優秀な管理職を育てるための重要な論点

2023.06.12(更新日:2024.04.01)

優秀な管理職を育てるための重要な論点

管理職のマネジメント力を高めたいという相談が増えています。

特に、コロナ禍によってもたらされた働く環境の大きな変化に対し、うまく適応できた管理職と、まったく適応できず組織運営が滞ってしまった管理職とに二極化してしまったという問題意識をお持ちの人事担当者が多いようです。

既存の管理職教育の延長で良いのかを含め、組織成長のカギを握るといっても過言ではない管理職の育成は、本来どうあるべきなのかを考察してみたいと思います。

優秀な管理職と成果を出せない管理職との違いは何か?

社員育成の中でも、新任管理者に対しては、各社様々な研修などの育成施策を展開しています。会社の方針理解、マネジメントの基礎知識習得、問題解決力の向上、部下指導・育成力の強化、評価者訓練など、管理職に求められる行動を効果的に実践していくために必要な教育プログラムが準備されているかと思われます。一方で、それらの教育が、ほとんど活用できていない受講者が多いという人事の皆様の声を含めて、管理職の強化に対する相談を受けることが増えているという印象です。

そもそも、優秀な管理職と成果を出せない管理職との違いは何なのでしょうか。意識や意欲の違い、能力の違い、経験の違いなど様々な論点があると思いますが、本質的に何が違うのでしょうか。実はここが明確になっていないまま、研修をはじめとする育成施策を展開している組織が多いように感じています。その結果、上記にあるような管理職に必要なアプリケーションの強化ばかりが先行し、実場面での再現性の低いプログラムに留まってしまっている可能性は否めません。肝入りで導入した1on1の取り組みが、全く機能していない理由もここにあります。

私たちが保有するアセスメントの結果から言える一つの考察として「物事の捉え方の違いの差」が「行動の選択肢の差」となり、それがマネジメントという「結果の差」へと繋がっていることがわかります。同じ状況・条件の中において、どのような視点から物事を捉え、どのように解釈するかという、ある状況下における管理職としての視界の違いが、その優劣を分けていると言えます。

優秀な管理職は、日常の中で遭遇するあらゆる事象に対して、無自覚な面も含めて多様かつ多面的な仮説がたっています。逆に、成果を出せない管理職の傾向は、物事を限定的・一面的にしか捉えられないために、行動の選択肢が制限され、当然結果も限定されるということです。その背景にあるのは、当事者意識や役割意識という観点、常に疑問を持って問いを立てる力、物事を捉えるフレームの多様さなどが考えられますが、少なくとも同じ状況、同じ事象であっても、それをどういう観点で捉えるかという「視界と認知の差異」こそが、マネジメント行動の差になってあらわれていると考えられます。

優秀な管理職が持っている3つの視界

では、優秀な管理職が持っている視界には、どのようなものがあるのでしょうか。各社で活躍している管理職の皆様との対話からも確認できることとして、大きく3つの視界があるように感じています。それは「高さ」「広さ」「多面性」です。

一つ目の「高さ」は、視座という言葉がある通り、どの立場、どのポジションから物事を捉えるかという視界です。所謂階層別教育の中においては「いまのポジションより一つ上、ないしは二つ上から物事を考えるように」というメッセージを送ることが常ではありますが、この差が成長に及ぼす影響は、想像以上に大きいものと痛感しています。放っておいても伸びていく社員が持つ特性は「たとえ新人であっても、自分が社長ならこう考える」という志向を持っています。これは、当事者意識の差とも言え、思考の傾向としては常に「何のため」「なぜそうなのか」という問いへの自分なりの見解を持っているということです。

二つ目は「広さ」です。イメージする力とも言い換えてよいかもしれません。前後の工程や、過去・現在・未来という時間軸など「いま自分に見えている出来事」がどのような経緯を辿った結果なのか、そしてこの状況がこの先にどういった影響を及ぼしていくのかという「見えないもの」への視界です。この視界が捉える解像度の高低が、問題解決や部下育成の差に直結するといっても過言ではありません。「この先どうなるのか」「なぜそうなってしまったのか」という問いによって、視界を想像的に拡げていくことが重要です。

最後の三つ目が「多面性」です。立場を変えて物事を観る力と言えます。我々の組織活動における事象には、多くの人間が介在している複雑性の高い問題が多く、コインの裏と表のように、物事の解釈は表裏一体です。特に人間関係の分野においては、Aさんの主張とBさんの主張が真逆になることも珍しくありません。そして、どちらの主張にも一定の妥当性と信憑性があり、ここに感情的な解釈を含めると、双方の言い分が例え真逆であったとしても、それぞれが真実なのです。このことを軽視して、どちらか一方の主張だけに寄って判断された行動の先に、どのような結果が生じるかはマネジメント経験のある方なら想像できると思われます。対極にある立場から見える視界をバランス良く持つことが重要です。

育むべきは物事を捉える認知の力

ここまで、優秀な管理職が持つ視界について論じてきましたが、これらの視界は、強烈に意識をしないと変えられないものだと考えられます。脳の構造や特性を含めて、我々人間は、想像している以上に自分の都合の良い事柄、興味関心のある事柄以外のことは、まったく見えていないという自覚を持たなければなりません。

そういった面では、管理職になるタイミングにおいては、入ってくる情報の量や質の変化、本人のモチベーションの変化を含めて、視界を変えやすい環境にあるとも言えます。そのため、役割意識や経営知識などの視界を変えるための教育プログラムが準備されている訳ですが、上述の通り、簡単には変えられないという前提にたって、日常を漫然と見ないことが重要です。まずは何より、目的意識を持つことが肝要です。そのうえで「どのような状態を理想とするのか」を自分で設定しておかなければなりません。この観点が抜けてしまうと、見ていても見えないというパラドックスに陥ってしまいます。何か射的となる対象との対比の中にこそ、差異や違和感が見つけられるということです。

次は「自分の認知の癖を知ること」です。多くの場合は事実と解釈が混在してしまっており、自身の経験や価値観による「自分が見たいもの」を優先して物事を捉えがちです。そのため、無意識・無自覚に関心が向かう先は、どのようなものかを自覚することが起点となります。目標や業績なのか社員のモチベーションなのか、結果なのかプロセスなのか、社外なのか社内なのかなど、どこに意識が向かってしまうのかという「認知の利き手」を知ることが、対極にある視界を拡げることに繋がります。

最後は「問いを立てる力」です。昨今、ChatGPTなどのAIツールが話題を呼んでいますが、有効に使えるかどうかの鍵は、この問いを立てる力の差であると考えます。捉えた事実を鵜呑みにせず、本当にそうなのか、なぜそう言えるのかという問いを立てられるかが重要です。この先にどうなるのか、なぜこのような結果になったのか、どこに原因があったのか、自分ならどう感じるかといった具合に、問いを立てることによって、自身が「一旦認知した視界」に対して、様々な観点から検証していくことが重要です。

管理職が持つべき「組織」を捉える視点

管理者が為すべき最も重要なことは、メンバーが最大限の力を発揮できる環境づくりです。そのため、組織がいまどのような状態なのかという視点を持たなければなりません。実際の組織の多くは、力の発揮を阻害する要因に溢れているのが実情です。メンバー相互の関係性や、繋がりの度合い、方針や目標に対する共感度や達成に向かう意欲、業務プロセスで発生している諸問題など、組織の血流を悪化させている「見えない要因」を捉えるという意識を持たなければなりません。

意思決定されたことが現場に浸透していないということは多いですが、それは何かが詰まっていることの証左です。メンバー個々の気持ち、信頼関係、認識の齟齬など、組織を動かしている見えない暗黙のルールを知る必要があります。結局のところ、組織は何に従って動いているのかという視点です。これは「恐れや囚われの可視化」とも言えます。管理職である自分自身という特定人物の影響を含めて、メンバーの日々の行動を規定している暗黙の評価基準を可視化することが、環境を整えるうえでの起点となります。

具体的には、部門間の相対的な力関係などが挙げられます。営業部門と製造部門、現場系とスタッフ系など、組織が持つ特有の力学が、あらゆる活動に影響を与えています。また関係性の観点では、経営に対する信頼度が与える社員への影響は大きく、一人ひとりが自分らしさを発揮していくうえで必ず捉えるべき視点です。

現場の社員一人ひとりが、自発的かつ主体的に動いていくためのボトルネックを特定し、環境を整えることに、優秀な管理者は力を注いでいます。そして理想を言えば、管理者が動いた形跡は極力見せないことが肝です。メンバーが本人の意思で動き、自分たちの力で問題を解決したというある種の勘違いをうまく利用することが、組織を成長させるうえで非常に重要となるのです。絶対に管理者の手柄にしてはならないという自制心も合わせて持つことが大切です。

管理職が持つべき「人」を捉える視点

組織を捉える視点が、メンバー間の関係性とすれば、個々のメンバーを捉える視点を育むことが同時に求められます。これは、メンバー一人ひとりの自発的なエネルギーの発揮度合いの見極めとも言えるでしょう。どの程度、集中して役割や業務に力を注げているかという視点です。

組織というコミュニティで働く以上は、何かしらの制約を受けているのが実態です。この制約は、良い方向で機能すればコミットメントを引き出し、規律や一体感という観点でプラスの影響をもたらします。一方で、マイナスに作用すれば、一人ひとりの感情に蓋をしてしまい、持てる力を発揮するうえでの大きな阻害要因にもなり得ます。どの程度、自分らしさが発揮できているかという視点を基軸に、メンバーの内面の状態に関心を向けることが重要です。

同時に、メンバー個々の仕事への適性という客観的な視点も重要です。上司が想定していることと、メンバーが抱えている仕事上の悩みは大きくズレている可能性が高いものです。意外な点が躓きのポイントになっていることも多いため、よく観察し、日ごろから対話することが大切です。また、仕事へのモチベーションは、プライベート面の環境も大きいため、日常会話の中から、変化点を察知する感度を磨くことも重要です。健康面も含め、モチベーションを下げている要因に意識を巡らすことで、メンバーの置かれている環境に視点を向けることが肝要です。

本質的に、管理者はメンバーのモチベーションを上げることはできませんが、下げる要因を取り除くことはできます。その際の最も重要な観点は、上司である自分自身との心理的距離です。双方の信頼度とも言い換えられます。最後はこれに尽きると言えるでしょう。人間関係とは信頼関係の度合いであり、結局は、管理職自身が、メンバーから信頼されているかが重要です。「人は動かすことはできない。人は動くものである」という認識に立ち、動くうえでの言動力となる、自己信頼と他者信頼を如何にして育むか。この二つが合わさった時にこそ、自分の役割に全力を尽くすことができるのであり、管理者が持つべき最も重要な視点であると言えます。

まとめ

  • 優秀な管理職は「見ているもの」が違う
  • 優秀な管理職が持つ視界には「高さ」「広さ」「多面性」の3種類がある
  • 認知の力は、漫然と過ごしているだけでは鍛えられない
  • 管理職は「組織」と「人」を捉える視点を養うことが重要

この記事の著者

株式会社リードクリエイト 常務取締役 菅 桂次郎

2003年7月よりリードクリエイトに参画。人材マネジメント全般に関わるコンサルティング営業を経て、2014年よりアセスメントサービス全般の開発から品質マネジメントを中心に、リーダー適性を見極めるアセスメントプログラムの進化を目指して活動を展開中。

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