実際に経験してみてわかった管理職(ミドルマネジメント層)に必要な教育プログラム

2023.07.31(更新日:2024.04.01)

実際に経験してみてわかった管理職(ミドルマネジメント層)に必要な教育プログラム

ミドルマネジメント層の強化は、多くの組織が抱えている課題の一つです。一方で、組織で起こる様々な歪の受け皿が、管理職層に集中していることもあり、プレイヤーからの意識変革を含めて、育成が後手に回ってしまっている感は否めません。

本コラムでは、筆者自身の体験を大前提に、管理職になる前、もしくは着任した直後に身につけておくべきだと痛感した知識・スタンス・考え方などを洗い出すとともに、管理職向けの教育プログラムに取り入れるべき要素について言及してみたいと思います。

管理職の役割とは

そもそも、管理職とは何なのでしょうか。より具体的にイメージするために、「課長」という職位を前提に紐解いていきたいと思います。

課長とは、「課」という組織単位の長として、課の成果創出に責任を持つ人です。もう一段掘り下げて表現するなら、「課という組織が再現性高く成果を上げ続けられるようになる状態を作り出すこと」が期待されているポジンションであると言えます。

課長の役割を考える際、PDCAをしっかり回す、メンバーを指導・育成する、課の方針や戦略を考える、業務改善を行うなど、具体的なタスクが論じられることが多いですが、これらのすべてにおいて「何のために?」という視点が抜け落ちたまま、盲目的にタスクを実行している人が多いように感じています。何より、私自身がそうでした。その結果、「管理職と監督職の違いは何か」「マネジメントとリーダーシップのどちらが重要か」「成果と育成はどちらを優先すべきか」「1on1は効果があるのかないのか」などの些末な議論に繋がり、本来的に学ぶべき目的を見失っていたように反省しています。

所属する組織によって、成果を上げる方法には違いがあります。同じ組織でも、置かれた課の状態によっては、よりプレイヤーとしての活動が求められることもあれば、メンバーの活動を後方支援することで成果を上げる方が効果的なこともあるかもしれません。要は、常に変化する組織の状態に合わせて、的確な手段を選択し、最良の関わりによって「継続的に成果を上げられる状態に近づけていくこと」が重要であるということです。

管理職に期待される役割が、以前に比べて、プレイヤーとしての比重が高まっているという実態がある中において尚、メンバーを育てることが強く求められている背景には、「継続的に成果を上げられる状態を如何にして作り出すか」が、事業継続上、非常に重要であるということです。課長という職位から経営側の人間になるということは、事業継続の観点で再現性の高い組織を如何に創り上げるかが求められる役割であると言えます。

管理職が直面する5つの修羅場

前述の「管理職の役割」を遂行する際の障壁として、管理職が直面するいくつかの修羅場が存在します。逆説的に言えば、持続的かつ発展的な経営を行っていくためには、その過程で起こり得るこの修羅場を乗り越える必要があるからこそ、そこを託すことができる人物に課長という重要な役職を付与しているとも言えます。では実際に、私自身が修羅場だと感じた5つのケースを見ていきましょう。

修羅場1:説明責任

課長職を担うようになって最も増えることは、あらゆることへの説明責任です。会社の方針や戦略上の意思決定に対し、「なぜ会社はそのような方針を立てたのか」「どこに向かおうとしているのか」など、経営者の代弁者としてメンバーに背景や意図をストーリーで語ることが求められます。少なくとも、「よくわからない」「●●らしい」という曖昧な回答ではメンバーを動機づけることはできず、逆に会社批判をしたり、説明自体を放棄するようでは、メンバーの意欲を削ぐことに繋がります。そして何より、「課長自身はどう思うのですか?」というメンバーからの問いに対し、自分の言葉で誠実に語れるかどうかが、強く求められるようになります。

修羅場2:メンバーの評価と育成

ある意味では最も大変な役割とも言える、メンバーの評価に関わる一連の取り組みです。目標設定から始まり、期中のフォローと期末の評価、そして最終的な査定結果への説明など、課としての成果創出を見据えつつも、メンバー一人ひとりの活動を、如何にして成長や貢献に繋げていくかが求められます。実際問題、綺麗事で語れるものではなく、人事制度という枠組み(制約)の中で、どのように意味づけを行い、メンバーの納得と意欲を引き出すかが難しく、多くの管理職の方々が頭を悩ませていることだと推察します。特に、成果が規定しづらい間接部門の評価や、管理職である自分よりも高度な専門性を有するスペシャリストの評価は、その妥当性や公平性を含めて、運用面での上司の力量が特に強く求められるものです。

修羅場3:チーム内の人間関係

個人的な経験則ですが、組織内で生じている問題の80~90%は、人間関係に起因するものです。「敢えて空気を読まない」という高度なスキルが効果的な場面もありますが、基本的にはメンバーの表情やちょっとした発言から読み取れる機微を察知し、未然に関係性を修復していくような関わりが理想です。少なくとも、何か問題が勃発してから動くのでは時すでに遅しです。人間関係の問題が難しいのは、そこには「人の感情」が介在するからであり、どう感じるかというものに絶対的な正しさは存在しないからです。一方で、一人ひとりへの共感姿勢は重要であるものの、仲裁に入るべき自分自身が感情的になってはならないという難しさもあります。そして何より、不満の原因が管理職である自分自身の場合もあり、如何にして信頼関係を構築するかという意識をもって、日常のちょっとした振る舞いに気を配らなければなりません。

修羅場4:他部門との連携と調整

組織の問題を解決していこうとすればするほど、課という枠組みを超えたより広範な領域への働きかけが必要となってきます。理想論で言えば、クライアントへの提供価値の最大化に向けて全社視点で部門が連携し、一致協力していくことが大切ですが、そう簡単ではありません。全社ビジョンや方針など、総論賛成であっても、いざ自分たちの業務への影響までを考えると、各論反対という事態は当然のように起こり得ます。経済学の言葉に「合成の誤謬」というものがありますが、良かれと思って精一杯活動した個の動きが、全体に負の影響を及ぼしてしまうことも多々あり、利害が衝突する部門間の連携や調整を如何に図るかは、より大きな問題に直面した時にこそ強く求められることです。

修羅場5:上司への起案

最後は、自身の上司への働きかけです。「上司ガチャ」という言葉が出てくるくらい、世の組織人にとっては、上司の存在は大きいものです。自身が課長だとすれば、部長が該当します。そして、何かを変えていこうとすればするほど、リーダーシップの発揮先は、部下ではなく上司です。特に、過去からの成功パターンが強固な事業ほど、短期的な業績が確実に見える分、中長期を見据えた改善や改革の難易度は高まります。PL責任を負う部長と意見が対立することは悪ではなく、むしろ健全な状態とも言えるものの、上意下達のマネジメントスタイルの上司の場合は、相応の覚悟と信念をもって対峙することが求められます。

事前に学んでおくべきだった4つのこと

ここまで、課長の役割を起点に、実際に私自身が直面した修羅場を題材にして、管理職に求められることを書き連ねてきました。自分自身が実際に経験し、葛藤を乗り越えたからこそ言える、事前にしっかり「学んでおくべきだった」「理解しておくべきだった」という4つのことを以下に整理します。

①会社や事業に関する深い理解

メンバーから見れば、管理職を担っている人物は、経営側の人間という認識です。いま振り返れば、この本質的な意味が理解できていなかったという反省しかありません。会社が大事にしている思想、目指している状態や成果、重要度の高い問題などについて、表面的な理解ではなく、「何のために、どこに向かおうとしているのか」を自分の言葉に落とし込むまで理解できていることが大事です。大組織であればあるほど、全体像は掴みづらく、メンバー個々の活動と経営の距離は遠くなります。組織と個人を繋げるためにも、まずは何より会社や事業に関する深い理解は必須であると考えます。

②会計知識を含めた経営数値・データを読み取る力

経営上の成果の多くは、数字・データとしてあらわれます。そして、これらの数字やデータを経年で比較していくと、異常値を含めた「問題点の当たり」がつくようになります。階層別研修などの企業内教育において、経営の枠組みや会計知識について、一般論を学ぶことはあっても、自社の実データをもって学ぶ機会は多くはないという実感です。打ち出している方針が、どの数字を変えようとしている行為なのか、その結果がどのような数値としてあらわれたのかを捉えられるようになると、より一層、物事の見え方が立体的かつ時間軸を伴うようになります。部門独自のKPI設定を含めて、数値・データを読み取る力を磨くことは「成果責任を果たすため」にも必須であると考えます。

③心理学とシステム思考

現場で起こる出来事は、すべてが繋がっています。ある事象の一つが単独で起こることはなく、その前後や背景には必ず別の出来事が連鎖的に繋がっているため、この連鎖的な物事の繋がりを掴む力こそが、組織の問題を解決するうえで必須であるということです。そこで重要となるのが人間の心理への理解とシステム思考です。各種コミュニケーションスキルやロジカルシンキングを学ぶことは常態化しつつありますが、管理職に求められる問題解決は、より包括的なものであることを考えても、必須のスキルセットであると考えます。

④自分自身のスタイル

最後は、自分自身への理解です。自身が管理職になった際に、どのような状態に陥るのかに対する客観的な認知を高めなければなりません。先述の修羅場に直面した時に、内面にどのような葛藤が生じ、何を重視し、どのような振る舞いをするのかなど、自分自身の無自覚・無意識な側面も含めたマネジメントやリーダーシップのスタイルを知っておくことが重要です。同時に、内省し自身の状態をメンテナンスするという視点も大切です。想像以上にストレスがかかる役割だけに、自分自身の内と外に現れる症状を理解しておくことが大切です。

新任管理職研修で取り入れるべき3つの要素

ここまでの自身の経験談を基に、新任時における管理職研修に取り入れるべき要素について整理したいと思います。現実問題として、OffJTとして確保できる時間は1~2日間が限度だと思われるので、その時間を有益に活用するためにという前提で取り込むべき優先順位の高い要素を3点紹介します。

要素1:理想のチームの状態

まずは何より、「どのようなチームにしたいか」という自分なりのビジョンや方針の明確化です。ここは十分な時間をかけて理想の状態の解像度を高めることが重要です。何のためにチームが存在し、何を大切にし、どのような価値提供をしていくのかなど、自身が目指したいチームの指針をしっかり作ることが起点となります。

要素2:リーダーとしての自身の役割の言語化

次が、リーダーである自分自身の役割です。会社やメンバーなど、自身のステークホルダーから期待されていることを整理するとともに、掲げたチームの方針を実現するために、どのような価値提供をしていくのかを明確にすることです。結局のところ、いくら綺麗な言葉で方針を打ち出しても、当のリーダーがどれだけ本気なのかをメンバーは見ています。自分が何を為すかという率先垂範の覚悟を見せるためにも、自分の中での揺らぐことのない基軸を明確にしておくことが重要です。

要素3:解決すべき課題の明確化

自身が預かる組織および期間の中で、優先的に解決すべき問題や課題をはっきりさせておくことが重要です。管理職のタスクは多岐に渡ることもあり、日常に忙殺されてしまった結果、気がつけば1年が終わっていたということも起こり得ます。そのため、すでに課題が明確な場合は、少なくとも1年後に目指す状態と初動の内容と時期は決めておくことが大切です。新たな組織に着任する場合でも、できるだけ早いタイミングで解決すべき課題を明確にしておくことが重要です。

これら3つの要素が明確になっているなら、あとは思い切って活動することが重要です。多くの企業では、マネジメントの基礎知識やコミュニケーションスキルや問題解決思考の強化など、スキル獲得に偏重しているように感じていますが、「目指すべきもの」が不明瞭な中では、せっかく習得した知識やスキルも使い物になりません。様々な修羅場に直面する管理職が活動していくためには、自分の軸となる理想や指針を固めることが何よりも重要であると考えます。

まとめ

  • 管理職の役割は、チームが継続的に成果を上げられる状態を作ること
  • 直面する修羅場を知り、予め準備をしておくことが重要
  • 事前に学習しておくべき優先事項がある
  • 理想の状態を言語化し、自身の活動の軸となるものを明確にしておくことが大切

この記事では、管理職に必要な教育プログラムに焦点を当てて解説しました。新任管理職層の育成施策推進の一助となれば幸いです。

リードクリエイトでは、企業や組織の人事部門の方に向けて、リーダーの選抜と育成に関わるソリューションを提供しています。

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この記事の著者

株式会社リードクリエイト 常務取締役 菅 桂次郎

2003年7月よりリードクリエイトに参画。人材マネジメント全般に関わるコンサルティング営業を経て、2014年よりアセスメントサービス全般の開発から品質マネジメントを中心に、リーダー適性を見極めるアセスメントプログラムの進化を目指して活動を展開中。

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