リーダー育成で外してはならない最も重要な論点

2023.05.31(更新日:2024.04.01)

リーダー育成で外してはならない最も重要な論点

リーダー育成に関して、悩みがまったくないという組織は存在しないと思います。

程度の差異こそあれ、思うように自組織の中でリーダーが育成できていないというのが実態であり、今後の事業継続や発展を考えた時に、重要度高位の課題であると言えます。

そもそも、どのようなリーダーを育成したいと考えているのか。そこにどのような思想や仕掛けが講じられているか。リーダー育成を教育体系の観点から考察してみたいと思います。

リーダー育成に関する指針は明確ですか?

これまで数多くの企業における人材育成、特にリーダー育成に関する相談を受けてきた中で感じることの一つに、「そもそもどのようなリーダーを育成していきたいか」という指針が明確になっていないというものがあります。所謂「人材育成方針」です。あったとしてもお題目として掲げている程度であり、本当の意味でその本質を理解し、コミットしている人は少ないように感じています。

各社の人事担当者と対話を繰り返す中で見えてくるものとしては、「組織に変革をもたらす人材」を理想のリーダーとしてイメージしている場合が大多数ですが、各社の人事諸施策に落とし込んでいくためには、もう一段階掘り下げた考察が必要だと考えます。特に、誰にどのような教育機会を付与するかという観点で、「何のために」と「どこに向かって」という指針を、改めて言語化することをお勧めします。

少なくともリーダー育成には時間がかかります。それもかなりの時間を要するはずです。そして唯一無二の正解は存在しません。もっと言えば、知識やスキルも重要ですが、半分以上は情熱や志、人間観などの非科学的な領域を多分に含みます。これらの要素は、予め定められた計画通りに育むことは現実的に困難であり、成長の度合いを数値化することにも大きな意味はありません。

リーダー育成の成果と、短期的な業績へのインパクトを直接的に紐づけようとする考え自体に無理が生じるため、揺らぐことのない超長期的な指針が必要不可欠です。だからこそ、誰よりも経営トップを担う人材が、最重要の経営課題としてリーダー育成にコミットすることが何より重要だと考えます。

リーダーに必要な人間性の教育

上述の「組織に変革をもたらす人材」を理想のリーダーとした時に、どのような特性を持っていると考えられるでしょうか。行動特性、能力、コンピテンシー、経験、専門性などなど、様々な切り口で検討が必要ですが、「〇〇できる」というニュアンスは多分に含まれるものの、人間性の根本にあるような領域を言語化し、リーダー育成の根幹に据えているケースは年々薄らいできているように感じています。

昔を美化する訳ではありませんが、以前の方がリーダー育成においては「機能」よりも「人間性」に比重を置いた教育が為されていたように感じています。特に、創業者が存命の時ほど、創業の魂ともいうべき領域に、リーダーとしての「あり方」を徹底的に問うていたのではないでしょうか。

実際、各社のサクセッションプランに関わる相談を受ける際、経営陣の方々との対話の中で伺える問題意識の多くは、リーダーとしてのスキルではなく、人間観に根づいたものがほとんどです。一人の人間としてのあり方、会社を公器として捉えることの重要性、世の中全体を見据えた思想、最終責任者としてのブレない軸、人への優しさ。そして、リーダーとしての覚悟。

リーダー育成の最終ゴールを経営人材の輩出として捉えた時、さまざまな知識や能力を獲得していくことは重要です。一方で、根底にどのような人材育成方針を据えるかが最も重要であり、事業や経営という社会や未来に大きな責任を背負うことになる人材だからこそ、リーダーとしてのあり方を育むことが重要なのだと考えます。

若い社員へのリーダーシップ教育

リーダー教育のタイミングについては、早すぎるということはありません。入社した時点でスタートさせるべきだと考えます。時々、「新人の頃は基本行動が大事なので、リーダーシップはまだ早い」というお考えの人事担当者に遭遇しますが、この考えは明らかにミスリードだと私は思います。

決して基本行動は必要ないという主張ではありません。「なぜ基本行動が必要なのか」を考えた時、それは自分自身がこれから社会で活躍し、世の中に価値提供していくためには、周囲を巻き込みながら良い影響力を発揮していく必要があるからです。そしてその大前提は、自分に対する周囲からの信頼が重要になるからです。決められたことを期日通りに正しくやることの意義や意味を、リーダーという文脈で紐づけて考えることが重要なのだと思います。常にリーダーを意識した行動を実践するようにメッセージを送るべきです。

多くの企業では、若手社員への期待として、主体性や挑戦性というキーワードを積極的に用いています。一方で、まだまだ型に嵌めようとする教育への比重が圧倒的に高いように感じています。マナー研修が不要とは言わないまでも、若手社員への教育機会において、どのような領域に投資すべきかは再考すべき重要事案だと考えます。

三つ子の魂百までという言葉があるように、若い社員への初期教育は非常に重要です。リーダーという言葉を、課長や部長といった役職として捉えるのではなく、周囲への良い影響を与える人物として捉え、すべての社員に期待されることとして一貫したメッセージに落とし込むことが大切です。「自分は将来どうありたいのか」。「どのような価値提供ができる人材を目指すのか」。このような問いを常に投げかけ、その時々における自分の言葉として言語化する機会を増やすことが、リーダー育成の起点であると考えます。

マネジメント層へのリーダーシップ教育

組織の中のリーダーというと、課長や部長という管理職をイメージする人が多いと思われます。元気がある組織ほど、この中間層のリーダーシップに厚みがあるというのが、私たちがアセスメント等を実施してみてデータ的にも確信できる点です。一方で、疲弊している管理職が多い組織ほど、当然ですが現場は不活性です。「あんな風にはなりたくない」という後進社員の反面教師となり、結果としてリーダーを目指す社員の母集団が小さくなっていくという負のスパイラルに陥ってしまいます。

管理職層への教育機会という観点で振り返ってみると、圧倒的に不足しているというのが私の感想です。新任時に研修などを実施する組織は多いですが、その内容は労務的な観点であったり、評価制度の理解というもので、1日間の知識教育というのが実態です。現場第一線のリーダーとして、将来的な経営を担っていくリーダーとしての教育機会、刺激の機会は、量・質ともに不足しているように思われます。

その一番の原因は、「とにかく現場が忙しすぎる」という点に尽きるのだと思います。実際問題、現場からの声に委縮してしまっている人事部門の方々にお会いすることもあります。そのためか、即効性のあるプログラム、現場で使えるものへのニーズ対応となり、これまで述べてきたようなリーダーとしてのあり方に代表されるような教育は後回しになってしまっています。結果、視点は超短期となり、部長、事業部長、執行役員へとキャリアを積んでいった先に、リーダーに最も重要な観点の圧倒的な不足感として問題が顕在化してしまっているのです。後継者不在という問題は、長い年月を経て取り返しのつかない状態になっていくということを自覚しておかなければなりません。

マネジメント層へのリーダーシップ教育は、現場の実態を含めて考えると、従来の階層別教育だけでは限界があると思われます。個別のコーチングやメンターからのサポートなど、個々が抱える日常の問題解決をサポートしながらも、中長期の視点でリーダーとしてのあり方を内省し、行動変容の気づきを付与するような取り組みが重要になってくると考えます。将来の経営を担う現実的なプール人材群として、管理職層へのリーダーシップ教育にもっと投資すべきだというのが私の考えです。

人間力のあるリーダーへと成長していくために重要なこと

ここまでリーダーという観点で、その育成のあり方に対する持論を述べてきましたが、ビジネスパーソンにおける人材育成は、「リーダー教育」と「専門性教育」の二つの領域があります。研究職なのでリーダーシップは不要という声もありますが、組織に所属している以上は、一人だけで全てが完結する仕事は基本的には存在せず、他者と協働することは全てのビジネスパーソンに求められます。そのため、リーダーシップという考えは、管理職という役職者だけに求められるものではなく、全てのビジネスパーソンに必要不可欠なものであるはずです。

一方で、経営者や管理職は、組織運営において役割と権限を付与された公認のリーダーであると言い換えることができます。そしてそこには、預かる組織全体への責任が付与されます。事業を推進していく責任や、メンバーの成長やチームを活性化させる責任です。自分自身が担当する業務を超えて、組織というより大きな責任を担うということは、影響の範囲が飛躍的に広がることを意味し、リーダーとしての資質がより一層強く問われるようになるということです。

だからなのか、管理職になりたくないという人が多いのも実態です。そこまでの責任は負いたくない、適度な範囲で働きたいという声はむしろ増えてきています。この価値観は第三者が否定するものでもなければ、基本的には自分らしさが最も大事なことだと考えます。環境的に管理職という役割を担えないという人も多いのが現実だと思います。一方で、リーダーという役割を考えると、利他的な観点がどうしても求められてきます。たしかに報酬水準は高くなりますが、役割や責任、そのプロセスで生じる煩わしさや苦悩を天秤にかけると、管理職という役割は、多分にボランティアの要素を含んでいると言っても過言ではないのだと思います。

だからこそ、リーダーには人間性を磨くことが大切になるのだと思うのです。社会のため、誰かのため、未来のためにより大きな役割を主体的に担っていくのがリーダーであり、これはもう理屈ではないはずです。起点となる動機は、報酬や名声、自己顕示欲かもしれません。ただ、多くの経験や失敗を経て、自分の生き方に向き合いながら、リーダーとしての素養を磨き上げていくことをどれだけ辛抱強く待てるかが、リーダーを育むためには最も重要なのだと考えます。

まとめ

  • どのような人材に成長してほしいかという人材育成方針の解像度上げることが重要
  • リーダー教育には、知識やスキルよりも人間性を育むことが大切
  • リーダー教育は早すぎるということはない
  • 管理職のリーダー教育に経営トップがコミットし、もっと投資すべき

この記事の著者

株式会社リードクリエイト 常務取締役 菅 桂次郎

2003年7月よりリードクリエイトに参画。人材マネジメント全般に関わるコンサルティング営業を経て、2014年よりアセスメントサービス全般の開発から品質マネジメントを中心に、リーダー適性を見極めるアセスメントプログラムの進化を目指して活動を展開中。

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