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次世代リーダー育成のための異動と配置~ジョブ型雇用のメリット・デメリット|コラム|株式会社リードクリエイト

作成者: LEAD CREATE|2023.09.27

従来のメンバーシップ型からジョブ型雇用への移行を進めている企業が多い中、「職務を規定すること」だけに留まっていると、諸々の人事施策が機能しなくなる恐れがあります。

メンバーシップ型からジョブ型雇用に移行するということは、「雇用と報酬の考え方を変えること」を意味し、人事の中央集権によって執り行われてきた異動や配置にも多大なる影響を及ぼします。その結果、次の経営を担う次世代リーダー育成にどのような影響をもたらすのかを理解し、適切な手立てを講じることが重要だと考えます。

ジョブ型雇用と「異動・配置」の関係

各社が導入に踏み切っているジョブ型雇用の制度は、単に「職務を規定する」だけの仕組みではありません。本来、職務を規定するということは、同時に勤務時間や勤務場所にも影響するものでもあり、何よりも、職務と報酬がセットになるという考え方がベースになっています。そのため、これまで執り行われてきた人事主導による異動や配置にも、どのような影響が生じるかを押さえておかなければなりません。

従来、多くの日本企業が採用してきたメンバーシップ型は、長期雇用が暗黙的に約束された仕組みであり、「職務が変わっても報酬は変わらない」という制度だからこそ、人事が主導する異動や配置に対しても、雇用と報酬が担保されるという信頼関係のもとに成立してきたと言えます。さらには、企業側にとっては自由に人的資本を再配置できるというメリットがあり、従業員側にとっては、志向するキャリアの自由度がなくなるというデメリットがあったとしても、長期雇用と報酬が保障されるというメリットが上回るということです。それだけ、従業員にとっての雇用と報酬が与えるインパクトは大きいと言えます。

そのため、ジョブ型への移行は、上述のメンバーシップ型にあった「雇用と報酬に対する信頼関係」という大前提が崩れることを意味し、異動や配置に対する考え方も根底から見直さなければなりません。今後起こり得る具体的なケースとして、「人事が勝手に決めた新たな配属先によって、報酬が下がる」という問題に直面するということが発生するため、異動や配置に対する方針や運用ルールは、より明確にしておかなければならないということです。

同時に「雇用」とは、企業と従業員間の契約である以上、法的側面の整備や社内規定、労働組合などの関係各所への丁寧な説明と対応は必須です。いずれにせよ、ジョブ型への移行へと進む日本企業が多い中で、これまでは人事の自由裁量によって為されてきた異動・配置の考え方を変えなければならないことは理解しておく必要があります。

異動・配置がもっていた人材育成上のメリット・デメリット

少なくとも、これまでは比較的自由に、人事の裁量によって異動や配置転換が為されてきましたが、人材育成という観点でのメリットを整理しておきたいと思います。様々な副次的効果が考えられますが、大きく3つのメリットがありました。


一方で、これまでの人事の中央集権的な異動・配置による人材育成上の弊害もありました。昨今の人事業界に溢れているキーワード、中でも「キャリア自律」「リスキリング」「ウェルビーイング」が声高に叫ばれている理由とも言い換えられますが、背景を含めてデメリットについて確認していきます。

ジョブ型雇用における次世代リーダー育成の課題

上述の通り、ジョブ型雇用を本格的に導入するということは、最低でも職務と報酬を規定することである以上、従来のような人事による一方的な異動や配置転換はやりにくくなると考えるのが自然です。ということは、デメリットが解消される一方で、本来もっていたメリットが損なわれるので、何かしらの手立てを講じなければなりません。

特に、経営を担う次世代リーダーの育成においては、多様な経験の付与が重要なファクターになるため、注視しなければなりません。ジョブ型制度の特性上、従業員は「単一職種、単一部門での経験に限定されやすくなる」ため、経営層が遭遇する「未経験、不慣れ」という環境からの学びはどうしても限定されてしまい、持つべき全社最適の視点は得がたくなってしまいます。

また、異動・配置・昇格などのすべてを現場に移管してしまうと、人事による戦略的な抜擢人事などができないため、ポストの入れ替わりが生じにくくなり、部門や職種によっては、マネジメント経験が積めない可能性が生じます。特定部門の若手層に、ポテンシャルを持った優秀な人材がいたとしても、ポストに空きが出ない以上はマネジメント経験が詰めないという隠れたリスクが生じるということです。「経験が人を育てる」という言葉があるように、マネジメント職に抜擢し、ストレッチな環境下で経験的に素養を磨くという仕掛けを検討する必要があるものと考えます。

経営を担う次世代リーダーの育成という観点では、どこかのタイミングで経営・人事がグリップすべきです。どれだけ遅くても、事業のPL責任を担う部門トップの候補人材くらいから、次期経営者を見据えや戦略的な育成が必須と言えます。経営トップの意思と権限のもと、本当の意味でのサクセッションプランを機能化させることが重要であると考えます。

問われるべきは「人事」の定義

これまで考察してきたように、ジョブ型によって異動や配置には大きな制約が生じます。言い換えれば、人事主導から現場主導へと人事権を移管するということです。だからこそ、サクセッションプランの重要性が高まっているのです。そして、サクセッションプランで外してはならないことは、重要なポジションに就いている現職の人物が、自分の後任となる候補人材の育成責任と任命責任を持つということです。

従来の人事の中央集権を前提としたメンバーシップ型の運用のままでは、先に挙げたキャリア自律やリスキリングが本質的に機能しない理由は概ね繋がったと思われますが、サクセッションプランも同様です。人事による中央集権的なものから、現場への人事責任の権限移譲を如何にして進められるかが課題であり、「手放す」ことに一歩踏み出せるかが鍵となるのだと考えます。

いま問われているのは、「人事」の再定義です。「人事イコール人事部門の仕事」という狭義の定義は捨てさらなければならない局面にあるということです。人事を「人の事に携わること」と捉えたときに、その当事者たる人物は経営者であり、現場マネジメント層であるはずなのです。従来の人事部門が主導する一括採用、年度イベントになっている一斉の配置転換や昇進昇格などは、少なくともジョブ型制度に相反するものとなっていることは明らかです。だからこそ、「人事」の範囲や対象、そして責任の所在を再定義しなければなりません。

今後の人材育成、その中でも特に次の経営を担う次世代リーダーの育成を検討する際には、導入している人事制度が与える影響を押さえたうえで、これまで広い概念の中での教育機会として機能していた異動や配置についても、そのあり方を根底から考え直さなければならないのです。

まとめ

この記事では、ジョブ型雇用における次世代リーダー育成の考え方に焦点を当てて解説しました。この記事を読んだ方が、少しでも次世代リーダー育成についての理解を深める力になれば幸いです。

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