「せっかく色々と考えて企画した研修なのに、受講者に積極的に参加してもらえない」
このようなお悩みをお聞きすることが多々あります。たしかに、講義をしっかり聞いてほしい、質問もしてほしい、他の受講者と積極的に意見交換をしてほしい、と考えるのは企画側の立場としては当然の思いです。
そのためには、企画時にどのような点に留意する必要があるのか、考察を深め、多面的な観点から施策を検討していくことが重要です。
研修受講者の参加意欲が高いとどのような影響が起こりうるのか
研修成果の最大化に向けて、受講者の参加意欲を高めることは非常に重要な要素と言えます。受講者の意欲が高いとその結果はプラス方向に動くことは当然ですが、具体的には以下の成果が得られると考えます。
学習内容の理解度アップ
参加意欲が高い受講者は、学びたいという気持ちが強いため、学習情報の把握と理解が促進されます。また、研修内で消化しきれなかった課題についても、その解決に向けて自ら動いていくため、主体的に行動する姿勢も身につきます。
参加意欲の伝播
参加意欲が高い受講者は、グループワークやディスカッションへの関与が積極的になるため、他の受講者との相互学習が促進されます。それが他の受講者の参加意欲を高めることにつながり、学習効果はもちろんのこと、社内の人脈づくりにも寄与します。
研修の意義の高まり
参加意欲が高い受講者が増えることによって、研修は退屈な場ではなく楽しい場、教えてもらう場ではなく気づきを得る場など、そのイメージをポジティブかつ主体的な観点へと転換させることができます。その結果、研修成果や組織への還元効果が大きくなります。
逆に参加意欲が低いと、上記のことはマイナス方向へと進んでしまいます。特に「研修の意義の高まり」は受講者のみならず、組織全体への影響が懸念されるため留意が必要です。
研修受講者の参加意欲の高低を判断する論点
そもそも研修への参加意欲とは、受講者のどのような行動によって、その高低を判断できるのでしょうか。どうしても受講者の研修内での行動や振る舞いに目が向きがちですが、研修前後のプロセスにも目を向けていくことが重要です。
- 研修前 -
研修への参加に向けた自発性や主体性から参加意欲を確認することができます。
自発性は、自ら研修への参加を希望したかどうかです。自発的に参加意思を表すことは、その研修に対する関心や学びたいという気持ちが高いことを示します。研修の募集形態によっては確認が難しい場合もありますが、最も重要な論点と言えます。
主体性は、研修への参加に向けて事前にスケジュールや研修内容を理解しようと情報を収集し、準備を整えているかどうかです。
これらは、研修への参加機会を真剣に受け入れようとしている態度と言えます。また、研修に参加する目的や自身の期待を明確にできているかどうかも判断材料になります。目標達成やスキルの向上を望んでいるか、自己成長やキャリアの発展につながると考えているか、その意欲の源泉を確認することも重要です。
- 研修内 -
研修内の言動や振る舞いから参加意欲を確認することができます。
例1|
講師や他の受講者の発表内容に対して、真剣に耳を傾け、内容を理解しようとする姿勢が見て取れるかどうかです。
積極的傾聴(アクティブリスニング)を通じて、他者とのコミュニケーションを深め、学びの質を高めることができます。そのためには、リスペクトとオープンマインドが重要です。他者の考えを尊重し、異なる意見を受け止め、新しい視点から学ぼうとする姿勢が重要です。
例2|
積極的にディスカッションに参加し自分の考えや経験を共有する、疑問や不明点がある場合は適宜質問を行う観点からも確認ができます。
他の受講者との交流を促進し、グループの学びの質を向上させることができているか、 研修中に適切な質問をすることで理解を深め議論を推進させているか、疑問点を明確にし自分の理解を確かめることできているか、という言動を確認してみましょう。
- 研修後 -
企画側へのフィードバックから参加意欲を確認することができます。
研修中の反応、研修受講後のアンケート回答など、時には企画側にとっては耳の痛い指摘や要望があがることがあります。多くの場合、これらは受講者なりの研修に対する期待や要望があったからこそであり、そのギャップを埋めたいがために出てくるものです。
また、日常業務への活かし方からも確認することができます。受講者の今後の行動変容に向けたアクションプランに「明日からの第一歩を踏み出せる具体性と現実性はあるのか」がポイントです。小さくても第一歩が無ければ二歩目、三歩目は歩めません。
参加意欲を高める工夫(事例)
研修を企画する際、一般的には、①受講者の関心を引く内容や実務に直結するトピックを入れる、 ②受講者のニーズや要望に基づいてプログラムを構成する、③講義だけでなく対話やディスカッションを多く導入する等、研修の中身への関心が高くなります。もちろんこれらも重要な論点ですが、ロバート・ブリンカーホフ氏の4:2:4の法則にあるように、研修の前後策や周囲の関わりも重要です。
今回、4つの事例をご紹介します。前提として、各組織や各社員はそれぞれ違いがあるため、意欲が高まる動機も画一的なものではありませんが、自社の現状を踏まえ、施策を検討される際の参考にしていただければと思います。
事例1『経営トップからのメッセージ』
一般的に企業規模が大きくなればなるほど、社員と経営層の直接的な関わりは薄くなりがちです。
あるクライアントでは、研修冒頭の開講挨拶に社長自らが会場へ出向き、受講者の方々へ直接メッセージを伝えました。受講者にとっては大きな驚きでありつつ、自分たちのために貴重な時間を割いてくれていることへの感動も生まれました。
研修の開講挨拶は多くの企業で実施されていますが、「何を伝えるか」より「誰が伝えるか」に着眼を変えてみてはいかがでしょうか。対面ではなくとも、動画を用意し、事前の案内時や研修終了時などに発信することも有効です。
事例2『研修受講の意味づけ』
今回の研修は何のために受講するのか(したのか)について、研修前や研修後に第三者との対話の場を設け、研修を単なるイベントとして捉えるのではなく、今後のキャリア形成に向けたプロセスとして捉える支援を行いました。
受講者本人の目線だけで考えるのではなく、他者の視点を取り入れることで思考の枠を拡げ、多面的な観点から研修受講の意義を捉えるようにすることがポイントです。
なお、第三者は直属上司(先輩)、他部署上司(先輩)、人事、講師など多岐に渡りますが、受講者の内省や意見を引き出すことが重要となるため、当該スキルの有無がその効果に大きな影響を与える点は留意が必要です。
事例3『変化の可視化』
勉強することで成績が上がる、有酸素運動をすることで体力がつく、というように、変化が見えると意欲の向上につながりやすくなります。
研修受講においても、受講前の状況と受講後の状況にどのような変化が起きたのかを可視化する取り組みが重要です。
知識を得たい、行動を変えたい、能力を高めたい等、それぞれの目標を具体的に設定し、関係者へ周知し、研修後にどのような変化があったのかを検証しました。もちろん学習内容によっては可視化が難しいものもありますが、目標をしっかり立てること、変化に向けた取り組みを具体化すること、可能な範囲で定量化することがポイントになります。
事例4『チーム活動の導入』
研修の場で意欲高く取り組んだとしても、職場に戻ると日々の業務に忙殺され、高かった意欲は薄れていき結果として何も変化を起こせない受講者は多いようです。
意欲を維持するための方法として、研修で編成されたチームメンバーとの接点を継続させる支援を企画側が用意するのも重要です。具体的には、月1回のオンラインミーティングの場づくり、半年に1回の対話機会の提供、それらに対する職場のサポートなどです。
これらの取り組みによって相互に刺激を与え合いながら変化を起こしていくとともに、研修に対するポジティブな印象の形成にも役立てる効果が得られています。
人事の方々へお伝えしたいこと
私はプランナーという立場上、多くの人事の方とお会いします。その際に本テーマに関するお悩みをよくお聞きします。
これまで述べたような施策の重要性を分かっている、できるものであればやっているなど、それが実現できない制約や社内事情があることもお聞きしますし、歯がゆさを持っていることなども身に染みて感じます。他方、変化を起こそうとするとそれなりの困難があり、変化を諦めてしまうことは衰退への第一歩になるとも感じています。
いきなり全てを変えることは難しくとも、中期的観点から一つずつ変えていく、それが数年た経つと大きな変化になっていたとの事例も多く見てきました。
私たちは小さな変化を起こしていくための伴走者として、企業の人事の方々と歩んでいきたいと考えています。
まとめ
- 研修への参加意欲が高いと、研修での学びの効果が高まるとともに、研修へのポジティブなイメージが組織全体に広まっていく
- 研修への参加意欲を検証していくにあたっては、研修内での言動だけなく、その前後における受講者の言動にも着目してみる
- 研修への参加意欲向上に向けて、受講者の周囲の関係者を巻き込み、多面的な観点から対応を練っていく必要がある
この記事の著者
株式会社リードクリエイト
ソリューション事業本部 ソリューションパートナー室 兼 マーケティング推進室
辛 鐘世
2005年よりリードクリエイトに参画。アセスメントプログラムや階層別教育施策の導入運用を中心に、各社の組織課題や人事課題の解決の支援に携わる。近年はこれまでの経験や支援で培った知見をマーケティング施策にも展開し、多くの企業の課題解決に寄与する情報を設計・発信中。
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