人材アセスメントデータを通じた経営陣との対話の有用性

2023.06.12

人材アセスメントデータを通じた経営陣との対話の有用性

人的資本経営やタレントマネジメントをはじめ、組織で働く一人ひとりの可能性を可視化し、それを活用していくための方法論に、多くの人事担当者が頭を悩ませています。

本コラムでは、経営陣を巻き込んだ取り組みへの道筋として、私たちが提供する人材アセスメントデータを起点にした、経営陣との対話の有用性について、各社での実事例も交えながら考察してみたいと思います。

経営者が知りたい人事情報とは

私たちが提供している人材アセスメントプログラムは、組織内における昇進昇格の判断の際に導入することが主流ですが、その結果報告の場に、人事セクションの関係者だけではなく、経営トップをはじめとする経営陣が参加されるケースが最近増えています。

そもそも経営者が知りたい情報とは何なのでしょうか。実は、人事の皆さんが思っている以上に、経営者は社員一人ひとりのことに高い関心を抱いていると痛感します。特に、次の経営を担えそうな人材は誰なのか、各世代で活躍している人物は誰なのかという観点は、事業継続の最重要課題として経営者が絶対に押さえておきたい情報なのです。

社員数が数千数万と、組織の規模が大きくなれば、当然すべての社員の情報を把握することは物理的に困難ですが、少なくとも各世代の有望人材への興味関心は高く、意外なほど個別具体的な質問を受けるという感想です。特に近年は、課長クラスよりも下の世代へと、関心の向かい先が若手にシフトしていっている印象もある中で、人事としても本格的にタレントマネジメントのプール人材に関する情報整備が求められているものと思われます。

経営者が知りたい情報とは、結局のところ「誰に未来を任せられそうか」という一言に尽きます。この情報こそは、人事が経営に提示すべき最も重要な報告データという自覚を持つ必要があるのだと思います。少なくとも、アセスメントという相応の投資をした結果データを、人事部内の一部の関係者だけにクローズさせることは、もったいないを通り越して職務放棄といっても過言ではないくらい、未来の経営のために活用しなければならない重要なデータであると考えます。

人材アセスメントデータが語るもの

私たちが提供する人材アセスメントプログラムは、シミュレーションを活用した研修形式で実施するタイプのものであるため、所謂「研修」と捉えられがちですが、クライアントがリードクリエイトから購入してくださっているものの本質は、候補人材の「将来の予測データ」です。これは、「リーダーとして活躍できるかどうかの可能性データ」を購入いただいていると言え、事業への投資の是非を判断する際のデューデリジェンスに近い、「人材投資判断データ」であるのです。

そのため、評価指標に対する単純な採点結果だけではなく、そこには個人のプロファイリングが為された投資判断情報が多分に含まれています。実務から切り離された研修空間におけるシミュレーションという特殊環境下で発揮された行動が、実際の実務場面でも発揮されるかという再現性が最も重要な指標であり、そのためには、表面的に観察された単純な出来不出来という効果性の判定だけではなく、参加者の一人ひとりが持っている習慣化された行動特性を踏まえた評価結果が必須となるのです。

少なくとも私たちが提供するアセスメント結果は、単なる指標の素点だけではなく、その根拠となるプロファイリングデータが最も重要なものであるという思想に立脚しています。大事なことは、そのプロファイリングデータをもとにして、個人ごとの成長支援や配置などの意思決定を行うことであり、個にフォーカスした関係者間の対話の機会を創出することであると考えます。

この観点こそが、まさにタレントマネジメントの根底にある考え方であり、如何にして人という資本を活かすかという人事の根源でもあります。繰り返しますが、大事なことは「対話のきっかけ」であり、各社の人事はそこに最大限のエネルギーを注いでほしいと思うのです。

個人のプロファイリングデータの価値

個人のプロファイリングデータとは、一言で言えば、「どのような人物か」という情報です。何ができ、何ができないか、何にエネルギーが向かいやすいか、どこの観点が疎かになりがちか、得意な場面、うまく機能しない可能性が高い場面など、リーダーという役割を担った場面での行動を予測する「個人の行動特性を言語化した情報」となります。

これは「人間は、同じような環境下では同じような行動パターンを選択する可能性が高い」という行動科学の考え方がベースになっています。特に、リーダーという新たなポジションや、不透明な中での意思決定領域が増えることに鑑み、「今後身を置く特殊状況下」において、どのような行動を選択する可能性が高いのかが可視化されたものと言えます。当然、全ての行動を予測することは現実的に不可能ですが、少なくとも「今の環境」だけでは判別できないものを測定していることに価値があると考えます。

「今の環境」とは、これまでの人間関係、業務経験、現在担っている役割などが該当します。今という慣れ親しんだ環境で発揮されていることが、新たな環境でも同じように発揮できるかは未知数です。例えば、部下がいない今の状況と、部下を複数人もつことになる将来の環境は全く異なる訳で、実際に部下をもったときにどのような行動を選択するかは、未知数な面が大きいと言えます。さらには、今の職位では求められていないが故に、保有はしているが発揮していない潜在能力もたくさんあるとも考えられます。ここに、「将来の環境を疑似的に体験するシミュレーション型のアセスメント」が意味を持ってくるのです。

繰り返しになりますが、アセスメントで提示されるプロファイリングデータとは、「今後自分が身を置くことになるリーダーという状況設定の中で発揮される行動特性データ」であり、今は発揮されていないポテンシャルを含めた将来の行動を予測するデータであるという点に、大いなる価値があると考えます。

組織のプロファイリングデータの価値

組織のプロファイリングデータとは、「自社のリーダー候補人材に影響を及ぼしている見えない力が可視化された情報」と言えます。自由な発想や発言を抑制する傾向、ミスを回避する正解主義の横行、上意下達の風土、協調重視の没個性の振る舞いなど、「変革」という経営トップの大号令を阻害している組織の状態は、多くの日本企業が抱える共通の問題です。そのため、データだけを見ると、各社ともに大きな差異はないというのが実態です。特に大企業の管理職相当の人材が置かれた環境は類似点が多く、統計的に処理されたデータだけをみると特段の差はありません。差があるのは、「そのような結果に至った背景」であり、ここに考察を向けることが重要であると考えます。

そのため、「挑戦性」といった新たなことへのチャレンジ精神や、「構想力」といった未来を描写する力など、各コンピテンシーの点数の高低だけをもって、他社との優劣を論じることに大きな意味はなく、最も大事なことは、その背景にあるその組織固有の問題に意識を向けることです。この固有の問題を直視し、解決すべき課題の解像度を高めることが非常に重要となります。

また、対象者の傾向においても、母集団が大きければ大きいほど、データ上は一定の正規分布になります。そのため、平均化された統合データではなく、むしろ、各演習でとった意思決定行動から推察される組織が持つ風土や、マネジメント行動に影響を及ぼしている見えない力を把握することが大事です。

自社のリーダー候補人材の傾向が集積された一次データと、そこから想定される組織固有の問題に対する解釈や仮説をもとに、真に取り組むべき人事課題について、経営陣と対話することに価値があると考えます。そして多くの場合は、そこへ参加している経営陣の日々の発言や行動に起因することも多く、どれだけ当事者として組織の問題を捉えられるかが、次の打ち手の効果性を高めるうえで重要となります。

実際のアセスメント報告会における対話テーマ(事例紹介)

事例1|各世代のエース人材の把握

管理職登用を目的としたアセスメントにおいて、最も多く議論されるテーマです。次ステップである課長や部長という役職者への任用判断に留まらず、将来的に経営を任せられる人物は誰なのかという個別具体的な情報交換が為されます。現実的なタレントマネジメントのプール人材候補であり、次々世代の人材群の中でのエース社員を特定し、必要に応じて戦略的な異動や育成にのせるかどうかの是非についての議論を行っています。

事例2|次世代の経営を担う候補人材の投資機会の特定会議

部長職以上のアセスメントにおいて、最近増えてきているテーマです。部長層となると事業成果へのインパクトはかなり大きくなります。経営人材の育成において、PL責任を担う経験を積ませることは非常に重要である一方で、全員に対して平等に環境を付与することはできません。個々のプロファイリングデータや専門性などを含め、一人ひとりの育成に向けた深い議論を行っています。

事例3|各担当部門の責任者同席のもとに行われる育成会議

比較的若手社員を対象とした選抜型のアセスメントにおいて、個々人のプロファイリングデータを踏まえた育成会議として実施されるケースです。若手社員の直接の上司である課長への指導のあり方や、当該組織全体の育成風土のあり方など、担当役員の方からの質問にお答えする形式で、ご自身のマネジメントのあり方を含めた意見交換を実施することもあります。

事例4|ある特定部門の人選を行うための会議

新規事業の立ち上げや、新たなマーケット開拓に向けた新拠点の開設など、経営として既に意思決定されている特定ポジションのメンバーとして、誰が適任かの判断を行うケースです。事業上のタイミングを含めて、それほど多くある事例ではありませんが、単純な評価結果の高低ではなく、プロファイリングデータをもとにした特定ポジションの適任者に関する意見交換を行うことにも活用いただいています。

まとめ

  • 人事が想定している以上に、経営者は社員のことを知りたい欲求を持っている
  • 社員一人ひとりの特性データの解像度を高めることが重要
  • 社員や組織のデータを起点にして、経営層と本気の議論を行うための仕掛けが重要
  • アセスメントデータは、経営陣と対話する上で有効なツールとなり得る

この記事の著者

株式会社リードクリエイト 取締役 菅 桂次郎

2003年7月よりリードクリエイトに参画。人材マネジメント全般に関わるコンサルティング営業を経て、2014年よりアセスメントサービス全般の開発から品質マネジメントを中心に、リーダー適性を見極めるアセスメントプログラムの進化を目指して活動を展開中。

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