「自ら主体的に動き自律的に成長していく人材」は、どんな組織においても期待される人材であり、求められる人材と言えます。このような人材へと意図をもって育てていくには、何を押さえる必要があるのでしょうか。私たちはそのために最も重要な要件として「適切な自己認識」があると考えます。
本コラムでは、そもそも自己認識とは何か、それを促していくために押さえるべきことは何かについて探求していきます。
自己認識とは、自身が体験したことから感じる受け止め方など内面の考察を通じて状態を知る行為を指します。ポイントは、「内面で起きていることに意識を向ける」ことです。
自己認識は成長に向けた一丁目一番地となる要素です。健康診断で体の状況を把握し必要に応じて治療を受けるのと同じように、ビジネスパーソンとしての自身の状況をしっかり認識することで成長に向けた次の一手が明確になります。また、自己認識がなされることで、自分が求めているものや成し遂げたいことも明確になり、行動への意欲を喚起する効果も見込めます。
リードクリエイトでは、自己認識の意義を「自分にとって不都合な真実を受け入れることへの葛藤であり成長への源泉」としています。受け入れがたいことや納得したくない自身の真実を受け入れることによって初めて成長へのスタートラインに立つことができる、逆にそれができないようにであれば、スタートラインに立つことすらできない。よって、まずは適切な自己認識こそが成長への入り口と考えます。
では、自己認識の実態はどのようなものでしょうか。私たちが多くの支援を通じて見えてきた傾向は、以下のとおりです。
自己認識に向けた最大の難所は、結果を「受け入れる」ことです。特にネガティブなフィードバックや分析結果は、老若男女問わず誰であれ、素直に受け入れるにはハードルが出てきます。自分はこんな姿ではない、このフィードバックには納得がいかない、そもそもの評価が間違っているなどの反応を見ることが多くあります。しかし、まさしくこの「受け入れる力」の差が成長の差として表れると言っても過言ではありません。そのために、私たちは以下の3点を押さえることが重要と考えます。
なお、自己認識を深めるためのツールや手段としては、さまざまなアプローチが考えられます。例えば、診断ツールによる自己分析、360度など職場メンバーからの声の収集、自己認識をテーマにした研修やワークショップへの参加、アセスメントなどを通じた専門家によるフィードバック、上司との定期的な振り返りと内省、などが考えられますが、それぞれに特徴や留意点があります。その目的や目標に応じて最も効果が高まる手段を選定するとともに、一つの手段だけで進めようとせず、複数の手段を組み合わせることで、適切かつ深い自己認識が実現できます。
このように「適切な自己認識」に向けては、意図的にそのような機会をつくっていくことによって、その効果を高めていくことができます。現状自組織では、自己認識を促すための場を提供できているのか、自らを客観的に棚卸しする機会はあるのか、を点検してみてはいかがでしょうか。
成長意欲の喚起には「動機や価値観」という観点もあります。自分は何を大切にしているのか、どのようなことを成し遂げたいのか、これらは成長への強力なエンジンとなります。
ただし、「動機や価値観」は各人による違いが大きく、また同じ人であってもその時の状況に応じて変わることもあるため、組織としての統一的なアプローチは難しい部分があります。動機を刺激するための●●という施策を打っても、Aさんには効果的であるが、Bさんには効果がないという状況に陥りがちです。他方、組織としての理念や方針を踏まえた動機や価値観への刺激は必要です。
例えば、会社として「社会課題の解決」という方針があり、「方針実現に向けたアクションや自己成長につなげる取り組みを推奨する」ということを示した場合、これらに共感する社員にとっては自身の価値観に合った一つの動機となり行動を起こすきっかけになります。会社にとっても、自社方針に沿った社員を意図的に育成することができるというメリットも出てきます。
「動機や価値観」については、組織として対応すること/対応しないことを念頭に置きつつ、成長への意欲は大なり小なり全員が持っているということを前提に、その意欲を阻む組織的要因や仕組みがないかを確認していくことも重要と言えます。
最後に、自己理解の組織的浸透について、ある事例をご紹介したいと思います。
ここから言えるのは、定期的に自己認識を促し成長に向けた取り組みを、経営陣が率先的に実践し行動変容のプロセスを見せたことです。その姿は、社員が自己認識の必要性や重要性を理解することにつながりました。また、経営層や管理職層は360度フィードバックの結果をオープンにし、職場の日常場面で話し合う姿が見られました。そのため、一般社員層においても同様の取り組みが浸透し、フィードバックを自身の成長へ循環させることが習慣化されるようになりました。そのような社内環境であるため、最近よく耳にする管理職になりたくない若手は極めて少なく、次のリーダー候補として多くの若手が手を挙げる風土が醸成されています。
ここまで、成長に向けた源泉となる自己認識について述べてきましたが、言うは易く行うは難しであり、一朝一夕でなされるものではありません。他方、そのための仕組みや環境をどうのように整えていくのかによって、その実現の確度も変わってくるものと考えます。高い目標の達成に向けては地道な活動の積み重ねが不可欠であることを踏まえ、一つずつ何かを変えていくことから始めてはいかがでしょうか。