コラム|株式会社リードクリエイト

昇進昇格とは何なのか?組織の未来を託す制度を再定義する|コラム|株式会社リードクリエイト

作成者: LEAD CREATE|2025.10.31

いま、多くの企業で「昇進昇格」という制度が、静かに形骸化しつつあります。制度そのものは存在し、評価基準も整っています。しかし、そこに“意思”や“期待”が宿っていないのではないか、という場面に遭遇する機会が少なくありません。

形式としては運用されていても、組織の未来を託す仕組みとしては機能していない──それが現実ではないでしょうか。

本来、昇進昇格とは、単に「成果を上げた人に報いる仕組み」ではありません

それは組織が「誰に未来を託すか」を宣言する行為であり、組織文化を次世代に受け渡すためのメッセージでもあります。

言い換えれば、昇進昇格は人事制度の中でもっとも経営思想が表れる領域なのです。

しかし実際には、その思想が抜け落ち、「公平性」や「効率性」に偏った運用がなされています。

一見、整然とした制度の裏側で、社員の多くはこう感じています。

  • 「何をすれば評価されるのかが見えない」
  • 「自分のキャリアが会社にどうつながっているのかわからない」

この声こそ、制度がメッセージを発していないことの証拠だと言えます。昇進や昇格は、個人の“達成”ではなく、組織の“意思決定”です。

誰を次の段階へ導くかという判断には、経営の価値観、組織の未来像、そして「何をもってリーダーとするか」という哲学が反映されるべきだと私たちは考えます。

にもかかわらず、毎期行われる評価の延長線上に置かれることで、昇進昇格は「過去の成果の清算イベント」に変質してしまっているように思います。

私たちは、こうした状況に強い危機感を抱いています。

創業来、500社以上のアセスメント実績を通じて見えてきたのは、「昇進昇格」が企業文化や経営方針と結びついていないという構造的な課題です。

それは単なる運用上の問題ではなく、「制度を通じて何を託したいのか」という設計思想の欠如にほかなりません。

本コラムでは、昇進昇格の定義や制度設計を「評価の仕組み」ではなく、「未来を託す仕組み」として再定義していきます。

そして、制度が人を動かし、組織を進化させるための実践的な視点を、リードクリエイトの思想と事例を交えながら提示してまいります。

 

1. 昇進昇格の「本質」から見直す

1-1. そもそも昇進昇格とは何なのか?

昇進昇格という言葉は、企業の人事制度の中で最も日常的に使われる言葉の一つです。

にもかかわらず、「昇進」と「昇格」の違いを明確に説明できる人は意外と多くありません。

多くの企業では、「昇進=ポジションが上がること」「昇格=等級やランクが上がること」といった定義が形式的に用いられています。

しかし、問題は“言葉の定義”ではなく、“そこに込められた意味”です。

  一般的な定義 本来の意味
昇進 ポジションが上がること 新たな役割を託すこと
昇格 等級・ランクが上がること 役割を担う力を認めること

 

つまり、前者は「未来」(新たな役割)に重心があり、後者は「過去」(これまでの業績)に重心が置かれています。

この二つは、しばしば現場では混同され、結果として「成果を出した人が自動的に昇進する」仕組みへと短絡的に結びつけられてしまいます。

しかし、成果を上げることと、より大きな役割を果たすことは、似て非なるものです。

成果とは「与えられた枠の中で期待を超えること」であり、役割とは「枠そのものを広げ、他者の成果を生み出すこと」です。

昇進昇格の本質は、この“枠を超える意思と力”を見極める営みにあります。

1-2. 「評価」ではなく「信託」としての昇進昇格

私たちは、昇進昇格を「評価」ではなく「託すこと」と捉え直す必要があります。

その瞬間、制度の重心は「過去」から「未来」へ、「個人の実績」から「組織の意志」へと移行します。

そして、ここにこそ“制度設計の思想”が問われます。

制度は、単なる仕組みではありません。それは「誰に、何を、どのような基準で託すか」という組織の価値観の表明であり、言い換えれば「制度はメッセージ」です。

そのメッセージが曖昧であれば、どれほど評価表を整備しても、社員の心には届きません。

制度とは、数字や評価項目の羅列ではなく、組織の思想を可視化する“翻訳装置”なのです。

このように、制度と理念がずれると、社員は何を信じて動けばよいのかを見失い、結果として「無難に生きる文化」が組織の中に根づきます。

逆に、制度が理念と連動し、挑戦を評価するメッセージが一貫していれば、昇進昇格のプロセスそのものが「挑戦する文化」を育むことになります。

1-3. 昇進昇格制度はメッセージであり、組織の未来を映す鏡である 

私たちは、この「制度のメッセージ性」を明らかにすることを大切にしています。

昇進昇格の可否を判断するためではなく、「どのような力を託すべきか」「どのように成長を支えるか」という対話のきっかけにするためです。

昇進昇格を通じて“個人の能力”と“組織の価値観”が接続されるとき、そこに本当の意味での納得感とモチベーションが生まれます。

2. 企業が直面する昇進昇格の構造的な問題とギャップ

2-1. 経営の期待と制度要件のズレ:「理念」と「運用」がかみ合わない

昇進昇格制度の課題を整理する上で、まず見えてくるのは「経営の期待」と「制度要件」のズレです。

多くの企業では、中期経営計画や人材戦略の中で「次世代リーダーの育成」「変革を担う人材の登用」といった方針を掲げています。

しかし、実際の昇進昇格制度の評価項目を見てみると、「安定的な業績達成」「リスクを回避する判断」「組織内の調和」に重きを置いた項目が依然として中心に据えられていることが少なくありません。それも無自覚的に。

こうしたズレは、制度そのものが悪いのではなく、設計当時の前提が過去の経営環境に基づいていることに起因しています。

日本企業が右肩上がりで成長していた時代は、再現性・忠実性・安定性が重要な価値でした。

しかし、今日のように変化が常態化する環境では、「決められた仕事を確実にこなす人」よりも、「曖昧さの中で判断し、新しい秩序をつくる人」が求められます。

 

2-2. 安定・確実型人材の過重評価:変革を担う人材が報われない構造

次に見えてくるのは、「安定・確実型人材の過重評価」と「変革人材の不適合」という構造です。

200社以上のアセスメントデータを分析すると、多くの企業で管理職層の特性が“安定志向”に偏っている傾向が見られます。

より具体的には、

タイプのリーダーが高く評価されていることが、これまでのデータからわかります。

もちろん、安定を重んじること自体が悪いわけではありません。むしろ、企業の基盤を支える上では欠かせない存在です。

しかし、問題は「変革を志向する人材が評価されにくい」構造が続いていることです。

新しい挑戦を仕掛け、既存のルールを見直そうとする人は、しばしば“組織の和を乱す存在”として扱われ、昇進昇格の候補から外れてしまうことがあります。

この構造が続く限り、組織には守りのリーダーばかりが増えていきます。

やがて現場では、「挑戦しても報われない」「上層に行くほど変わろうとしない」という諦めの空気が漂います。

その結果、変化を起こすための推進力が徐々に失われ、組織全体が硬直化していくのです。

昇進昇格の変革期においては、企業が無意識に選びとっている価値を意識的に転換することが不可欠なステップとなります。

2-3. 「人選・評価」もまた、育成環境であるブラックボックス化する運用:「納得性」を失った制度 

三つ目の構造的課題は、制度運用のブラックボックス化です。

制度そのものが整っていても、運用過程が閉ざされてしまえば、社員にとっては「なぜ自分ではないのか」「どうすれば次に進めるのか」がわからなくなります。

近年は減少傾向にあるものの、いまだ昇進昇格の選考プロセスが一部の上位者の“感覚的な判断”に委ねられているケースも根強く見られます。

このような運用は、短期的にはスピーディーに見えますが、長期的には“納得感の欠如”を招きます。

納得感を失った組織では、社員の挑戦意欲やエンゲージメントが低下し、「昇進しても意味がない」「努力しても報われない」といった無力感が広がります。

重要なのは、「納得感=結果の満足度」ではないということです。

人は、自分が選ばれなかったとしても、その判断基準とプロセスが明確であれば納得できます。

逆に、基準が不透明であるほど、不信感や憤りは増大します。

この点において、例えばアセスメントなどの客観的データを活用することは、主観的評価の妥当性を補完し、納得感を高める有効な手段となります。

 

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3. 目指すべき昇進昇格の在り方

3-1.評価から育成へ:昇進昇格を「成長の起点」にする

昇進昇格をめぐる議論で、最も誤解されがちな点は、「昇進昇格は評価の延長線上にある」ということです。

確かに、一定の成果や能力が認められた人が次のステージへ進むという構造は、制度的には正しいように見えます。

しかし、そこに「育成」という視点が欠けると、昇進昇格は単なる“選抜イベント”に終わってしまいます。

本来、昇進昇格とは「成長の到達点」ではなく「成長の起点」です。

新たな役割を担うということは、これまでとは異なる視座・判断・責任を背負うということ。

したがって、昇進昇格の制度設計において大切なのは、“何をもって選ぶか”ではなく、“選んだ後にどう成長を支援するか”という視点なのです。

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このように“評価を学びに変える仕組み”を組み込むことで、昇進昇格が一人ひとりの成長物語の出発点になります。

つまり、理想の昇進昇格制度とは、「評価で終わる」のではなく、「育成へとつながる」制度なのです。

ここにこそ、昇進昇格を再定義する最大の意義があります。

3-2.序列から貢献へ:肩書ではなく「役割」を軸にした昇進昇格

もう一つ重要な転換軸は、「序列」から「貢献」へのシフトです。

従来の昇進昇格制度は、どちらかといえば序列の確認という側面が強くありました。組織が縦構造で成り立っていた時代には、「上に行く=より優秀である」というロジックが成立していました。

しかし、現代の組織では、役割や成果の種類が多様化し、「上に行くこと」よりも「どのように価値を生み出すか」が問われるようになっています。

そのため、昇進昇格制度も“ポジション”ではなく“貢献”を軸に再構築する必要があります。

こうした発想転換は、単に評価軸を変えることではなく、「組織観」を変えることに直結します。

すなわち、「上に立つ人が偉い組織」から「多様な形で貢献する人が尊重される組織」へ。
このシフトこそが、次世代リーダーが挑戦し続けられる文化をつくる基盤になるのです。

3-3.制度から文化へ:「昇進昇格」は組織のメッセージである

最後の転換は、「制度から文化へ」という視点です。

どれほど制度を整えても、それが“文化”として根づかなければ、人は動きません。

制度を生かすのは、そこに込められたメッセージと、そのメッセージを日常で体現する上司の姿です。

昇進昇格制度は、企業にとっての言語化された価値観です。

「どんな人を次に託すのか」という判断は、言葉以上に強いメッセージとして全社員に伝わります。

例えば、挑戦する人を登用すれば、「挑戦は報われる」という文化が醸成され、逆に調整型人材ばかりを昇格させれば、「波風を立てない方が得策」という文化が根づきます。

繰り返しになりますが、制度の運用はそのまま組織の意思表明を意味します。

そしてこの循環を支えるためには、アセスメントのような“対話と気づきの仕組み”が欠かせません。客観的な評価データを通じて「どんな力を託すべきか」を可視化し、制度を理念とつなぎ直すことで、昇進昇格は“運用”から“文化形成”へと昇華していきます。

 

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4. 昇進昇格制度の見直しで良い変化が起こった事例

以下にご紹介する3つの事例に共通しているのは、「仕組みの刷新」ではなく「思想の明確化」によって変化が生まれたという点です。

昇進昇格制度は、制度そのものよりも、それを運用する人たちの“意識の在り方”に左右されます。

経営の意思と人事の思想が噛み合ったとき、昇進昇格は単なる人事プロセスではなく、組織文化を再生させる力を持ちます。

【事例1】大手製造業の再構築プロジェクト──「安定型評価」から「挑戦型信任」へ

ある大手製造業では、長年にわたり「安定的な実行力」を重視した昇進昇格制度が運用されていました。

ミスが少なく、上司との調整力が高い人ほど昇格しやすいため、結果的に穏やかで無難な管理職層が多数を占める構造になっていました。

その結果、若手層からは「挑戦しても報われない」「上司が守りに入っている」という声が多く上がり、組織全体の停滞感が漂っていたのです。

リードクリエイトが支援した制度の見直しでは、まず「昇進・昇格の目的」を経営層と人事で徹底的に議論しました。

その結果、「昇進は信頼の表明、昇格は期待の約束」という定義を新たに設定。

アセスメントを通じて、従来の“安定的成果”だけでなく、“変化に向き合う姿勢”や“意思決定の質”を見極める仕組みを導入しました。

【事例2】金融グループのマネジメント改革──「昇格試験」から「内省プロセス」へ

ある金融グループでは、従来の昇格試験が「試験のための勉強」「一時的な準備行動」に偏っており、昇格後の成長につながっていないという課題を抱えていました。

形式的な筆記試験や面接だけでは、マネジメントとしての“覚悟”や“判断の軸”を見極めることが難しかったのです。

そこで導入したのが、リードクリエイトによる「シミュレーション型アセスメント」でした。

これは、仮想の経営状況を題材に、受講者が組織のリーダーという立場として意思決定・優先順位づけ・部下対応などを行う中で、思考プロセスと行動の一貫性を可視化するものです。

この仕組みによって、単なるスキルや知識ではなく、「どのように考え、どう決断するか」という“思考の質”を評価することができるようになりました。

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【事例3】総合サービス企業における納得性の再生──「制度」から「文化」へ

もう一つの事例は、全国に拠点をもつ総合サービス企業です。

同社では、制度は整っているものの、「なぜ自分が昇格できなかったのか」が社員に伝わらず、不満や不信感が高まっていました。

そこで、人事部門は制度の透明性を高めることよりも、「納得性」を再構築することを目的にプロジェクトを立ち上げました。

改革の第一歩は、評価基準の見直しではなく、「メッセージの明確化」でした。

経営陣と人事が一体となり、「私たちはどんな人をリーダーと呼びたいのか」という議論を重ね、その定義を明文化。

5. 昇進昇格制度を設計するステップ3つ:「評価」から「成長を託す仕組み」へ

ステップ1. 現状を「見える化」する:制度の棚卸と人材要件の再定義

昇進昇格制度を見直す際、まず最初に行うべきは「現状の棚卸し」です。

多くの企業では、制度そのものよりも、“運用の慣習化”が問題を複雑にしています。

そのため、最初のステップは、


を明らかにすることです。

ここで重要なのが、「人材要件の再定義」です。昇進昇格の基準となる人材要件は、過去の成果や行動パターンを前提に設計されているケースが多く、現代の経営環境と合致していないことがあります。

リードクリエイトでは、このフェーズで「リーダーとは何か」という問いとともに、汎用性の高い要件設計の可視化を支援します。

こうして定義され、意味づけられた人材要件が、制度全体の「羅針盤」となります。この段階で理念と現場の接続が取れていないと、その後の全ての評価・育成プロセスが迷走してしまいます。つまり、最初に行うべきは制度の整備ではなく、思想の明確化なのです。

ステップ2. 「見極め」と「気づき」を両立する:アセスメントの活用設計

次のステップは、「見極め」と「気づき」を両立する仕組みの設計です。

昇進昇格の判断においては、「この人を昇格させるべきか」を見極めることと同時に、「この人をどう育てるか」を考えることが不可欠です。

ここで力を発揮するのが、アセスメントセンターに基づいたアセスメントプログラムです。

アセスメントプログラムは、「選抜」だけでなく「育成」にも機能します。

受講者自身が結果を通じて「自分がどう考え、どう判断しているか」に気付く構造になっており、昇格の合否を超えて、“成長の出発点”として作用します。

このように、アセスメントプログラムを「人事判断の裏付け」としてではなく、「成長設計の土台」として活用することで、昇進昇格が“終わりの儀式”から“始まりのプロセス”に変わります。

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ステップ3. 制度を運用に根づかせる:対話とフィードバックの設計

昇進昇格制度は、設計して終わりではありません。

制度が機能するかどうかは、「評価する側」と「評価される側」の間にどれだけ対話があるかで決まります。

リードクリエイトが重視するのは、「制度を浸透させること」よりも「制度の意味を伝えること」です。

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また、昇格者には結果フィードバックを通じて、「何が評価されたのか」「これから何を伸ばすべきか」を具体的に示します。リードクリエイトのアセスメント結果フィードバックでは、行動結果だけでなく“思考のプロセス”を読み解き、本人の内省を促す対話を重視しています。

このプロセスが、単なる評価イベントを“内省と成長の対話の場”へと変えるのです。制度を定着させる上で重要なのは、評価者・候補者・人事・経営が共通の言語で語り合える状態をつくることです。

昇進昇格を「人事イベント」ではなく「組織の学習機会」として再定義することで、制度そのものが文化に変わっていきます。

6. 昇進昇格制度の棚卸チェックポイント:制度を磨く10の視点

カテゴリ チェック項目(全10項目)
思想・理念の整合性

1.    昇進昇格の目的が明文化されているか。
2.    昇進昇格を通じて組織が伝えたい価値観は明確か。

基準・要件の妥当性 3.    人材要件は、経営方針・事業戦略と整合しているか。
4.    行動・スキル以外に、思考や姿勢を評価しているか。
評価・見極めの方法 5.    判断に主観評価以外の客観データを活用しているか。
6.    候補者に内省機会を提供できる仕組みがあるか。
運用・対話のプロセス 7.    昇進昇格の基準や判断プロセスを社員に説明できるか。
8.    評価者が基準を理解し、共通言語で対話できているか。
育成・定着の仕組み 9.    期待する役割や成長テーマを明示しているか。
10.    評価結果を、開発・育成の施策に活かしているか。

 

これら10項目のうち、「はい」が7つ以上あれば、制度は理念と運用がよく結びついている状態といえます。

逆に「はい」が7つ以下の場合は、制度が形骸化し、組織の思想・メッセージ性が薄れている可能性があります。その場合は、第5章で述べたように、まず人材要件の再定義から見直すのが効果的です。

 

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最後に:「託す」という人事の本質へ立ち返る

昇進昇格とは、制度の運用技術ではなく、組織の信念を形にする営みです。

そこには、経営がどんな未来を描き、どんな人にそれを託したいのかという、深い意志が宿っています。

しかし、その本質は、制度が整うほど見えにくくなり、ルールや手続きの陰に隠れがちです。

だからこそ、人事は昇進昇格制度を定期的に問い直さなければなりません

「私たちは、何を信じて人を選び、何をもって未来を託しているのか」と。

人を選ぶということは、その人に組織の一部を預けるということです。

それは、能力の序列づけではなく、「この人なら次の時代を担える」と信じる覚悟の表明です。

昇進昇格の判断には、数値化できない“信頼”と“期待”が伴います。

その重みを忘れずに制度を運用することが、人事に課せられた最大の責任であり、誇りでもあります。

経営の思想を制度に翻訳し、制度を通じて社員に伝える。

この循環が生まれたとき、昇進昇格はもはや評価イベントではなく、「組織文化を育む装置」へと変わります。

制度は人を動かし、人が文化をつくり、文化が未来を形づくる。その起点となるのが、まさに昇進昇格の瞬間です。

人を託すという行為に、もう一度“思想”を取り戻すこと。

それこそが、組織の未来を創る人事の仕事であり、リーダーを育む最も人間的な営みなのです。