経営環境の変化が激しく、不確実性が増す現代において、多くの企業が共通して向き合っている課題があります。
それは、現場で成果を上げてきた優秀な人材が上位階層や管理職の役割に移行した際、期待どおりに力を発揮できない、という問題です。
もちろん、優秀なプレイヤーが優秀な管理職・リーダーとして活躍するケースは数多くあります。
しかし強調すべきは、プレイヤーとして成果を上げることと、組織や事業を率いることでは、求められる役割や能力が異なるという点です。
この違いを十分に見極めないまま、過去の実績だけを根拠に昇進・登用を行うと、本人にとっても組織にとっても不幸なミスマッチが生じることがあります。
なぜ、現場で成果を出してきた人材が、リーダーの役割に就いた途端、期待どおりに力を発揮できなくなるのか。そして、人事・経営・現場は、どのような視点で人を見立て、どのように成長機会を設計していく必要があるのか。
本コラムでは、人事部門が陥りがちな「人選の構造的な罠」を整理しながら、真に強い組織をつくるための「人選力」——すなわち、人材を見抜き、見立て、活かし、育てる力——の原理原則を解説します。
多くの企業で、「昇格・選抜基準が不鮮明で現場が納得していない」「現場の定性評価と人事のアセスメント評価にズレがある」といった悩みが絶えません。
その根本には、現場で高く評価されやすい「プレイヤーとしての強み」と、管理職層に求められる「役割転換後の能力」との間に生じる構造的なギャップがあります。
「現場で成果を出す力」と、「組織や事業を構想し、人を動かし、変化をつくる力」は連続している部分もあれば、質的に異なる部分もあります。
この違いを見誤ると、「現場では優秀だったのに、なぜ管理職になるとうまくいかないのか」という問題が繰り返されることになります。
アセスメントデータ的に「社内評判が高く、順調に昇進候補として認識される層」は、一定の能力傾向が見られます。
もちろん、これはすべての人材に当てはまるものではありません。しかし、人材選抜を考えるうえでは、「現場で評価されやすい力」と「上位階層で新たに求められる力」の違いを丁寧に見ていく必要があります。
| 現場で評価されやすい能力 | |
| 情報理解力・分析力 | 与えられた情報や既存のフレームワークをもとに、状況を正しく理解し、必要な判断材料を整理する力。 |
| 執着・不屈性 | 目の前の目標や課されたミッションに対して、粘り強く取り組み、成果を出し切ろうとする力。 |
| ストレス耐性 | 組織のルールや期待を理解し、高ストレス化でも耐え抜く力。 |
「情報理解力・分析力」「執着・不屈性」「ストレス耐性」は組織にとって重要な能力です。むしろ、これらの力なしに現場で成果を出し続けることは困難です。
一方で管理職層には、これらに加えて、次のような力が求められるようになります。
| 管理職層で新たに求められる能力 | |
| 変革創造の力 | 前例・正解のない中で、「そもそも何が本質的な問題なのか」「どこを目指すべきなのか」を自ら定義する力。 |
| 挑戦への姿勢 | 既存のやり方を前提とせず、環境変化を捉えながら、必要に応じて仕組みや事業のあり方を見直す力。 |
| 対人影響・協働促進の力 | 利害や価値観が異なる関係者と向き合い、自らの考えを示しながら、合意形成や協働を進める力。 |
従来の人事考課制度では、「今期のPDCAを既存ルールの中で確実に回す力」に長けた人材が評価されやすい傾向があります。
しかし、変化の激しい時代に必要なのは、既存の延長線上で成果を積み上げる力だけではありません。
三年後、五年後の環境変化を見据え、非連続な変化に向き合いながら、組織と人を成長させていく力が求められます。
つまり、現場で高く評価されてきた人材がリーダーとしてつまずくのは、本人の能力が低いからではありません。
多くの場合、これまで現場で求められてきた役割と、新たに担う役割との間に、求められる視座・能力・行動様式の違いが存在するからです。
この違いを見極め、必要な成長機会を設計することこそが、人事と経営に求められる人選力です。
多くの企業では、「専門知識」や「過去の売上・成果」といった過去の貢献を根拠に昇格を決める一方で、昇格後には「経営視点がない」「リーダーとしてのポテンシャルが足りない」といった将来役割への適応力を問うことがあります。これは、本人からすれば非常に不条理です。
過去の貢献を評価されて昇格したにもかかわらず、昇格後にはまったく異なる物差しで評価される。しかも、その物差しが事前に十分に示されていなければ、本人は何を準備すればよかったのか分かりません。
昇進昇格とは、過去の精算ではなく、これから担ってほしい役割への期待であり、将来価値に対する先行投資です。だからこそ、人事・経営・現場は、次の問いを共有しておく必要があります。
人選とは、未来の役割を見据え、その人の可能性をどう育て、どう活かすかを考える営みです。
人選の精度を阻害している要因は、アセスメント評価ツールそのものだけではありません。
むしろ、より大きな問題は、人事・経営・現場が人材をどのように捉え、どのように対話し、どのように運用しているかという「姿勢」にあります。
特に、次の五つの課題は、多くの企業で繰り返し見られます。
「マネジメント力」「ポテンシャル」「リーダーシップ」「変革人材」「経営視点」といった言葉は、多くの企業で日常的に使われています。
しかし、それらが自社において具体的に何を意味するのかまで定義されているケースは多くありません。
例えば、「マネジメント力」とは何でしょうか。業績管理でしょうか。部下育成でしょうか。組織課題の設定でしょうか。関係者を巻き込む力でしょうか。あるいは、事業の未来を構想する力でしょうか。
言葉が曖昧なままでは、評価者ごとに解釈が異なり、人選は主観や好みに左右されます。
人材要件とは、美しい言葉を並べることではありません。自社がどのような人材に未来を託したいのかを、具体的な行動や判断場面に落とし込み、関係者が共有できる状態にすることです。
昇進審査の最終局面になって初めて、「今回の役職には変革思考が必要です」「経営視点が求められます」と人材像が伝えられるケースがあります。
しかし社員は「それならもっと早く言ってほしかった」とモヤモヤします。
普段の仕事で何を意識すればよいのか。どのような経験を積めばよいのか。どのような場面で、上位階層に必要な力を発揮すればよいのか……。それらが事前に示されていなければ、人材選抜は後出しジャンケンになります。
人選の納得感は、選考当日の公正さだけで決まるものではありません。むしろ、選考に至るまでの時間の中で、どれだけ求めるリーダー像や成長期待を発信し続けてきたかによって決まります。
経営陣が「自律型・変革型のリーダーが必要だ」と語りながら、実際の昇進選考では、社内調整が得意で、上位者の意向を正確に忖度し、目先の数字を落とさない人材を選び続けているケースがあります。
このとき、社員は経営メッセージそのものではなく、人選結果から組織の本音を学習します。
このような学習が組織に広がると、どれほど立派な人材要件を掲げても、実際の行動変容にはつながりません。人選は、経営の意思表示です。誰を選ぶかは、組織が何を重視しているのかを最も端的に示します。
役職に就いてから「さて、どうやってマネジメントを教えようか」と考えるのでは遅い場合があります。
昇格を未来の役割への挑戦と捉えるならば、候補者の段階から、上位階層の視座や課題に触れる機会を意図的に設計する必要があります。
例えば、次のような機会です。
重要なのは、単に難しい仕事を任せることではありません。本人にとっての新規性や葛藤があり、視座や行動様式の転換を促す経験であることです。
人は、役割を与えられてから急に成長するのではありません。役割を担う前から、その役割に近い経験に触れることで、少しずつ器を広げていきます。
採用、日々の人事評価、研修、配置、昇格審査、サクセッションプランが、それぞれ別々の思想や基準で運用されている企業も少なくありません。
このように施策が分断されていると、社員には一貫したメッセージが伝わりません。
人材要件は、制度の飾りではありません。
採用、育成、評価、配置、昇格、後継者育成をつなぐ背骨です。人選力を高めるためには、個別施策を整えるだけでなく、それらを貫く人材思想と運用ストーリーを設計する必要があります。
では、具体的に何を指標とし、どのように測定すればよいのでしょうか。
アセスメント評価の観点は、時代とともに変化してきました。かつては知識や経験、現在は成果行動やコンピテンシー、そして近年では、未知の環境で価値を生み出す力や成長可能性が重視されるようになっています。
ここでは、その変遷を「アセスメント1.0から3.0」として整理します。
これからの時代の人選に必要なのは、単なる能力判定ではありません。
その人がどのような環境で伸びるのか、どのような役割を託せるのか、どのような経験を通じて器を広げていけるのかを見立てることが大切です。
アセスメント3.0の観点では、目に見えやすい表面的な知識・スキルだけでなく、その下にあるコア能力や、能力発揮に繋がる内面の構造(=プロフィール)を見極めることが重要になります。
以下は、人材要件を階層的に捉えるための「五階層モデル」です。
このモデルで重要なのは、変化しやすい知識・スキル(App)を軽視することではありません。専門知識や業務経験は、成果を出すうえで今なお不可欠です。ただし、上位階層になるほど、特定の業務知識や過去の成功パターンだけでは成果を再現できなくなります。
環境が変わり、前提が変わり、関係者が変わる中でも、自ら課題を捉え直し、人と協働し、学び続けながら価値を生み出せるか。その土台となるのが、思考・対人・姿勢からなるコア能力であり、さらにその奥にある人格的基盤や志です。
つまり、人選において見るべきものは、単に「できること」だけではありません。その人が、何を大切にし、どのように学び、どのような役割を引き受けようとしているのかまで含めて理解する必要があります。
どの評価手法も万能ではありません。重要なのは、それぞれの特性を理解し、目的に応じて適切に組み合わせることです。
| 人事考課(日常の業績・行動評価) | |
| 測定が得意な領域 | 現在の職務における成果、業務遂行力、日常行動、社内での貢献度を把握することに適している。 |
| 限界・注意点 | 現在の職務や上司との関係性に強く影響される。また、評価者の甘辛や部門ごとの基準差も生じやすく、上位階層での適性や未知の環境での可能性までは十分に測れないことがある。 |
| 人選における主な役割 | 過去・現在の貢献を確認し、昇格候補者を検討するための重要な材料になる。ただし、それだけで将来役割への適性を判断するのではなく、他の評価情報と組み合わせて見る必要がある。 |
| 360度評価(多面観察) | |
| 測定が得意な領域 | 上司・同僚・部下など、周囲から見た日常の行動傾向や関係性の特徴を把握することに適している。 |
| 限界・注意点 | 評価者が評価の専門家ではないため、好き嫌いや人気、関係性の近さに影響されることがある。また、未来の役割への適性を直接測定するのは難しい。 |
| 人選における主な役割 | 本人の自己認知を促し、日常行動や対人関係上の強み・課題を把握する材料として有効。選抜だけでなく、育成やフィードバックに活用することで効果が高まる。 |
| アセスメントセンター(シミュレーション演習) | |
| 測定が得意な領域 | 上位職レベルの疑似体験を通じて、未知の課題への向き合い方、課題設定力、対人影響力、意思決定、学習姿勢などを観察することに適している。 |
| 限界・注意点 | 専門的な設計・評価ノウハウが必要であり、一定のコストがかかる。また、日常の業務知識や現場での実績をそのまま測るものではない。 |
| 人選における主な役割 | 将来の役割に対する適性や成長可能性を客観的に把握するための材料となる。ただし、アセスメント結果は合否判定のためだけに使うのではなく、配置・育成・経験機会設計につなげることが重要。 |
アセスメントセンターで評価する際は、「現場評価は高いのに、アセスメントセンターの評価が低い」、あるいはその逆の結果が出る理由を理解する必要があります。
ここを抑えておかないと、人選の運用において最も現場が混乱しやすく、人事への不信感が生まれやすいです。
まず結論を言うと、アセスメントセンター評価と現場評価のズレは、必ずしも評価の失敗ではなく、むしろ、測定している時間軸と領域が異なるからこそ生じる、当然のギャップです。
したがって、両者の結果が一致しないこと自体に問題があるのではなく、そのズレをどう読み解き、どう見立てるかが重要になります。
以下に、アセスメントセンター評価と現場評価のズレごとに、「役割転換・要育成ゾーン」と「活躍機会・環境再設計ゾーン」に分けて整理しました。
現場では高い成果を上げ、周囲からも優秀な人材として評価されている一方で、アセスメント評価では管理職層に必要なコア能力や役割転換力に課題が見られる領域です。
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内容 |
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| 構造 |
• 現在の業務や慣れ親しんだ環境では高い成果を出しているものの、抽象度の高い課題設定、関係者を巻き込む力、未知のテーマへの対応などに課題が見られる状態 • 「能力がない」という意味ではなく、これまでの経験環境の中で、管理職層に必要な力を発揮する機会が十分になかった可能性もある |
| 留意点 |
• 過去の実績だけを根拠に管理職へ登用するとプレイヤー時代の成功パターンに固執し、細かな指示やマイクロマネジメントに陥る可能性がある • その結果、本人も苦しみ、組織のパフォーマンスも下がることがある |
| 対応策 |
• 即時の昇格可否だけで判断するのではなく、上位階層に向けた準備期間や成長機会を設計する • 例えば、部門横断プロジェクト、後輩育成、経営課題に関する提言機会などを通じて、役割転換に必要な力を育てることが有効 |
| その他 |
管理職だけが唯一のキャリアではない。専門性を活かしたプロフェッショナルキャリアの可能性も含め、その人が最も価値を発揮できる役割を見立てることが重要となる。 |
高い思考力や課題設定力、変化への適応力を持ちながら、現在の職場では十分に成果として発揮されていない領域です。
| 内容 | |
| 構造 |
• 本人の能力や可能性はあるものの、現在の業務内容、上司との関係性、職場環境、ミッションの性質などが合っていないことも • 既存業務を安定的に回すことよりも、曖昧な課題を構造化したり、新しいテーマに挑戦したりする場面で力を発揮するタイプの可能性もある |
| 留意点 | • 現場の「今成果が出ていない」という評価だけで候補から外してしまうと、本来は変革や新規テーマを担える人材を見逃すことになる。組織にとって大きな機会損失となるので注意 |
| 対応策 |
• 人材の可能性は、本人の中だけでなく環境や役割との関係性の中で開かれるもの。「なぜ現在の環境では力が発揮されていないのか」を丁寧に見立てることが大切 • 現場評価だけで決めつけず、配置転換、ミッション変更、新規プロジェクトへのアサインなどを検討する |
「役割転換・要育成ゾーン」と「活躍機会・環境再設計ゾーン」で生じる評価の乖離は、単なる評価のズレではありません。
それは、自社の人材を見る目を問い直すための重要な組織シグナルです。
人事と現場責任者が人材会議でこの二つのゾーンについて膝を突き合わせて議論することは、自社の人材要件や評価基準の目線を合わせる貴重な機会になります。
人選力とは、データを見て機械的に合否を決める力ではありません。データを起点に、その人の過去・現在・未来を立体的に捉え、どのような役割や環境で力を発揮できるのかを考える力です。
人選の精度を高めるには、データを正確に測る「見抜き」と、そのデータをもとに「どう活かし、どこに配置し、どのように育成するか」を考える「見立て」のプロセスを明確に分ける必要があります。
「見抜き」とは、人の特徴や能力を客観的に理解することです。
「見立て」とは、その人がどのような環境で活躍し、どのような経験によって成長するのかを構想することです。
多くの企業は、アセスメントを導入すると人選精度が自動的に高まると考えがちです。
しかし、データが増えるだけでは人選はよくなりません。むしろ重要なのは、得られたデータをどのように解釈し、どのような対話につなげるかです。
この「見立て」を組織的に行うための有効なツールが、9Blocksです。
横軸に「現場での実績・パフォーマンス」、縦軸に「アセスメント等で測定したポテンシャル・コア能力」を置き、人材を九つの領域にマッピングします。
9Blocksを活用することで、特に注目すべき二つの乖離を抽出し、人事と現場で質の高い人材会議を行うことが可能になります。
| 内容 | |
| 実態 | • 現在の業務や環境では高い成果を上げているものの、未知の課題や上位階層の視座においては課題が見られる人材 |
| 見立て |
• 昇格だけを考えるのではなく、どのような経験があれば上位階層の役割に近付けるのかを検討する • 場合によっては、専門職としてのキャリアや、現在の強みをより活かせる役割を提示することも有効 |
「役割転換・要育成ゾーン」において重要なのは、「管理職に向いていない」と決めつけることではありません。どの役割であれば、その人の強みが最も活きるのかを考えることです。
| 内容 | |
| 実態 | • 高い思考力や課題設定力、変化対応力を持つものの、現在の部署や上司、業務内容との相性によって、成果として十分に表れていない人材 |
| 見立て |
• 現在の評価だけで判断せず、環境やミッションを変えることで力が発揮される可能性を検討 • 新規事業、変革プロジェクト、部門横断テーマなど、本人の強みが活きる場を再設計することが有効 |
「活躍機会・環境再設計ゾーン」で重要なのは、「成果が出ていないから候補外」と短絡的に判断しないことです。成果が出ていない背景に、環境要因や役割ミスマッチがないかを丁寧に見る必要があります。
単にテストの合否で一喜一憂するのではなく、9Blocks上で生じた評価ギャップを丹念に考察することこそが、組織開発や適材適所の本質的な鍵となります。
人材データは、人を序列化するためだけにあるのではありません。その人の可能性を理解し、活躍の場と成長機会を設計するためにあります。
どれほど高度なアセスメントツールや9Blocksを導入しても、選ばれた本人や現場が納得していなければ、仕組みは形骸化します。
人選は、人の未来に関わる重い意思決定です。だからこそ、公正性と納得感を高めるための運用設計が欠かせません。
ここでは、人選の納得感を支える四つの実務的観点を整理します。
選抜の透明性とは、単に選考結果を公開することではありません。
重要なのは、どのような「リーダー」を求めているのか、何をどのような観点で評価するのかを、選考のかなり手前の段階から発信しておくことです。
人選は情報格差が大きいほど不信感を生みます。
逆に、求める姿や評価観点が事前に共有されていれば、結果に対する納得感だけでなく、本人の成長意欲も高まります。
アセスメント結果や不合格の通知を、単なる合否連絡で終わらせることは大きな機会損失です。
アセスメントは、本人の強みや課題、思考・対人行動の特徴を可視化する貴重な機会です。選抜と育成は、本来切り離されるものではありません。
特に不合格者へのフィードバックでは、本人の人格や努力を否定するような伝え方を避ける必要があります。
伝えるべきは、「あなたはダメだ」という評価ではありません。「次の役割に向けて、どこを伸ばす必要があるのか」という成長課題です。
フィードバックの質は、その後の成長意欲を大きく左右します。誠実なフィードバックは、人選の納得感を高めるだけでなく、本人の成長を促す重要な介入です。
アセスメントや選抜を、人事部門だけの密室イベントにしてはなりません。人選は、経営の意思決定であり、現場の育成責任とも深く関わります。
そのため、経営陣や事業部長クラスを設計・運用プロセスに巻き込み、組織全体で人材を見る目を育てていく必要があります。
人選の目線合わせとは、単に評価基準を揃えることではありません。
自社がどのような未来を目指し、その未来を誰にどう託していくのかを、経営・人事・現場で対話することです。
評価の公平性を担保するためには、人間の知覚バイアス(アンコンシャス・バイアス)を排除する仕組みと、制度そのものを更新し続けるサイクルが必要です。
人は誰しも、無意識の偏りを持っています。声の大きい部門の候補者が目立つ。直近の成功や失敗に引きずられる。自分に似たタイプを高く評価する。扱いやすい人材を優秀と見なすなど……こうした偏りは、放置すれば人選の質を下げます。
公平性とは、全員を同じように扱うことではありません。
一人ひとりの可能性が、不必要な偏見や情報格差によって閉ざされないようにすることです。
アセスメント結果を本人の直属上長へ共有する際、人事が最も注意すべきなのは、上長が結果を単なる合否やレッテルとして受け止めてしまうことです。
「この人はポテンシャルが低い」
「この人は管理職に向いていない」
「アセスメント結果が低いから育成しても見込みはない」
このような受け止め方が広がると、アセスメントは人を育てるための道具ではなく、人を固定的に判断するための道具になってしまいます。
だからこそ人事は、上長に対してアセスメント結果の意味と活用方法を丁寧に伝える必要があります。
アセスメント結果は、本人の全人格や日常の努力を否定するものではありません。
上位階層の役割や未知の環境に直面した際、どのような行動傾向が現れやすいかを客観視するためのデータです。
したがって、人事は上長には次のように伝える必要があります。
あくまでもアセスメント結果は、本人を評価する終点ではなく育成を始める起点です。
現場評価とアセスメント結果に乖離がある場合、そのズレは本人だけの問題ではありません。
上長自身の評価の癖や、職場の評価基準を見直す機会でもあります。
例えば、上長に対しては次のような問いが有効です。
アセスメント結果は、候補者本人を映す鏡であると同時に、上長や組織の人材観を映す鏡でもあります。
アセスメント結果が低かった場合、「この人は難しい」で終わらせてはいけません。重要なのは、本人の成長課題に応じてどのような経験を設計するかです。
例えば、課題設定力に課題があるなら、既存業務の改善だけでなく、曖昧なテーマを構造化する機会を与える。
対人影響力に課題があるなら、利害が異なる関係者を巻き込むプロジェクトを任せる。視座に課題があるなら、部門を超えた経営課題に触れる場をつくる。
タフアサインメントとは、単に負荷の高い仕事を与えることではありません。
本人にとっての新規性や葛藤を含み、上位階層に必要な力を引き出す経験機会です。
ここにおいて上長は、日常業務の中でその機会を設計する重要な存在です。
アセスメント結果を最も有効に活かすためには、人事・上長・本人が共通の成長ストーリーを持つことが重要です。
| 各者の成長ストーリー | |
| 本人 | 自分の強みと課題を理解する。 |
| 上長 | 日常業務の中で成長機会を設計する。 |
| 人事 | 配置・研修・評価・サクセッションと接続する。 |
この三者が分断されていると、アセスメント結果は一度きりのイベントで終わります。
逆に、三者が同じ方向を向けば、アセスメントは本人のキャリア開発と組織の人材育成をつなぐ強力な接点になります。
人選の目的は、誰かを選び、誰かを落とすことだけではありません。一人ひとりの可能性を理解し、それぞれにふさわしい成長機会を設計することです。
ビジネス環境が激しく変化する中で、過去の成功体験の延長にある人選を続けていては、組織の未来を切り拓くリーダーは生まれません。
一方で、人に関する意思決定に、唯一絶対の正解があるわけでもありません。
人は環境によって変わり、経験によって成長し、役割との出会いによって新しい力を発揮する存在だからです。
人選とは、単に優秀な人を選ぶことではありません。
「この組織は、どのような未来を目指すのか」
「その未来を、誰に託すのか」
「その人が力を発揮するために、どのような経験や環境を用意するのか」
ということを問い続ける営みです。その一つひとつの問いに、組織の思想や価値観は表れます。
だからこそ人選において大切なのは、完璧な判定を目指すことではなく、外してはならない原則を持ち続けることです。
それゆえに人選は人事施策にとどまらず、それは経営そのものです。
そしてアセスメントとは、人を序列化する方法ではなく、人の可能性を理解し、未来へつなぐための対話の起点です。
「見抜く」だけで終わらせず、「見立て」、育て、活かす。
その積み重ねが、納得感のある人選を生み、次代を担うリーダーを育て、組織の未来を形づくっていくのです。