現場も人事も「真面目で指示された仕事はきちんとこなす。だが、なぜそうするのかを自分の言葉で説明できない人が多い」と考えていました。
しかし、私たちリードクリエイトの別の切り口で見ていました。
まずは、その問題に切り込んでいくことから始めることにしました。
以上の状況を受けてリードクリエイトは、「このままでは将来的に、現場運営はできるが、事業を考えられる管理職が育たない状態になるのではないか」という危機感を人事部門に共有しました。
そして「昇格間際になってから矯正するのではなく、若手のうちから“あるべき思考様式”を身に付けさせる」という方向へと議論を進めていきました。
つまり「育成の起点を若手層まで前倒しする」という考え方です。
他方、現場のOJTに頼るだけでは、指導する側の思考様式が色濃く反映され、成果にばらつきが生じる心配がありました。そのため意図的に「考え方を鍛える場」を設計する必要性も伝え、「思考力の可視化」「体験を通じた理解促進」「職場実践による定着」に沿った中期プログラムを提案しました。
また、本施策を単なる研修機会の提供という文脈で捉えるのではなく、「会社の未来を牽引する管理職候補を意図的・計画的につくっていくための基盤づくり」として位置付け、人事部内は勿論のこと、上司や現場のメンバーにも共有することで施策のゴールの明確化を図りました。
一方で、社内からは様々な意見が出ました。
「生産部門だけを対象にするのは不公平ではないか」
「若手にそこまで求める必要があるのか」
「成果が見えるまで時間がかかる施策に投資ができるのか」
そのような意見に対し、昇格アセスメントデータという客観的事実や付け焼刃的に実施している直前対策の限界について論じながら、人事は冷静に、粘り強く対応しました。
そしてそれらを放置した場合の将来リスクを整理し、関係者へ丁寧に説明を重ねていきました。その結果、まずは部門や対象者数を限定し試行するという形で合意を取り付けることができました。
取り組みは、入社3~5年目のX生産部門の若手に始めました。約1年という時間軸の中で体験と振り返り、職場での実践を繰り返す設計です。
施策のファーストステップは思考力アセスメントです。受講者一人ひとりの思考特性を可視化することから始めました。受講者各々が自身の思考傾向を認識することは能力開発を効果的に進めていくためには重要なポイントです。
研修の設計にも工夫を設けました。一般的な思考プロセスは事前学習とし、研修ではまず「結論がある課題」を考える演習から始め、徐々に「結論がない課題」を考える演習へと段階を踏んでいく。正解を探すのではなく、前提を置き、自分なりに構造化し、仮説を立てるプロセスを体験的に学ぶ設計です。
その後は、定期的な研修の場と職場実践の場を繰り返しつつ、上司によるフォローも重ねながら、中期的な視点に則って施策を進めていきました。
変化は静かに、しかし着実に表れていきました。
受講者からは、「考える前に答えを探す癖や、先入観で結論を出している自分に気づいた」「周囲から考え方やプロセスが変わったと言われた」といった変化を認識する声が多く挙がりました。
上司側からも、「結論だけでなく理由や前提をセットで話すようになった」「打ち合わせで“なぜそう考えたのか”を説明する場面が増えた」といった報告も届きました。人事としても、若手段階から思考様式を扱うことの有効性を実感するようになりました。
とはいえ、課題も残っています。上司の関与度合いによって生まれた職場実践の質の差。また、忙しさを理由に振り返りが形骸化するケースも見られました。上司側の支援姿勢もさることながら、指導における上司の思考様式が色濃く反映されるため、その是正と均質化が課題です。
そのため、今後は上司向けガイドの整備や思考様式の共通言語化を進め、全社展開を進めていくことを検討しています。
施策実施から1年が経ち、一区切りを迎えましたが、この試みは終わりではありません。若手社員の「考える力」がどのように鍛えられ、やがて事業を牽引する人材となっていくのか。現場の日常と上司たちの関わり方が少しずつ変わることで、それは静かに紡がれていくはずです。