次世代リーダーを育成するための第一歩

2022.12.09(更新日:2024.04.01)

「我が社には次の経営を担える人材がいない」という切実な人事の声

次世代リーダーや次世代経営候補人材など、呼称は各社によって違いはあるが、次の事業や経営を担う経営層の人材の育成に多くの企業が苦戦している。日本を代表する企業が、特に創業社長の力によって拡大した組織であればあるほど、後継者育成を含めた経営のバトンタッチが事業継続の最も深刻なリスクになっていることは周知の事実だ。

我々がご支援しているクライアントにおいても、「我が社には次の経営を担える人材が育っていない」という嘆きにも近い悩みを打ち明けられることも増えてきている。まさに、国内の人口ボーナス頼りのビジネスモデルでは持続的な成長が見込めない環境下における人事部門の最重要課題であると認識している。

昔に比べて小粒になった、優秀だけど力強さに欠ける、そもそも経営のトップを目指そうという志や健全な野望を持った若手人材が激減したなど、対象となる人材群もしくは個人にフォーカスした問題事象は浮き彫りになっているが、時間をかけて「そのようになってしまった理由」があるはずだ。

一方で、「次世代リーダー研修のプログラムは充実させている」という回答をいただくことも多い。その隔たりと矛盾に何があるのかを明確にしない限り、5年後も、10年後も同じ嘆きが繰り返されることになり、その時には今よりももっと切実な状況に陥っている可能性があることを、本コラムを通じて問題提起したい。

次世代リーダーを育む「取り組み」の再定義

経営を担う人材は、育てようと思って育てられるものではないという難しさがある。

一方で、放置しておけば自然発生的に生まれるものでもない。前述の次世代リーダー育成プログラムは充実させているという「取り組み」と、その結果として「育っていない」いう人事の声こそが、このジレンマの象徴的なものと言えるのではないだろうか。

大切なことは、「取り組み」の再定義だ。所謂、高度な経営知識の獲得や自社が抱える経営課題への取り組みをテーマにした育成プログラムをいくら充実させたところで、育っていないという現実に向き合うと、為すべきはその「取り組み」の更なる強化ではない。当然、事業づくりや組織活性の観点で、知識に代表される経営リテラシー教育は重要であり、そのすべてを否定するものではない。論点は、「対象者に直接的に策を施す取り組み」だけでは限界があるという現実に向き合い、「もっと広範な間接的な環境づくりへの取り組み」にも目を向けるべきだと考える。

次世代リーダー育成が形骸化する根本的な原因

弊社のアセスメントデータから言える一つの事実として、各社の優秀人材と呼ばれる人材群の特徴を表現すると、「穏当かつ常識的で、方針やルールを順守しながら堅実かつ粘り強く問題解決にあたる」というプロフィールが見えてくる。

一方で、多くの企業が次世代リーダーに求める、「より革新的に思考し、既存の枠組みを打ち破るような大胆な決断を下し、ステークホルダーを力強く牽引していく」というプロフィールを持った人材は、上述の「優秀人材」の対極に位置し、その絶対数はかなり少ない。

この事実からも言えるように、これまで必死で育て上げてきた優秀人材は、次の経営を担う人材としては物足りないというよりも、人質が異なるものとして捉える必要がある。その結果が、冒頭にある「我が社には次の経営を担える人材がいない」という声に繋がるのだと思う。

各社の次世代リーダー育成の取り組み状況を確認すると、何かしらの研修は実施されてはいるものの、以下の観点が曖昧で、明確な意思を持っていないがために、結果として形骸化している。次世代リーダー育成がうまく機能していない根本的な原因は、「実は誰もコミットしていない」という一言に尽きるのではないだろうか。

そもそも人材像を規定していない、要件が固まっていない

どのような人材を育成すべきかのコンセンサスが得られていない。管理職育成の延長。

研修の延長でしか考えていない

経営課題に対する問題提起まで。配置や評価、戦略的な事業経験の付与などとは断絶。研修後は業務も権限も経験も、日常に戻る。

短期業績、底上げ発想(一律、平等)

平等という名の候補者として相応しくない人選が行われる。何のためという目的や目標が置き去り。

候補者本人を含めて本当の意味で誰もコミットしていない

経営陣も、人事も、候補者ですらも、誰も本気でコミットしていない。成果責任者が不在。いつまでに、誰の責任で行われる取り組みなのかを誰も議論しない。

人事が為すべき最も重要なこと

ここまで、冒頭の「次の経営を担える人材がいない」という問題を起点に、そうなってしまっている原因に着目して持論を述べてきた。本質的には、現経営陣、人事部門の最終責任者のコミットを如何に引き出すかが論点となるが、問題の原因を解消するために為すべきことは明確とも言える。

次世代の経営を担う人材とは、どのような人物であり、誰が、どういった時間軸の中で、何名くらいを育成する責任を持つのか。難しく考える必要はなく、むしろシンプルに上記について現経営陣と人事が本気で議論できるかが何よりも重要なのだと考える。実はそれこそが一番難しいという人事担当の皆様の心の声が聴こえてくるが、本気で次の経営人材の育成に対する問題意識をお持ちなら、本丸にストレートにアプローチすることが結果として良い方向に進んでいくものだと確信する。

一方で、問題の原因を解消すれば意図する人材が育つかは別問題でもある。あくまでマイナス面の解消であることを自覚すべきである。そもそも、未来の経営者自身が本気で目指そうとするかが何よりも重要である。自分の一つの決断が、数千人、数万人、数十万人の社員をはじめとするステークホルダーに多大なる影響を与えうる経営者を目指すことは、組織の大小に関わらず、全人生をかけた圧倒的な意思の強さが必要となる。そして、こういった自身を磨き続けることへの成長に向かうパワーの源は、「こうありたい」「こうしたい」という本人自身の期待や想いという領域であり、第三者から直接的に与えられるものではない。

経営のトップを目指したいという人材をどれだけ育めるか。自己利益だけではない崇高な志、社会が抱える問題を解決したいという強い熱量。これらの「生き方」にも繋がる領域こそが次世代リーダー育成の根幹にあるものであり、スキルやテクニックではない領域に、経営や人事が直接的・間接的にどれだけアプローチできるか、着火させることができるかが問われている。そして何より、これらの領域は、外部の人事コンサル会社に高額な支払いをしなくても、できることは山ほどあるはずだ。経営や人事が本気になった先に、本気で目指そうとする人材が一人でも出てくれば、その組織の未来は明るい。

あなたは何年先を見据えて人事の仕事に携わっていますか。
あなたはどのような未来をイメージして人事の仕事に携わっていますか。
あなたが誰よりも次世代リーダー育成にコミットする覚悟はありますか。

次世代リーダー育成の取り組みは、実は人事担当者である皆さん自身のリーダーシップ開発でもあるのです。

この記事の著者

株式会社リードクリエイト 常務取締役 菅 桂次郎

2003年7月よりリードクリエイトに参画。人材マネジメント全般に関わるコンサルティング営業を経て、2014年よりアセスメントサービス全般の開発から品質マネジメントを中心に、リーダー適性を見極めるアセスメントプログラムの進化を目指して活動を展開中。

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