コラム

「思考停止ワード」の乱用が人の成長を妨げる

 取締役 吉田卓

小学2年生になる私の息子がサッカーにはまっており、親である私は、週末になると試合や練習の応援に明け暮れる日々を過ごしている。

私自身も学生時代、サッカーに没頭していたこともあり、戦術やフォーメーションの在り方については、それなりの持論があるのだが、コーチや父兄の指示内容を聞いていると、戦術以前に、成長を促す「教育」や「指導」の在り方として愕然とさせられることが少なくない。

「ガツガツいけ!」「サポートしろ!」「シュート打て!」「もっと動け!」

コーチや父兄から浴びせられる“善意ある”これらの言葉は、エスカレートしながら続いていく。さらに、試合終了後も「もっとガツガツいかないとボール取れないぞ」「もっと動いてあげないとダメだろ」と念押ししている。子供たちは終始困惑した表情だ。

ご承知の通り、この教育的指導で使用された“具体性に欠けた言葉”は、「分かったようで全く分からない」マジックワードと言われる。指導側はしっかり教育した“つもり”になっているが、マジックワードが使われている限り、実は「何も言っていないこと」と同義なのである。

他方、これまでの十数年間、人事・人材開発業に携わってきた者として強く感じることがある。ビジネスの世界でもサッカースクールと同様のことが日常茶飯事のように起きているということだ。

  • 「中堅社員のコミュニケーション能力をもっと改善させたい」
  • 「管理職のマネジメント力強化を本研修のねらいとしたい」
  • 「リーダーシップの向上に向けた取り組みを全社で推進することを予定している」

これらはお客様からよく受ける相談の一部である。お客様からご要望としてお受けすると、我々も理解した気になりがちだが、実は“サッカースクールのコーチや父兄”と全く変わらない「具体レベル」であると言ってよい。

私は立場上、コンサルタントや若手営業プランナーによく言っていることがある。

「お客様から業界特有の“5大マジックワード”と“5大禁句”が出てきたら要注意!」と。

業界特有の“5大マジックワード”とは・・・

 

  • 「リーダーシップ」
  • 「マネジメント」
  • 「モチベーション」
  • 「コミュニケーション」
  • 「グローバル」

 

そして“5大禁句”とは・・・

 

  • 「強化」
  • 「向上」
  • 「改善」
  • 「促進」
  • 「推進」

である。

最近では「タレントマネジメント」や「サクセッションプラン」など新しいマジックワードが使われたり、「標準化」「見える化」「効率化」などという10大禁句にも20大禁句にも発展していきそうな言葉が何となく使いっぱなしになったりしている。

何を言っているか分からない言葉」で分かった気になったり、伝えた気になったりしていることは、その時点で「思考停止」に陥っているということになる。解釈も定義も十人十色・百人百様の言葉を教育目標や育成方針に据えても結果的に何も実現しない。

つまり、前述の「コミュニケーション能力の改善」「マネジメント力の強化」「リーダーシップの向上」も、結局は「何も言っていないのと同様」と解釈される。

繰り返しになるが、これらの言葉は決して「使ってはいけない」というわけではない。「分かった気になりがちなので使い方に要注意」ということである。これらの言葉を使っている自分に気づいたら、「もっと具体的にならないか」と検証の視点を持つだけで、成果は格段に向上すると断言できる。

企業内人材開発を効果的に展開する上で、必ず押さえなければならないことは、「誰の、何を、どの水準まで、どうやって変えるのか」の明確化と合意形成である。それらに曖昧なところ、抽象的なところがなく、「誰が聞いても同じ解釈ができる」レベルまで具体性を持たせなければ、効果的なアクションにはつながらない。
そして、そこへの気づきを促していくことが我々の大きな使命の1つでもあるのだ。

息子のサッカーを応援することに熱狂し過ぎて、気がつけば「もっと動け!」とか「ガツガツ攻めろ!」と“善意ある教育的指導”をしてしまっている私自身への自戒の念も込めて・・・

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