功への信念を失ってしまいます。「どうせやっても無駄だからやらない」という指示待ち人間が増え、やがて仕事に対する熱意も失っていく・・・このような「学習性無力感」が蔓延しているのが日本の組織の実情ではないでしょうか。

ウェルビーイングを実現する組織づくりの一丁目一番地

ウェルビーイングの実現は重要課題である

ウェルビーイングは、健康や経済的な豊かさだけではなく、幸福な生き方や人間関係、社会的つながりなど、多様な要素を含んでいるため、個人の努力だけでなく、組織、社会全体が協力し合って実現を目指すことが必要です。しかし、日常の大半を働くことが占めるビジネスパーソンにとっては、「働く上でのウェルビーイングの実現」が最も重要な要素でしょう。しかも、ウェルビーイングがビジネス成果に大きな影響を与え、競争優位性を確立する重要な要素であることが明らかである今、経営や人事にとって、従業員の働く上でのウェルビーイングの実現がことさら重要な課題と言えます。

もちろん、それを理解し、ウェルビーイングを経営課題として掲げ、そのための制度を整備している企業も増えてきています。しかし、制度を整備するだけでは、ウェルビーイングの実現は難しいでしょう。「学習性無力感」の生じない組織、ウェルビーイングな組織を目指すには、組織の風土や文化を根本から変えようとする努力が必要です。特に日本の組織は、個人が業務に対する自己決定力を持たず、上司や組織の指示に従うことが求められる傾向が強いので、生半可な努力では組織を変えることなどできないでしょう。しかし、それを実現しない限り、日本の企業に未来はありません。

組織づくりの一丁目一番地

では、何から始めれば良いのでしょうか。ウェルビーイング実現の一丁目一番地は「どのような組織を目指すのか」を明確に定めることであると考えます。どのような組織を目指し、何を大切にするのかという組織像を明確にするうえで非常に重要となる観点として、以下の3つを挙げたいと思います。自社に適した「ウェルビーイング」のあり方や取り組みを検討される際のヒントになれば幸いです。

1. 目的への共感

「目的への共感」は組織の求心力となり得る重要な要素です。会社とは一人では成し遂げられないことを実現するためのものです。メンバーが協力しながら一人では成し遂げられない「何か」を成し遂げていく、その「何か」が社会的に価値あるものであり、共感できるものであるとき、人は組織へ属することへの誇りを感じ、自身の仕事に熱中するようになります。先行きが不透明で混沌な時代だからこそ、働く従業員の拠り所として「目的」の重要性が高まっています。

2. 職場の一体感

組織で何かを成し遂げるためには、一体感の醸成が必要不可欠な要素です。職場の一体感を醸成するうえでキーワードとなるのが、多様性と心理的安全性です。組織には様々な人が所属していますが、その個性を認め合い、ポテンシャルを活かしあうことが重要です。そのためには一人ひとりが異なる人間であるという認識のもと、一人ひとりと真剣に向き合うことが必要です。その積み重ねが信頼関係につながり、心理的安全性が担保された関係を築き上げます。学習性無力感が蔓延する組織とは全く逆の組織と言えるでしょう。

3. 仕事への関与

組織で何かを成し遂げるためには、一人ひとりの仕事への関与姿勢も重要な要素となります。自らが仕事へ意義を見出し、仕事に対する誇りとコミットメントを持って取り組むことが理想です。そのためのキーワードは目的意識と自己決定力です。この仕事は何のために行うのか、社会にどのような価値を生むのか、自身の仕事の意義を問うことが目的意識です。目的意識がなければ、やらされ仕事となり、創造性も生まれなくなります。また、主体的に仕事に取り組むためには、自己決定力が非常に重要です。自己決定力とは、仕事に対する様々な決断を自分の意志で選択できるということです。この自己決定力がないと、会社や上司が決断の軸となってしまい、自分自身で考える力が養われません。学習性無力感が蔓延する組織においては起こりがちなことです。

 

この記事の著者

株式会社リードクリエイト
プロダクト統括本部 プロダクト推進室 マネジャー
角 美寛

2008年1月よりリードクリエイトに参画。2022年3月まで一貫して営業畑を歩み、大手企業を中心に顧客の人事・人材育成上の課題解決に従事。2022年4月よりアセスメントプログラムの品質管理や新たなソリューション開発、販売促進施策の展開をメインに活動中。

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