コラム|株式会社リードクリエイト

リーダー選抜・育成の原理原則と実践ロードマップ|コラム|株式会社リードクリエイト

作成者: LEAD CREATE|2026.05.25

はじめに

リーダー選抜・育成の「方法論疲れ」が蔓延している

「次世代リーダー育成を強化したい」
「管理職研修を見直したい」
「サクセッションプランを機能させたい」

 

人事の方と話していると、こうしたテーマを耳にしない日はありません。

 

一方で現場は、閉塞感が漂っています。

「研修を実施しても行動が変わらない」
「タレントマネジメントを導入しても活用が定着しない」
「サクセッションも、候補者リストの更新で止まってしまう」

 

このような状況において、多くの企業は書籍や成功事例を参考にしながら、「リーダー選抜・育成の新しい方法論」を探し始めます。

 

しかし、ここで一つ、見落とされがちな事実があります。他社の成功事例を真似ることは、一見合理的に見えながら、本来、自社独自の人材戦略を構築するという意味では、逆行している可能性があるということです。

どの企業も、目指す未来・事業戦略・組織文化は違います。

にもかかわらず、同じ育成施策、同じ評価制度に向かえば、結果として「人材戦略の同質化」が起きていきます。

 

もちろん、研修も、アセスメントも、サクセッションプランも重要です。問題は、施策導入そのものが目的化してしまうことです。

本来、リーダー選抜・育成とは、「何を導入するか」ではなく、「この組織は、誰に未来を託したいのか」を問う営みのはずです。その問いから逸脱した瞬間、組織は静かに“方法論疲れ”へ向かっていきます。

リーダー選抜・育成で真に問うべきは「何のための組織か」

では、これからの企業は、何を目指すべきなのでしょうか。

売上を伸ばすこと。利益を生み出すこと。企業価値を高めること。もちろん、それらは企業経営において極めて重要です。しかし、本当にそれだけなのでしょうか。

 

人は、給与のためだけに働いている訳ではありません。

誰かに必要とされること。仲間と何かを成し遂げること。自身の成長を実感できること。社会に対して意味ある仕事をしていると思えること。そうした実感が、人のエネルギーや幸福感に深く関わっています。

 

だからこそ、組織には、単なる利益創出機能を超えた存在意義があるといえます。企業とは、「人が、人として生きる場」であるべきです。

この前提に立った瞬間、リーダー選抜・育成の意味も変わります。リーダーは、単に成果管理を行う存在ではありません。リーダーとは、組織文化を形成し、人の可能性を引き出し、組織の未来を方向付ける存在です。

 

つまり、「誰をリーダーとして選ぶのか」という問いは、そのまま、「この組織は、何を大切にして生きていくのか」という問いに直結している。

本コラムでは、この原点に立ち返りながら、これからの時代に求められるリーダー選抜・育成の本質について考えていきたいと思います。

 

1. リーダー選抜・育成のポイント

1-1. そもそもリーダーとは何か

かつてのリーダーに求められていたのは、「正しい答えを知っていること」でした。豊富な経験と知識を持ち、素早く的確な指示を出しながら組織を牽引していく。高度経済成長期のように、目指すべき成功パターンが共有されていた時代において、そのリーダー像は非常に合理的で機能的なものでした。

 

しかし現在、その前提は大きく覆されています。市場環境は複雑化し、変化のスピードは加速し続けています。さらに生成AIをはじめとする技術革新によって、「知識を多く持っていること」そのものの価値も変わり始めました。情報の収集や分析は、もはや人間だけの専売特許ではなくなったのです。

 

では、不確実で「正解」のないこれからの時代において、リーダーとは何か。ここでリーダーとは、「答えを与える人」ではなく、「本質的な問いを立て、未来を方向付ける人」とします。

―何を目指すのか
―本当に解くべき課題は何か
―私たちの組織は、何を大切にするのか


情報が溢れる現代だからこそ、「答えを知っている人」よりも、「進むべき道を照らす問いを持てる人」こそが、組織を真に前へと進める原動力になります。指示命令によって人を動かすことではなく、自らの思想に基づいた「問い」を組織に投げかけ、進むべき未来を指し示すこと。それこそが、これからのリーダーの在り方です。

 

リーダーの発する問いには、リーダー自身の価値観・思想・人間としての器が映し出されます。

 

これからのリーダー選抜においては、過去の成功体験や知識の量を測るだけでは意味をなしません。リーダー選抜では「その人はどのような問いを持ち、何を拠り所に意思決定を行うのか」という、思考の深さと判断の軸を見極める必要があります。

1-2. リーダー選抜では「見えやすい能力」ではなく「本質的な能力」を見抜こう

リーダー選抜において多くの企業が陥りやすいのは、「見えやすい能力」に目が向かいがちになることです。パソコンで例えるなら「App」です。

プレゼンがうまい、頭の回転が速い、専門知識が豊富、営業成績が高いなど――これらは確かに重要です。しかし、それらはあくまで「App」のようなものです。役割や環境によって価値が変わり得る、比較的表層的な機能です。

一方、本当に見るべきなのは、その土台となる「本質的な能力」、パソコンで例えるならば「OS」です。


例えば、強い専門性を持っていても、変化を受け入れられなければ環境変化に適応できないかもしれない。高い成果を出していても、他者を活かせなければ、より大きな組織を率いる段階で限界を迎える可能性があります。

 

さらに、価値観やコミットメントの強さも、このOS領域に含まれます。

―何を大切にする人なのか
―困難な局面で、何を守ろうとするのか
―どこまで責任を引き受けるのか

 

こうした領域は、短期的なスキル変化に左右されにくく、役割が変わっても比較的再現性を持ちやすい。

だからこそ、リーダー選抜とは、「今、何ができるか」だけを見る営みではありません。その人の根底にあるOSを見極め、「環境が変わったときにも、どのように考え、動き続けられるか」を見ることが、本質的に重要です。

1-3. 「見抜き」と「見立て」を分ける

人材を見る上で、「見抜き」と「見立て」を分けて考えることが極めて重要です。この二つは似ているようで、本質的には異なる行為です。

まず、「見抜き」とは、その人の現在地を理解することです。つまり、“今のその人”を、できる限り客観的に理解しようとする営みです。

―どのような強みを持っているのか
―どのような思考傾向があるのか
―どのような場面で力を発揮しやすいのか
―どのような課題や行動特性を持っているのか

 

一方、「見立て」とは、“未来”を見る行為です。これは単なる診断ではありません。未来に対する仮説です。

―次の役割で活躍できるのか
―どのような配置で伸びるのか
―どのような経験が成長につながるのか

現実の組織では、この「見抜き」と「見立て」が混同されやすいので要注意です。

現在の成果が高いから、将来も優秀なリーダーになるだろう。逆に、今は目立たないから、可能性も低いだろう。そうした短絡的な判断が起きてしまうことがあります。

 

しかし、人の可能性は、環境や経験によって大きく変わる。だからこそ、本来のリーダー選抜・育成には、「正しく見抜く力」と同時に、「未来を見立てる力」が必要なのです。

人事に求められる専門性とは、単に評価を行うことではなく、「この人は、どのような環境で、どう成長していくのか」を、真剣に考え抜くことにあります。

1-4. 経営戦略から人材戦略を逆算するのが出発点

ここまで、リーダー選抜・育成における原理原則について述べてきました。では実際に、組織として何から始めるべきなのでしょうか。

その出発点は、「どのような未来を目指すのか」を明確にすることです。

 

一見、当たり前のようですが、現実には、この問いが曖昧なまま、人材施策だけが走っている企業は少なくありません。

しかし、
「自社は将来、どのような組織を目指すのか」
「そのために、どのようなリーダーが必要なのか」

が整理されていなければ、施策は点在し、部分最適に陥っていきます。

 

例えば、既存事業の安定運営フェーズなのか、事業変革や新規挑戦が求められるフェーズなのかによって、必要な人材像は当然変わる。だからこそ、人材戦略は、経営戦略から逆算されなければなりません。

未来像は何か、どのような価値で戦うのか、どの人材群を厚くするのか。ここから、人材ポートフォリオや要件定義、選抜・育成の設計がつながっていきます。

 

リーダー選抜・育成とは、本来、人事部だけのテーマではなく、経営そのもののテーマだといえます。

「誰に未来を託すのか」は、そのまま、「組織をどこへ向かわせるのか」という意思決定だからです。だからこそ、最初に必要なのは、施策選びではない。経営と人事が、「どのような未来をつくりたいのか」を本気で議論することなのです。

1-5. サクセッションプランでは「目指す理由」をつくる

リーダー選抜・育成の領域で、多くの人事が関心を持つ「サクセッションプラン」。

多くの企業では、後継者候補のリスト化や、Ready Now/Ready Soon といった管理フレームが中心になりがちです。もちろん、それらは重要です。しかしサクセッションの本質は、もう少し別のところにあります。

 

大前提として、上級役職や経営人材の育成主体は、経営でも人事でもなく、本人です。どれだけ精緻な育成スキームを用意しても、「会社が育ててくれる」という発想に陥った瞬間、この領域は機能しなくなる。なぜなら、経営人材とは、本来、自ら機会を掴み、自ら成長責任を負う存在だからです。

だからこそ、組織に求められるのは、「育てること」以上に、「目指す理由」と「成長環境」を設計することです。

―なぜ、その役割を担いたいのか
―なぜ、この組織の未来を背負いたいのか

 

その問いに、候補者本人が自分なりの意味付けができているか。その上で、組織は、経験設計、配置、挑戦機会を意図的に用意しなければなりません。

―どの修羅場を経験させるか
―どの役割変化を与えるか
―どのタイミングで責任を託すか

 

つまり、サクセッションとは、単なる候補者管理ではなく、「再現性の高い成長環境」を構築する営みなのです。Ready Now や後継者リストは、その結果として存在するものであって、本質ではありません。

本来のサクセッションとは、「この役割を、自ら目指したい」と思える環境をつくり、その上で、未来を担う人材が育っていく構造を設計することなのです。

2. リーダー選抜・育成改革の実践ロードマップ

ここまで、組織観、人間観、リーダー像、人選の本質について述べてきました。では実際に、企業は何から始めればよいのでしょうか。

重要なのは、「研修を導入する」「制度を改定する」といった単発施策から入らないことです。リーダー選抜・育成は、本来、複数の人事施策が一つの思想でつながって初めて機能するテーマです。

以下、実践に向けた全体ロードマップを提示します。

STEP1. 経営と人事が「組織の未来」について議論する

先述したように、リーダー選抜・育成の出発点は、「自社はどのような未来を目指すのか」を、経営と人事が本気で議論することです。

事業変革を目指すのか。安定成長を重視するのか。どの市場で、どの強みで戦うのか。

未来像が曖昧なままでは、必要なリーダー像も定まりません。人材戦略は、経営戦略から逆算されるべきものです。

STEP2. リーダー像を言語化する

次に、経営戦略から逆算して「自社にとってのリーダーとは何者か」を定義します。

ここで重要なのは、一般論のリーダーシップ論を持ち込まないこと。自社の戦略、文化、事業特性に照らして、どのような姿勢・思考・対人特性が求められるのかを言語化する。

「挑戦」「主体性」といった抽象語だけで終わらせず、自社の文脈に落とし込むことが要諦です。

STEP3. 人材要件を整理する

リーダー像が定まったら、それを人材要件へ構造化します。

ここで見るべきは、スキルだけではありません。成果、経験、知識といった「見えやすい能力」(App)領域に加え、姿勢、思考、対人、価値観、コミットメントといった「本質的な能力」(OS)領域まで整理する。

「今できること」と、「未来で活躍する可能性」を分けて考える視点も重要になります。

STEP4. 各人事施策を連動させて意味付ける

採用・評価・研修・サクセッションプランは、多くの企業では人事施策が分断されています。しかし、本来は、これらは一本の線でつながっているべきものです。選抜基準と評価基準は整合しているか。研修内容と配置方針は接続しているか。

施策単体の最適化ではなく、「人材戦略全体の一貫性」を設計することが重要です。

STEP5. 選抜基準と意思決定プロセスを透明化する

人選の納得感は、結果だけではなく、プロセスから生まれます。

何を基準に選ぶのか。誰が判断するのか。どのような議論を経て意思決定されるのか。もちろん、全情報を開示する必要はありません。しかし、「この組織は、どのような思想で人を選んでいるのか」が見えなければ、不信感は蓄積していきます。

人選の透明性とは、単なる公開性ではなく、「言行一致」の問題なのです。

STEP6. 候補人材の特性を「見抜く」

次に必要なのは、候補人材を正しく理解することです。

ここでは、「見抜き」と「見立て」を分けて考える視点が重要になります。

現在の特性、強み、課題を把握する「見抜き」。未来の可能性や適配置を考える「見立て」。

人材アセスメントや多面観察の価値は、単なる採点ではなく、この人間理解の高度化にあります。

STEP7. 育成機会やタフアサインメントに接続する

人は、研修だけでは変わりません。

役割変化、修羅場経験、責任範囲の拡大、新しい環境への挑戦。そうした経験設計の中で成長していきます。重要なのは、組織にとっての新規性ではなく、「本人にとっての新規性」を意図的に設計することです。

少し背伸びを要する挑戦と、適度な支援。この組み合わせが、成長の再現性を高めます。

STEP8. 定期的なモニタリング&フィードバックを行う

人材育成は、一度設計して終わるものではありません。

環境も、人も、組織も変化していく。だからこそ、定期的な振り返りと対話が必要になります。育成仮説は機能しているか。配置は適切か。本人の意思や成長実感はどう変化しているか。

モニタリングとは、管理ではなく、「成長と意思決定の質を高める対話」の営みです。

STEP9. 「言行一致」を点検する

最後に、最も重要な問いがあります。

―組織は、本当に、自ら掲げた価値観どおりに人を選び、育てているのか
―挑戦を掲げながら、安全運転人材を昇進させていないか
―主体性を求めながら、従順さを評価していないか

 

ここがズレた瞬間、どれだけ制度を整えても、組織は変わりません。

リーダー選抜・育成改革とは、結局のところ、「この組織は、何を正義とするのか」を問い続ける営みなのです。

そして、その問いから逃げないことこそ、人事と経営に求められる、本当の覚悟であるといえます。

3. リーダー育成が失敗する理由

3-1. 「育成=研修」になっているから育成が失敗する

多くの企業で、「人材育成」が「研修実施」と同義になっているように感じます。

管理職研修、次世代リーダー研修、選抜型プログラム。もちろん、学ぶ機会そのものは重要です。しかし研修だけで人が変わるほど、人間の成長は単純ではありません。

 

育成の失敗でよくあるのが、「研修直後だけ熱量が高い」という現象です。

受講直後は、「学びになった」「明日から実践したい」と語る。しかし数週間、数カ月が経つと、多くは元の行動に戻っていく。

なぜか。それは人の行動を最終的に規定するのは、知識だけではなく「環境」だからです。

どれだけ研修で理想論を学んでも、現場に戻れば、短期成果しか評価されない。挑戦すると減点される。忙しさの中で、新しい行動を試す余白がない。そうした状態では、行動変容の再現性は生まれません。

 

本来、育成とはもっと包括的な概念です。

評価・配置・異動・経験・役割・上司との関係性。それらを含めて、「どのような環境で、その人の成長を設計するのか」が育成の本質です。つまり、育成とは、単なるOff-JTではない。

「教えること」以上に、「成長せざるを得ない環境をどう設計するか」。そこまで含めて初めて、リーダー育成は機能し始めます。

3-2. リーダー育成では自分の成功体験を脱ぎ捨てる環境が必要

人は、いつ成長するのでしょうか。その起点の一つは、「揺らぎ」です。

ここでいう揺らぎとは、自分の価値観や行動、成功体験が、そのままでは通用しないかもしれないと気付く瞬間です。

 

現場で高い成果を出していた人が、管理職になって初めて、人を通じて成果を出す難しさに直面する。新しい役割に就き、自分の強みが通用しない感覚を味わう。

そうした経験の中で、人は初めて、自分自身と向き合い始めます。成長に必要なのは、単なる「混乱環境」ではありません。

 

重要なのは、期待成果、役割変化、職場環境の変化を、意図的に掛け合わせた“意味のある修羅場”です。そして、その修羅場を、単なる消耗で終わらせないためには、内省が欠かせません。

―なぜ、うまくいかなかったのか
―自分は何にとらわれていたのか
―本当は、どのようなリーダーでありたいのか

 

自己理解を深めることが、成長の起点になるのです。

この三つのバランスが重要です。安心だけでは、人は変わらない。緊張だけでは、人は潰れてしまう。

だからこそ、リーダー育成に必要なのは、「知識を与えること」だけではなく、自分自身と対峙し、少し背伸びした挑戦に向き合える環境を、どう設計するかということです。

4. リーダー選抜とは「経営の意思表明」である

ここでは、リーダー選抜において、人事がどう向き合うべきなのかを論じます。

4-1. 誰を昇進させるかで組織文化は決まる

究極的にいえば、組織における最も強いメッセージは、経営理念でも、行動指針でもなく、「誰を昇進させるか」です。

例えば、どれだけ「挑戦」を掲げても、実際に昇進するのが、失敗しない人、安全運転の人ばかりであれば、社員は必ず学習します。この会社で本当に評価されるのは、「挑戦」ではなく、「外さないこと」なのだと。

人は、会社の“建前”以上に、“実際の人選”を見ています。だからこそ、人選とは、単なる評価結果ではありません。「経営の意思表明」です。

―何を正義とするのか
―どのような価値観を重視するのか
―誰に未来を託したいのか

 

一方で、現実の組織では、人選が曖昧になりやすいです。評価制度は存在し、コンピテンシーも定義されているが、それでも最後は、「なんとなく優秀そう」「現場評価が高い」「上層部の印象がよい」といった暗黙知で決まってしまう場面も少なくありません。

 

もちろん、人を見ることは簡単ではありません。しかし、その難しさを理由に、“なんとなく人事”を続ければ、組織文化もまた、無自覚に形成されていきます。

 

人選とは、「人を選ぶ行為」である以上に、「組織の未来の文化を選ぶ行為」です。

だからこそ、リーダー選抜において最も重要なのは、制度の有無だけではなく、「組織として、何を本当に大切にしたいのか」が、言行一致しているかどうかです。

4-2. 経営層がリーダー選抜において重視すべき二つの軸

多くの企業で、昇進昇格が、無意識のうちに「過去の成果に対するご褒美」として運用されているように感じます。

営業成績が高い、実務能力が高い、長年組織に貢献してきたなど――もちろん、それらは重要です。しかし、本来の昇進とは、“過去への報酬”だけで決まるものではないはずです。

 

なぜなら、昇進とは、「役割の変化」だからです。

優秀なプレイヤーが、優秀な管理職になるとは限らない。自ら成果を出す力と、他者を通じて成果を生み出す力は、本質的に異なります。

ここには、リーダー選抜における重要な視点があります。

問題は、多くの人事が、前者だけに寄りやすいことです。「今できている人」に安心感があるのは自然です。しかし、次の役割で必要となる視座、意思決定、対人影響力、変化対応力まで含めて見なければ、本来のリーダー選抜にはなりません。

人選とは、「今の優秀さ」を測る行為ではなく、「未来を託せるか」を考える行為です。

だからこそ、昇進昇格は、ご褒美ではない。それは、組織が、「この人に、次の役割と未来を託す」と決める、極めて重い先行投資です。

4-3. リーダー選抜では「倫理」と「覚悟」が問われる

人選とは、「誰を選ぶか」を決める行為です。しかし同時に、「誰を選ばないか」を決める行為でもあります。だからこそ、リーダー選抜には強い倫理性が求められると思っています。

現実の組織では、昇進昇格や後継者選抜が、ときにブラックボックス化します。評価基準が曖昧なまま進む人事。上司の主観や空気感に左右される意思決定。説明責任のない配置変更。そうした状態が続けば、組織の中には、静かに不信感が蓄積していきます。

重要なのは、人は必ずしも「自分が選ばれなかったこと」だけに不満を持つ訳ではないということです。

むしろ、
「なぜ、その人が選ばれたのか分からない」
「何を基準に評価されているのか見えない」

という状態に、不信を抱く。つまり、人選において問われるのは、“納得感”なのです。

 

もちろん、全員が納得する完璧な人事など存在しません。人を見ることに絶対的な正解はない。だからこそ、人事や経営には、「どのような思想で人を選んでいるのか」を、一貫して示し続ける責任があります。

そして、その責任には、覚悟が伴います。

誰かに期待を託するということは、別の誰かには、「今回は違う」というメッセージを伝えることでもある。人選から逃げず、曖昧にせず、「何を正義とするのか」と向き合い続けること。それが、人事に求められる覚悟であり、組織文化を形づくる起点なのではないでしょうか。

5. リーダー選抜・育成におけるAI活用

5-1. AIは人事をどこまで代替するのか

生成AIの進化によって、人事の世界も大きく変わり始めています。評価コメントの生成、面接記録の要約、人材データ分析、離職予兆の検知。これまで人間が多くの時間をかけていた業務が、AIによって高速かつ高精度に処理されるようになってきました。この流れは、今後さらに加速していくでしょう。

 

実際、リードクリエイトも、アセスメント領域におけるAI活用を進めています。行動観察記録の補助、思考傾向分析、記録品質の向上など、AIは、人間の理解を高度化する可能性を持っていると感じています。いわば、「第三のアセッサー」のような存在です。

 

しかし一方で、「AIが人事を代替する」という表現には、少し違和感もあります。なぜなら、人事という営みは、本来、単なるデータ処理ではないからです。

同じ行動を取っていても、その背景にある意思は、人によって異なる。自信があるように見えて、実は強い不安を抱えていることもある。合理的な発言に見えて、根底には深い責任感や価値観が存在する場合もある。

 

つまり、人を見るとは、単なる情報分析ではなく、「文脈」を理解することなのです。だからこそ、私は、AI時代に問われるのは、「AIか人間か」という二項対立ではないと思っています。

AIをどう活かしながら、人間にしかできない理解や意思決定へつなげていくのか。その設計こそが、これからの人事、そしてリーダー選抜・育成における重要なテーマになっていくのではないでしょうか。

5-2. アセスメントの本質は「採点」ではない

「アセスメント」と聞くと、多くの人は、「評価」や「選別」を思い浮かべるかもしれません。
点数をつける。優秀な人を見極める。昇進候補を序列化する。確かに、それもアセスメントの役割の一つです。しかし本質は、単なる採点ではありません。

 

重要なのは、「人を理解すること」です。

人は、自分自身の行動を、必ずしも正確に理解できている訳ではありません。

―なぜ、あの場面で強く主張したのか
―なぜ、意思決定を先送りしたのか
―なぜ、人を巻き込めなかったのか

 

そこには、その人が無自覚に持っている思考の癖、価値観、行動パターンが存在しています。ここに、アセスメントの「見抜き」の意味があります。

単に能力を測ることではない。自分自身が無意識に規定している行動のメカニズムを知ることです。そして、その理解が、「気付き」へつながる。

 

自分の成長にとって、本当に重要な課題は何か。何を変えると、自分の可能性が開くのか。それが言語化され、自分事として腹落ちしたとき、初めて成長が始まる。つまり、アセスメントの本質とは、自己理解の支援なのです。

今の自分を受け止めること。その上で、「これから、どうありたいのか」と向き合うこと。

私は、人材評価とは、本来、人を固定化するためのものではなく、人の成長可能性に光を当てる営みであるべきだと思っています。

だからこそ、リーダー選抜・育成におけるアセスメントも、「何点だったか」だけではなく、「その人が、何に気付き、どう変わっていけるのか」という視点で捉える必要があるのではないでしょうか。

5-3. 勇気を伴う意思決定は人間の仕事

AIによって、多くのものが可視化される時代になりました。行動履歴、コミュニケーション量、評価傾向、エンゲージメント、離職予兆。これまで感覚的に捉えていたものが、データとして扱えるようになっています。

これは、人事にとって大きな進歩です。人間の主観や思い込みを補正し、より客観的な意思決定を支える可能性があるからです。

 

しかしどれだけ技術が進化しても、「人間理解」という営みそのものは残り続けます。なぜなら、人間の行動には、必ず“文脈”があるからです。

―なぜ、その場面で発言したのか
―なぜ、そこで黙ったのか
―なぜ、その人は強く反応したのか

 

その背景には、経験、価値観、感情、責任感、不安、信念といった、数値化しきれないものが存在しています。ここには、単なる分析を超えた、人間理解が必要になります。

リーダー選抜とは、能力評価である以前に、「どのような人間に未来を託すのか」を考える行為だと思っています。どれだけ優秀でも、倫理を欠けば、組織は壊れる。どれだけ論理的でも、他者への敬意がなければ、人はついてこない。だからこそ、人を見るとは、「何ができるか」だけを見ることではない。

―何を大切にする人なのか
―困難な局面で、どう振る舞うのか
―どのような意思を持っているのか

 

そこまで含めて理解しようとする姿勢が必要なのです。AIは、傾向を示し、理解を補助することはできる。しかし最後に、人の可能性を信じ、未来を託す判断を行うのは、人間です。

6. リーダー選抜・育成で「組織の意義」を問い直すべき理由

誰かと協力し、支え合い、共通の目的を持ちながら生きていく。家族、地域、仲間、そして組織。人は古くから、様々なコミュニティを形成することで、不安定な現実を乗り越えてきました。

そして今、その共同体の意味が、大きく変わろうとしています。地域とのつながりは弱まり、終身雇用の前提も揺らぎ、働き方も多様化した。

だからこそ逆説的に、企業という組織体が持つ意味は、以前よりも大きくなっています。単なる雇用の場ではなく、人が挑戦し、成長し、誰かと協力しながら、自らの存在価値を実感できる場として。

そう考えたとき、リーダー選抜や育成は、単なる人事施策ではなく、「どのような共同体をつくりたいのか」という組織の意思そのものに関わるテーマだといえます。

6-1. 株主価値だけでは、人はついてこない

企業である以上、利益を生み出すことは重要です。売上、利益率、ROE、生産性。経営において、数字を見ない訳にはいきません。

しかし近年、人事領域を見ていると、「測定できる成果」だけに過度に引っ張られている組織も少なくありません。KPIが細分化され、短期成果が強く求められ、いつの間にか、「何のために成果を出すのか」が見えづらくなっています。

もちろん、成果責任は必要です。しかし、人は、管理指標だけでは動きません。私が組織を見る上で重要だと思うのは、企業が社員に何を与えているかという視点です。

これらが失われた組織では、たとえ給与水準が高くても、人のエネルギーは長続きしません。株主価値と社員の幸福は、本来、対立概念ではないはずです。

持続的に成果を生み出す組織ほど、人が誇りを持ち、自分の仕事に意味を感じ、未来に希望を持てる状態をつくっています。

リーダー育成を考える際にも、「成果を出せる人を育てる」だけでは不十分です。人と組織の双方が持続的に発展できる関係性を、どう設計するのか。その問いが、これからの人事には求められています。

6-2. 組織とは「人が人として生きる場」である

組織は、単に業務を遂行し、利益を生み出すための装置ではありません。

組織とは、人が、自らの力を発揮し、誰かと協力しながら、社会に価値を生み出していく場。言い換えれば、「人が、人として生きる場」です。

 

だからこそ、リードクリエイトは、「自立協創型組織」という考え方を提唱しています。

ここでいう自立とは、「一人で何でもできること」ではありません。自ら考え、自ら意思を持ち、自らの役割に責任を持つことです。

そして協創とは、そうした自立した個が、互いの違いを活かしながら、新しい価値を共につくることです。その意味で、組織の持続的な発展において重要なのは、単なる制度設計や成果指標だけではありません。

―そこで働く社員や、その先にいる家族の幸福
―組織に所属していることへの誇り
―企業の目的やビジョンへの共感
―自身の仕事や役割への意味付け
―ともに働く仲間への敬意

 

こうしたものが、日々の仕事の中で実感できるかどうかです。そして、ここから、リーダー選抜・育成の意味が見えてきます。

どのような人を昇進させるのか。何を評価し、何を期待するのか。

それは単なる人事判断ではありません。「この組織は、どのような共同体でありたいのか」を示す行為です。

だからこそ、リーダー選抜・育成を含む人事施策も、単なる制度論ではなく、「人が人として生きられる組織とは何か」という問いから、改めて再定義する必要があるといえます。

6-3. あなたの組織は「考える人材」が育つ環境になっているか

「もっと主体性を持ってほしい」……多くの企業で、管理職や人事から聞かれる言葉です。しかし、その前に問うべきことがあります。果たして組織は、本当に「考える人材」が育つ環境になっているのか、ということです。

現代の組織には、無意識のうちに、人から思考を奪う構造が存在します。

―正解を早く出すことが求められる
―前例どおりに進める方が安全
―失敗すると評価が下がる
―上司の意向を読んだ方が仕事が進む

 

典型的なのが、「挑戦しろ」と言いながら、実際には失敗を減点する組織です。こうした環境の中では、人は次第に、「自分で考える」よりも、「間違えないこと」を優先するようになります。

新しいことに挑んだ結果の失敗は厳しく見られる。一方で、安全運転で前例を踏襲する行動は、大きな問題になりにくい。

そうなれば、人は「挑戦するより、外さない方が得だ」と合理的に学習します。ここに、現代組織の大きな矛盾があるのではないでしょうか。

 

人が考えなくなるのは、能力の問題だけではありません。むしろ、「考えなくても済む環境」「考えるほど損をする環境」が、人をそうさせている側面もある。

だからこそ、リーダー育成の出発点は、知識を教えることだけではなく、「自ら考え、意思を持って動くことが報われる環境になっているか」を、組織自身が問い直す必要があります。

従順な人材を増やすのか。それとも、自ら考え、他者を巻き込み、新しい価値を生み出せる人材を育てるのか。その選択が、組織の未来を大きく左右します。

最後に:これからの人事に求められること

本コラムでは、リーダー選抜・育成というテーマを起点に、組織の存在意義、真の自立、人選の意味、AI時代の人間理解まで、幅広く論じてきました。

結局のところ、私が最もお伝えしたかったことは、とてもシンプルです。

ということです。

誰を選ぶのか。何を評価するのか。どのような経験を与え、どのような未来を託すのか。

その問い一つひとつに、組織の思想や価値観は現れます。人事には、制度運営者にとどまらない役割がある。経営と向き合い、人と組織の未来を構想し、ときには耳の痛い問いを投げかける“参謀”としての役割です。

もちろん、それは簡単な仕事ではありません。正解のない時代において、人を見ることにも、人を育てることにも、絶対解は存在しない。

 

それでも、人を信じることを諦めてはなりません。

―人は、環境によって変わる
―人は、気付きによって成長する
―人は、自らの意思と、誰かとの協創の中で、想像以上の可能性を発揮できる

 

人事の皆さまには、方法論だけを追わず、「自社はどのような組織でありたいのか」「誰に未来を託したいのか」という問いと向き合ってほしいです。

リードクリエイトもまた、評価や育成という枠組みを超え、「人と組織の本質を問い続ける」存在でありたい。

その問いに、唯一の正解はありません。しかし、その問い続ける姿勢そのものが、組織の未来をつくっていくのではないでしょうか。