管理職が「部下を育成する」ために外してはいけないこと

2023.08.21(更新日:2024.04.01)

管理職が「部下を育成する」ために外してはいけないこと

長年、管理職の悩みランキングトップとして君臨し続ける「部下の育成」。時代が変わっても管理職の頭痛の種であることに変わりはありません。さらに近年では、年齢、性別、国籍、文化的背景など、多様なバックボーンを持つ部下が増えたり、仕事や働き方、キャリアに対する価値観の多様化が進んだりと、より一層管理職を悩ますこととして、存在感を増しているような気がします。

その影響もあってか、「部下があまり成長していない」と感じている管理職の割合も数年前に比べて増加しており、部下の成長を実感している管理職の割合も下降傾向にあるようです。このような結果に陥ってしまっている原因は、どこにあるのでしょうか。

本コラムでは、管理職を悩ます「部下の育成」について探ってみたいと思います。現場の実態を知らずして、最適な施策を講じることは叶いません。「現場の管理職の実態」を把握する際の参考材料として、今後の人事施策を検討する一助になれば幸いです。

部下を「育てよう」とするマインドが失敗を招く

部下を育成することが目的化する管理職

管理職にとって尽きることのない悩みとして存在する部下育成。その状況とは裏腹に、管理職に求められる重要な役割として挙げられるのも、この部下育成です。なぜ管理職には部下を育成することが求められるのでしょうか。それは、「継続的に組織の成果を創出する」ことが、管理職の最重要ミッションであるからです。ここで間違ってはいけないのは、目的は「成果を出し続ける」ことであり、「部下を育成する」ことではないということです。「部下の育成」はその手段でしかありません。「継続的に組織の成果を創出するための手段として部下を育成することが必要」。この文脈で捉えるからこそ、部下を育成することが管理職に求められる非常に重要な役割に挙げられるのです。

部下の育成を悩みと感じるている管理職が多い一つの理由として、この「目的の捉え違い」が大きく影響していると思います。別の表現をすると、「(知らず知らずのうちに)部下を育成すること自体を目的として認識してしまっている」ということです。そのため、管理職自身が部下を育成するための行為ができていない、部下の成長に何ら寄与できていないと感じ、部下が思うように成長していないのは自分自身の力不足であると捉えてしまい、大きな悩みにつながっているのではないかと思います。人事としては、管理職が部下を育成することの「目的」を正しく捉えられるようメッセージを投げかけることが重要となるでしょう。

人は育てようとして育つものではない

そもそも「育成」とはどのような意味を持つ言葉なのでしょうか。ここで、「育成」の意味を整理しておきたいと思います。「育成」という言葉を辞書で引いてみると、次のように記載されています。

育成 = 立派に育て上げること

また、同じような場面でよく使われる言葉として「指導」というものがあります。同じく「指導」を辞書で引いてみると、次のように記載されています。

指導 = 目的に向かって教えみちびくこと

両者を比較してみると、「育成」には「立派にする」という目的・ゴールがありますが、「指導」にはそれがありません。「指導する側」に解があり、「指導を受ける側」に対してその解を伝え、「正しい方向」へと導いていくこと。これが「指導」です。一方、「育成」には「立派にする」という目的があります。「立派にする」という言葉には、今の業務ができるようになるといったような、範囲が狭く、期間が短いものだけではなく、ある種人間的な成長も意味しているものだと捉えることができます。教え導く「指導」だけでは、立派に育つこと=「育成」は叶いません。

管理職の多くは、部下を立派にするために、この「指導」をしなければならないと思い込んでいるのではないでしょうか。もちろん、新入社員がビジネスパーソンとしての基本行動を身につける際など、状況においては「指導」が必要なこともあります。しかし、それは部下を立派に育てる過程においては、ほんの一部でしかありません。むしろ現代では、管理職である上司よりも部下のほうが専門的な知識・スキルを有している場合が多々あります。また、先行きが不透明な環境において、上司が解を持ち合わせていないことも多くなってきています。要は、上司が「指導」できること自体が少なくなってきているのです。そのような状況にも関わらず、管理職は部下に対して「指導」しても成長を感じられない、「指導」に充てる時間が十分に取れないなどという思いを抱き、その結果が管理職が抱く長年の悩みへとつながっているのではないかと推察されます。

そもそも、人は育てようとして育つ、立派にしようとして立派になるものではありません。むしろ、無理やりに育てようした結果、全く成長しなかったということすら起こりえます。これを示す概念に「ピアジェ効果」と呼ばれるものがあります。早期英才教育において長期間に渡り追跡調査を実施した結果、無理に成長を強いられた子供たちの多くは、20歳を過ぎたあたりでピタリと成長が止まってしまうということが確認されました。この概念は、無理に成長・発達を促そうとすると、どこかで成長が止まってしまうということを示しています。植物を育てるときをイメージするとわかりやすいかもしれません。植物を育てるために大量の化学肥料を与え続けると、いずれおかしなことになると思います。植物を育てるためには、適切な場所や土壌を用意し、適切な水や肥料を与えるなど、育つ環境を整えること、育つためにケアすることが必要となります。人の成長も考え方は同じです。強引に育てようとするのではなく、その人にふさわしい、適切な課題と支援を与えながら、その人自身で変わっていくということが重要となります。管理職はまず、この「育成する」ということに対して、マインドチェンジを図ることが必要となるでしょう。そして、このマインドチェンジをバックアップすることが人事の役割です。

誰とでも同じコミュニケーションを取っていては部下とうまくいかない

部下の育成を悩みと感じるているもう一つの理由が、「部下との関係性・コミュニケーション」についてでしょう。冒頭に述べた通り、多様なバックボーンを持つ部下が増えたり、仕事や働き方、キャリアに対する考え方、価値観の多様化が進んだりと、管理職にとって部下とのコミュニケーションは今まで以上にハードな課題になってきています。「部下とうまくいかない」と感じている管理職は相当数存在すると思います。今回はこの部下とのコミュニケーションの悩みを解決するヒントとして、ロバート・キーガンの「成人発達理論」について紹介したいと思います。人事の方も、管理職育成コンテンツを考えるうえで、参考にできる考え方だと思います。

成人発達理論とは、知識やスキルを発動させる根幹部分である知性や意識そのものが、一生をかけて成長・発達を遂げることができるという考え方のもと、人の成長・発達プロセスやそのメカニズムを解明する学問のことです。成長・発達の対象は人の意識構造です。意識構造とは、人それぞれが持つ独自の世界観、固有のレンズのことを言います。もう少し平たく言うと、「物事の見方」と言ってよいでしょう。この意識段階が高くなればなるほど、物事を広く、深く捉えることができるようになってきます。要するに、人の成長は死ぬまで一生続き、成長・発達につれ、この独自の世界観=物事の見方が変わっていくという考え方です。

ロバート・キーガンは、人の成長・発達は以下の5段階に分かれるとし、それぞれの段階で「物事の見方」に特徴があると述べています。

発達段階1:具体的思考段階

この段階は、子供や未成年者のことを指します。具体的な思考はできますが、形のないものは理解できない状態です

発達段階2:道具主義的段階(利己的段階)

この段階からが成人です。この段階に属する人は、極めて自己中心的な認識の枠組みを持っており、自らの関心ごとや欲求を満たすために、他者を道具のようにみなすという特徴を持っています。よって、自分と他者との関係を、損か得か、勝ちか負けかで捉えがちです。他者がどのようなことを考え、どのような気持ちなのかを考えることが難しく、相手の立場に立って物事を考える力が不十分です。

発達段階3:他者依存段階(慣習的段階)

この段階に属する人は、組織や集団に従属し、他者に依存する形で意思決定を行うという特徴があり、組織や社会の決まり事や慣習を従順に守る傾向があります。要するに、行動や意思決定の基準が自分の中ではなく、組織や上司など周りの存在、自分の外を基準に築き上げられています。よって、自分独自の価値体系を持っておらず、自分の意見や考えなどを表明することが不得手です。ただし、発達段階2とは異なり、相手の立場に立って物事を考えることができます。

発達段階4:自己主導段階(自己著述段階)

この段階に属する人は、自分の価値体系を独自に作り上げ、独自の意思決定基準に従って行動する特徴があります。自分独自の内なる声を発見し、自分自身の意見として明確に表現することもできます。しかし、自分独自の価値体系に縛られすぎるあまり、自分の価値観と異なる考えや意見を受け入れられないという一面が見られます。

発達段階5:自己変容段階(相互発達段階)

この段階に属する人は、自分の価値観の前提条件を考察し、深い内省を行いながら、既存の価値観や認識の枠組みを打ち壊し、新しい自己を作り上げることができます。また、自身の価値体系をオープンなものとし、他者との関わり合いの中で、お互いの成長・発達を促すような触媒の役割を務めることができます。

組織には発達段階2の部下もいれば、発達段階3の部下もいるでしょう。重要なことは、部下それぞれに個性や特徴があることを認識し、一人ひとりに応じたコミュニケーションを図ることです。例えば、発達段階2に属する部下に対しては、相手の視点を養ってもらうような問いかけを意識して行う、発達段階3に属する部下に対しては、自分の考えを言語化させるような習慣づけを行うといったように、部下の個性や特徴、発達段階に応じた働きかけを行うことが重要です。それが、「部下との関係性・コミュニケーション」を良好なものに変え、ひいては「部下の成長」につながることになるでしょう。

また、この発達理論では、人の成長には「垂直的な成長」と「水平的な成長」の2つの種類があると言われています。「垂直的な成長」とは意識の器の拡大、認識の枠組みの変化を示しているのに対し、「水平的な成長」は知識やスキルを獲得することを示しています。もちろん、双方の成長が重要ではありますが、個々人が主体性や創造性を最大限発揮できるよう「個」を活かすマネジメントが求められる現代においては、管理職には「垂直的な成長」に対する支援のほうが強く求められていると感じます。そのような意味でも、部下の発達段階に応じたコミュニケーションを図ることは非常に重要な要素といえるのではないでしょうか。

部下育成において最も重要なこと

ここまで、管理職の大きな悩みである「部下の育成」について、その理由として考えられる要素として「部下育成に対する管理職のマインド」と「部下とのコミュニケーション」をテーマに、述べてきました。これらのことは、部下を育成するうえで非常に重要なことだと考えます。

しかしながら、さらに忘れてはならない、部下を育成するにおいて最も重要だと言えることがあります。それは、管理職自らが成長し続けるということです。例えば、発達段階3の上司は、発達段階4の部下の意識段階を理解できません。管理職自身がその域まで到達していないので、当然のことでしょう。要するに、上司の意識段階が部下より高くなければ、部下の「垂直的な成長」を支援することは不可能なのです。部下の成長を望むのであれな、まずは管理職自身が成長に向けてどん欲に取り組まなければなりません。これが最も重要なことです。そして、管理職に現状に対して健全な危機感を与え、管理職が成長し続ける仕組みを作るのが、人事の役割だと思います。

参考文献
  • ロバート・キーガン,リサ・ラスコウ・レイヒー「なぜ人と組織は変われないのか ― ハーバード流 自己変革の理論と実践」,英治出版, 2013
  • 加藤洋平「なぜ部下とうまくいかないのか」,日本能率協会マネジメントセンター, 2016

 

この記事の著者

株式会社リードクリエイト
プロダクト統括本部 プロダクト推進室 マネジャー
角 美寛

2008年1月よりリードクリエイトに参画。2022年3月まで一貫して営業畑を歩み、大手企業を中心に顧客の人事・人材育成上の課題解決に従事。2022年4月よりアセスメントプログラムの品質管理や新たなソリューション開発、販売促進施策の展開をメインに活動中。

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