研修効果の検証-アセスメント研修の学習効果が高い理由

2023.02.17(更新日:2024.04.01)

研修効果の検証-アセスメント研修の学習効果が高い理由

アセスメント研修が持つ学びの構造(プロセス学習)

アセスメント研修とは、リーダーが直面する困難な状況をシミュレーションとして設定し、そこで観察された受講者の行動から能力の特性を測定・診断する研修形式のプログラムです。「人間の行動は、環境の影響を受ける」という前提のもと、「同じような環境では同じような行動パターンを選択する可能性が高い」という人間の行動心理の考え方がベースとなっています。

そのため、アセスメント研修でテーマとなる学びの領域は、「リーダーという立場」、かつ「自分自身が実際に選択した行動とその結果」です。第三者の学びを追体験するケース学習ではなく、第三者が整理した理論体系を学ぶ知識習得でもなく、あくまで自分自身が教材になります。リーダーという立場や役割を担った際に、なぜそのような発言や決断を下したのかという自分自身の内面に起きた心理的プロセスから得る内省学習(気づき)が、学習効果の観点から設計された構造的な特長です。

そして、多くの場合は、昇進昇格などの重要な意思決定にも用いられることや、大きく期待役割が変化する状況下でのリーダー教育として導入されていることもあり、「参加者自身が持ち得る最大限の力を尽くす」というモチベーションが働くため、他の研修に比して、その後のフィードバックや気づきが圧倒的に異質なものとなります。例えるなら、クラス代表のリレー選手になるという目標を持った状況で、100メートルを全力疾走した結果だからこそ、目標に向かうための自身の本質的な課題に向きあえるということです。

実ビジネスの中で、全力を尽くすという経験は、実はそれほど多いものではありません。アセスメント研修は、その活用目的や構造的な特長も相まって、自身が全力を尽くした結果と、そこで生じたプロセスを教材にすることで、無自覚・無意識下にあった自身の特性に気づくことができ、自己成長に向かうための課題に対して、真摯に向き合うことができるのです。

アセスメント研修受講後の望ましい状態

皆さんは、自分自身の特性に改めて向き合った時、どのような心理状態になるでしょうか。自分自身のことは、わかっているつもりが実は誰よりもわかっていなかったり、第三者には知り得ない自分だけが知る自分の存在があったり、数十年を経て構成された今の自分という存在に向き合い、その現実を受け止めることは容易ではありません。時にはスッキリしたという状態になることもあれば、潜在的に自身の行動にブレーキをかけていた深層にある恐れに対峙した際には、モヤモヤとした葛藤状態に陥ることもあるはずです。

アセスメント研修によって得られる気づきは、このような心理的葛藤によって得られるものであるため、多くの受講者にとっては、何かしらモヤモヤした状態になる可能性が高いです。私自身もそうでした。むしろ、そのモヤモヤこそが次なる成長に向かう健全な状態であり、「自問する」という行為によって、過去の自分、今の自分、そしてこれからの自分に向き合うことを、アセスメント研修では企図しています。大切なことは、自分の行動と未来は変えられるという自分自身への期待承認を持つことであり、そのためのサポートまでをプログラムに実装することを推奨しています。

アセスメント研修当日朝の受講者の状態

導入目的や受講者への事前のアナウンスによっても違いはありますが、昇進昇格などの試験的な位置づけで、そのことを受講者も十分に理解して参加している場合は、高い緊張状態で初日の朝を迎えます。人によっては、この日のために多くの研鑽を積み、自身のビジネス人生を掛けるといっても過言ではないほどの思い入れで臨むことになります。多くの方が経験したことがある高校や大学の受験当日の朝に近いと言えば、その独特の緊張状態はイメージできると思います。

登用の試験ではなく、あくまで階層別教育の一環として導入している場合は、そこまでの緊張状態で臨むことは稀です。他の研修と同様に、受講者によって研修に取り組む意欲にバラつきがある状態です。一方で、前述の通り、アセスメントプログラムが持つ特性上、「全力で取り組むこと」が気づきの効果の大きさや深さに近似することからも、事前のオリエンテーションでの動機づけが重要となります。研修の目的や会社からの期待を改めて自覚し、自分自身のリーダーとしての行動や能力を棚卸しするまたとない貴重な機会であることを知ると、多くの受講者はポジティブにシミュレーションに臨んでみようという状態へと変化していきます。やはり、「自分を知る」というテーマは、人間の知的欲求の最上位にあるのだと実感できます。

各シミュレーションで受講者が体験すること、体感すること

リーダーの真価は、逆境下に身を置いた時にこそ問われます。そのため、アセスメント研修で受講者が体験するシミュレーションには、3つの領域において意図的に負荷がかかるように設計されています。

一つ目は対人的な負荷であり、第三者との対立や葛藤が生じやすいような状況が設定されてます。二つ目は課題達成の難易度であり、簡単に判断・決断できない問題構造の複雑な状況が設定されています。最後は、上記の二つの負荷に対する時間的な制約がかけられていることで、常に緊急度の高い状況が設定されています。

以上のことからも、判断を後回しにできない、いまその場での決断が求められる状況に身を置くため、そこで選択される行動とその背景にある優先順位は、受講者が潜在的に持っているモノとして表出されやすい設計になっているということです。人事部門、人材開発部門の方より「1日や2日のシミュレーションなので、偽りの自分を演じられるのではないか」という質問を受けることが多いですが、筆者である私自身も計4回のアセスメント研修受講の経験がある中、演じる余裕を持てたことはありません。実際、アンケート結果のコメントは、とにかく必死で取り組むため、あっという間に時間が過ぎてしまったという人が大多数を占めることからも、演じられるほどの余裕はないというのが実態です。

しかし、これはあくまで「全力で取り組んだ場合」にのみ得られる体験です。達観し、力を出し切らない場合は、「ただのシミュレーション」であり、そこから得る学びは限定されます。当然、受講者も平然と、余裕をもって取り組むだけなので、「偽りの自分を演じた」と言えるのだと思います。

振り返りセッションの受講者の状態

アセスメント研修は、評価の機能がベースにありますが、育成の機能も備えています。特に、リーダー候補人材は、登用の可否に関わらず、組織にとっては貴重な人材群です。そのため、この層の総体的な成長を如何に促進するかが経営上における最上位の人事課題であると言え、多くの企業が評価と育成の両面を目的にアセスメント研修を実施しています。

その中でも、振り返りセッションは、成長の起点となる自己理解を促進する役割を果たすため、特に重要な時間となります。アセスメント結果から言える統計データの観点では、自己評価と他者評価の一致度が高い人材群は、リーダー適性の評価が高い傾向があります。逆に、自他の評価にギャップが大きいほど、リーダー適性の評価が低い傾向が読み取れます。要は、自己評価が的確にできている人ほど、周囲の期待値を理解しており、その実現に向けたギャップを正確に捉えているため、そのギャップを埋めるための努力(自己啓発)も適切に為される可能性が高く、結果としてリーダーとして成長するため、アセスメント結果も高くなるという構図が成立すると考えられます。

いずれにせよ、「自分はできている(十分である)」と捉えている以上、その後の自己成長に向けたアクションは為されないため、成長しないという結果に繋がります。振り返りにおいて大切なことは、まずは期待されている領域と水準を知ることが大前提で、その射的から見た時に、現在の自分はどの程度の差分を有しているのかを客観的に捉え、その事実をありのまま受け止めることです。場合によっては、自分にとって不都合な真実を受け入れることへの葛藤が、成長の源泉となり得ます。振り返りのセッションでは、まずは自分の状態を直視すること、その結果として内面に生じる大いなる葛藤に向き合うことができるかどうかが鍵となります。

フィードバック面談後の心理状態と気づきの価値

全てのシミュレーションと振り返りを終えた段階で、可能な限り内省のための時間を取ります。まさに自分への問いかけの時間です。何を感じたのかという自分の内面に目を向け、その状態をできるだけ率直な言葉で文字に落として言語化することに取り組んでいただきます。

そのうえで、評価を担当したアセッサーによるフィードバック面談を実施し、第三者が客観的に見た結果の共有を行います。うまくできたこと、できなかったこと、いつも通りだったこと、そうではないことなど、シミュレーションというある種の特殊環境下で表出した行動と、その内面に起きていたことを振り返っていきます。そのプロセスを経て、自分がリーダーという役割を担った際に取り得る行動のメカニズムを認識してはじめて、自分が大切にしている価値観や、無意識下にあるこだわりや恐れに気づくことができるのです。

当然ですが、自分が過小評価していた良さを発見することもあります。大切なことは、自分の特性に気づくことであり、その先にはじめて特性の活かし方を自覚したり、成長に向けて真に向き合うべき課題に対峙できたりするのだと考えます。強みを伸ばすべきか、弱みを克服すべきかという人材育成論の価値観を二者択一で論じることに意味はなく、重要なことは、ある状況下における自身の特性を知ることです。「強み」と認識していたことが、ある状況下では「弱み」になり得る可能性もあり、もっと言えば、その「強み」の特性を認識していなければ、再現性のある行動を取ることはできません。「ハサミ」を利き手に持っているという特性は、状況によっては強みとなりますが、別の状況では弱みになる可能性もあり、無自覚で振り回してしまうと、人を傷つけてしまうということです。

このような自身の特性に向き合い、自覚する場がアセスメント研修です。「何かを学ぶ」のではなく、「何を学ばなければならないのかに気づくこと」を通じて、その後の主体的な取り組みに強い影響を与えることにアセスメント研修の価値があります。

この記事の著者

株式会社リードクリエイト 常務取締役 菅 桂次郎

2003年7月よりリードクリエイトに参画。人材マネジメント全般に関わるコンサルティング営業を経て、2014年よりアセスメントサービス全般の開発から品質マネジメントを中心に、リーダー適性を見極めるアセスメントプログラムの進化を目指して活動を展開中。

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