アンコンシャスバイアス~オープンな組織をつくるために必要なこと

2023.09.27(更新日:2024.04.01)

アンコンシャスバイアス~オープンな組織をつくるために必要なこと

ダイバーシティ推進の高まりに伴い、にわかに注目されるアンコンシャスバイアス。国籍・性別・年齢などの属性に対する先入観や思い込みによるステレオタイプバイアス、管理職、専門家など権威のある人や上位職の意見はすべて正しいと思い込む権威バイアスなど、アンコンシャスバイアスは日常のあらゆるところに存在します。

さて、このアンコンシャスバイアスについて、皆さんはどのような印象を持たれているでしょうか。悪いイメージを持っていないでしょうか。実は、アンコンシャスバイアスは決して悪いものではありません。むしろ、誰しもが持っているものです。しかし、アンコンシャスバイアスに対して無知でいるとなると話は別です。

本コラムでは、組織のリーダーに焦点をあて、アンコンシャスバイアスによる負の影響を押さえ、オープンな組織をつくるための考察をしていきたいと思います。

アンコンシャスバイアスとは何か

「彼女は周囲からの信頼も厚く、チームでもリーダーシップを発揮しています。仕事での成果も上々で、クライアントからも高く評価されています。管理職として登用してみてはどうでしょうか?」

「しかし、彼女はまだ小さいお子さんがいるだろう。理系出身だし、コミュニケーションも苦手にしているはずだ。普通に考えると、まだ早いんじゃないかな。今回は管理職への昇格は見送ろう。その変わり、クリエイティブな仕事をしてもらってはどうか。女性らしい感性も活かせるだろうし。」

「子育て中の女性に責任の大きい仕事は任せられない」「理系出身者はコミュニケーションが苦手」「女性には女性らしい感性がある」・・・

このように、私たちは無意識のうちに、思い込みや先入観、固定概念によって、意思決定をしたり、人と接したりしています。「自分自身では気づいていない偏ったものの見方、考え方、思い込み」をアンコンシャスバイアスと言います。特段新しい概念ではないですが、DEI(ダイバーシティ/多様性、エクイティ/公平性、インクルージョン/包括性)の取り組みが活発になってきた昨今において、徐々に日本でも注目度が高まっています。

アンコンシャスバイアスは、無意識的に、言わば瞬間的・自動的に生じるものであり、私たちの日々の意思決定に大きな影響を与える要因の一つであると考えられています。

もっとも、バイアスを持つこと、それ自体が悪いことではありません。人間は皆、何かしらのバイアスを持っています。人間の脳には毎秒大量の情報が入ってきますが、このうち意識的に処理できる量は10万分の1未満と言われています。このような大量の情報を迅速に処理するために、脳は過去の経験や蓄積した知識を活用し、無意識に一瞬で物事の判断を行います。言わばアンコンシャスバイアスは、人間が生きていくうえで必要不可欠なメカニズムであると言えます。

リーダーのアンコンシャスバイアスが及ぼす負の影響

人間が生きていくうえで必要不可欠なメカニズムであり、誰しもが持っているアンコンシャスバイアスですが、特に組織のリーダーが自身のバイアスにより物事を決めつけ、それを押しつける人間であったならば、どうなるでしょうか。

  • 責任のある仕事は男性が担うべきだ
  • 毎日定時で退勤する社員は、仕事に対するモチベーションが低い
  • ○○大学を卒業しているから仕事ができる
  • 愛想がないから、営業には向かない
  • 年配の人はデジタル技術についていけない
  • 技術者はコミュニケーション能力が低い
  • 若手は従順であるべきだ

冒頭に例として挙げたものも含めて、これらはすべて無意識のうちに生じる思い込みです。アンコンシャスバイアスは効率的な意思決定をもたらす反面、その代償として正確性が失われる危険性があり、時に不合理な選択に行きついてしまう場合があります。それが組織のリーダーが取った行動であるならば、言わずもがな、組織やそこで働くメンバーに対して負の影響を及ぼします。

組織に及ぼす負の影響

特定の属性を持つグループが優遇されたり、排除されたりすることにより、上位職の人間の意見や多数派の意見のみが重宝される可能性があります。これにより、多様性が欠如し、意思決定に偏りが生じ、創造性やイノベーションが妨げられるという問題が生じます。特にVUCA時代と呼ばれる現代においては、多様なバックグラウンドや視点からの発想が必要で、それなくしてイノベーションは進まないと言えます。

メンバーに及ぼす影響

採用、育成、昇格、配置など、必要な場面において公平性が機能せず、正当な評価がされなくなります。個々人の実力や能力が過小に評価されたり、逆に過大に評価されたりと、その人物の本来の姿、本質を十分に見極めることがなされず、せっかくの人材を活かしきれないという問題を引き起こします。また、人間関係の悪化を招く可能性も考えられます。無意識の思い込みや偏見は普段の言動に表れやすく、何気ない会話の端々に滲み出てきます。その配慮ない発言は、メンバーの気持ちに強く影響し、モチベーショの低下に繋がってしまいます。最悪の場合には、人材が流出するという事態に発展することも考えられます。

負の影響を及ぼす決定的な要因

このようなアンコンシャスバイアスが及ぼす負の影響ばかりに目が向き、「アンコンシャスバイアス=悪」と捉えてしまうかもしれませんが、一概にそうではありません。例に挙げた「子育て中の女性に責任の大きい仕事は任せられない」というアンコンシャスバイアスを考えてみても、父親や祖父母が育児を行っている、ベビーシッターがついているなどという可能性を最初から排除し、「育児は女性の役割である。よって、この女性社員も育児が大変である。」という思い込みが存在していますが、それと同時に、女性社員への気遣いや思いやりの証であるとも言えます。実際に「育児が大変なので助かる。ありがたい。」と感じる女性社員もいるはずです。

では、アンコンシャスバイアスが負の影響を及ぼす決定的な要因は何でしょうか。それは、アンコンシャスバイアスにより、解を「決めつける」ことと、それを他者へ「押しつける」ことです。

自身の先入観、固定概念、考えが正しいと思い込み、他者の意見に耳を傾けない。自身のアンコンシャスバイアスによる解を正しいと決めつけ、それを他者に押しつける。この「決めつける」ことと「押しつける」ことが、負の影響を及ぼす決定的な要因と考えられます。この傾向が強くなればなるほど、上述のような負の影響が生じる可能性が高くなります。やがては、周囲のメンバーはリーダーの解に合わせに行くようになり、本音を言うことのできない心理的安全性が脅かされる組織に陥っていきます。

「決めつける」「押しつける」行動の裏には、おおよその場合「自己防衛」が潜んでいます。新たな概念や異なる価値観からの意見に触れると、今まで培ってきた自分自身を否定されるような気がしてしまいます。それにより、「自分の考えは間違っていない」と自分を正当化しようとしたり、今まで正しいと思い込んできた考えを否定されたくない、と都合よく解釈をしてしまったりと、自己防衛が生じてしまいます。そのため、自身のアンコンシャスバイアスにより導いた解を正しいものだと決めつけたり、それに従うよう他者に押しつけたりという行為が助長され、自分自身の存在を守ろうとする行動をとります。

アンコンシャスバイアスとの向き合い方

しかしながら、人間である以上、アンコンシャスバイアスを排除することはできませんし、排除する必要もありません。重要なのは、自身のアンコンシャスバイアスにより導かれた解を、「決めつけない」こと、「押しつけない」ことです。 そのためには、「自身のアンコンシャスバイアスに気づく」こと、「自身のアンコンシャスバイアスと向き合い、深く自分自身を理解する」ことがキーポイントになります。

まずは、自分自身がバイアスを持っていることに気づき、認めることからがスタートです。一般的に人は、「自分はバイアスを持っておらず、物事を客観的に判断できている」と思っています。バイアスを持つこと自体が悪いことではなく、むしろ持っていることが当たり前であると正しく理解することが第一歩です。

そして、自分自身のアンコンシャスバイアスと向き合い、自己理解を深めることが重要です。自身が出した結論について振り返ってみて、そこにバイアスに影響されたものは存在しないか、そして、自分自身はどのようなバイアスを持っているのかを把握することが肝要です。そのためには、自身の行動や思考の癖を振り返ること、すなわち、内省の習慣を身につけることが必要になります。そうすることにより、今まで無意識に判断していたことに対して、「この結論は本当にそう言えるのか」「思い込みで判断していることはないか」と、一旦立ち止まり自問できるようになってきます。重要な意思決定においては、表面的な思い込みによる一瞬の判断ではなく、裏付けとなる情報やデータなど事実に基づいて判断する思考プロセスを踏むような段階までくれば、アンコンシャスバイアスに影響されない意思決定が実現可能になるでしょう。

オープンな組織づくりに向けて大切なこと

テクノロジーの進化に代表される社会構造の変化により、将来を予測することが益々困難になってきています。そのような環境下の中でも価値を創造し、競争上の優位性を築いていくためには、リーダー一人の力では限界があり、現場の知恵や意見がより一層重要になります。そのためには、思ったことを率直に言い合える、お互いの意見が自由に飛び交うような、心理的安全性が担保された「オープンな組織」をつくる必要があります。そして、このような組織をつくるのがリーダーの役割です。

「オープンな組織」をつくるためには、まずはリーダー自身が謙虚でなければなりません。そのときに、アンコンシャスバイアスは邪魔な存在です。無意識に導いた自分の考えを正解だと決めつけず、メンバーの声にも耳を傾ける、そのような姿勢を身につける必要があります。虚勢を張って「リーダーっぽく」見せようとするのではなく、わからないことは正直にわからないと伝え、逆にメンバーから教えを乞う、そのようなリーダーの姿勢が風通しの良い「オープンな組織」をつくっていきます。

もう一つ大切なことは、メンバーを尊重することです。メンバー一人ひとりと向き合い、理解しようとする姿勢が重要です。メンバーが持つアンコンシャスバイアス、強みや弱み、志向性などの「特性」に目を向け、そのメンバーが最大限活きるフィールドを用意するためには、メンバー一人ひとりに対する「解像度」を高めなければなりません。そのようなマインドを持ち、姿勢であたることにより、相互理解が進み、やがて相互信頼へと繋がっていきます。自身のアンコンシャスバイアスと向き合うこと、それがオープンな組織をつくっていくファーストステップと言えます。

 

この記事の著者

株式会社リードクリエイト
プロダクト統括本部 プロダクト推進室 マネジャー
角 美寛

2008年1月よりリードクリエイトに参画。2022年3月まで一貫して営業畑を歩み、大手企業を中心に顧客の人事・人材育成上の課題解決に従事。2022年4月よりアセスメントプログラムの品質管理や新たなソリューション開発、販売促進施策の展開をメインに活動中。

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